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ミステリ小説│圱䜏かげずみ│第二十話「番倖線圱が生たれた日」【創䜜倧賞2026│ミステリ小説郚門】

     䞉十幎前の倏。
     圱䜏は、䞀幎で最も賑わう日を迎えおいた。
     神瀟の境内には色ずりどりの出店が䞊ぶ。
     綿あめ。かき氷。金魚すくい。
     人々の笑い声が絶えない。
     笛が鳎る。
     倪錓が響く。
     嚁勢のいい掛け声ずずもに、倧きな神茿が集萜を緎り歩いおいた。
    「わっしょいわっしょい」
     䜐枡䞭から人が集たる。
     圱䜏倧祭。
     毎幎八月に行われる、集萜最倧の祭だった。

     その䞭心に立぀男がいた。
     䞉浊。
     圱䜏の総代。
     神茿を芋送り、䞉浊は䞀人、人気のない神瀟の裏手ぞ入る。
     煙草を䞀本取り出した。
     火を぀ける。
     玫煙がゆっくり空ぞ昇っおいく。
    「ふう  」
     朝早くから動き続けおいた。
     食事もただだ。
     心地よい疲れが身䜓を包んでいた。

    「お疲れ様です」
     背埌から声がした。
     焌き鳥の出店から戻っおきた枡郚だった。
     片手にはお茶の入った玙コップ。
     もう片方には焌き鳥。
    「どうぞ」
    「悪いな」
     䞉浊は受け取る。
     二人は䞊んで腰を䞋ろした。
     どこからか、子どもたちの笑い声が聞こえた。
    「今幎が最埌だず思うず」
     枡郚がぜ぀りず蚀う。
    「寂しいですね」
     䞉浊は焌き鳥を䞀口食べた。
    「ああ」
     短く頷く。
    「そうだな」
     神茿を担ぐ若者は枛り、祭を支える人間も足りない。
     今幎限り。
     䞉浊は総代ずしお決断した。
     誰も反察はしなかった。
     誰もが分かっおいた。
     そしお䜕より。
     集萜党䜓が、䞉浊ずいう男を信頌しおいた。

     枡郚は思い出す。
     小孊生の頃。
     仲の良い友達が匕っ越した。
     䞭孊、高校。
     䞀人、たた䞀人。
     䜐枡を離れおいった。
     倧孊、専門孊校、就職。
     みんな蚀う。
    「たた戻っお来るから」
     誰䞀人。
     戻っお来なかった。
     最初は信じおいた。
     けれど。
     離れれば、人は垰っおこない。
     圱䜏を倧切に思うほど。
     䞀人いなくなるたび。
     胞の奥が削れおいくようだった。

    「こうやっお」
     枡郚は静かに蚀う。
    「少しず぀、䜕かがなくなっおいくんですね」
     䞉浊は少し笑った。
    「だったら」
     煙草を消す。
    「俺たちでできるこずを続けよう」
     立ち䞊がる。
    「集萜を盛り䞊げるんだ」
     祭囃子が響く。
    「たたい぀か」
     䞉浊は笑った。
    「もう䞀床、祭をやろう」
     枡郚はその暪顔を芋る。
    「はい」
     短く、そう返した。
     䞉浊は満足そうに頷く。
    「そろそろ戻る」
    「差し入れ、ありがずう」
     祭の茪ぞ戻っおいく。
     皆が笑顔で迎える。
     枡郚はその背䞭を芋送った。
    䞉浊さんがいれば
    もしかしたら
     枡郚は出店ぞ戻った。

     倜。
     花火が倜空を埋め尜くす。
     倧きな拍手。
     歓声。
     そしお。
     最埌を食る、特倧の䞉尺玉。
     䞀筋の光がゆるゆるず䞊る。
     金色の倧茪が倜空いっぱいに咲いた。
       ドン。
     はらはらず火花がほどけ、ゆっくり闇ぞ消えおいく。
     倜に静寂が戻った。
     䞉浊は人々の前ぞ立った。
    「皆さん」
     深く頭を䞋げる。
    「今幎で圱䜏倧祭は最埌になりたす」
     集萜䞭の人々が、䞉浊を芋おいた。
    「寂しいです」
    「悔しいです」
    「ですが」
     顔を䞊げる。
    「終わりではありたせん」
    「圱䜏を盛り䞊げたしょう」
    「たたい぀か、祭をやりたしょう」
    「その日たで、䞀緒に頑匵りたしょう」
     倧きな拍手が湧いた。
     枡郚も拍手を送る。
    この人ずなら
    圱䜏を守れる
     ――そう信じおいた。

     十幎埌。
     暑い倏の日の午埌。
     枡郚は䞉浊の家に呌び出された。
     䞉浊は台所で梚を剥いおいた。
    「座っおくれ」
     枡郚は怅子ぞ腰掛ける。
    「䜕かありたしたか」
     䞉浊は果物ナむフを眮いた。
    「東京ぞ行く」
     枡郚は固たる。
    「蚭備屋を始める」
    「䜐枡の䌚瀟は若い連䞭に任せる」
    「俺は圱䜏を離れる」
    「  どうしおですか」
     䞉浊は少し黙る。
    「もう」
     静かに蚀った。
    「圱䜏は駄目だ」
    「人が離れるばかりだ」
    「俺は東京でもう䞀床頑匵る」
     枡郚は信じられなかった。
    「祭は」
     震える声。
    「どうするんですか」
     䞉浊は笑わなかった。
    「無理に決たっおる」
     その蚀葉に。
     あの日の総代はいなかった。
    「枡郚」
     䞉浊は梚を皿ぞ䞊べながら蚀う。
    「お前だっお」
     䞀床だけ振り返る。

    「もう圱䜏が終わりだっお分かるだろ」

     枡郚は答えられなかった。
     あの日。
     神瀟の裏で笑っおいた䞉浊の顔が、脳裏をよぎる。
     ――もう䞀床、祭をやろう。
     あの日の玄束は、音もなく厩れた。
     たた䞀぀、削れた。
     䜕床目だろう。
     もう、䜕も残っおいなかった。

     机の䞊。
     果物ナむフ。
     枡郚は手に取る。
     䞀歩。
     たた䞀歩。
     䞉浊の背埌ぞ。
     そしお。
     ――刺した。
     䞀回。
     二回。
     䞉回。
     止たらない。
     䜕床も。
     䜕十回も。
     気づけば。
     䞉浊は血だたりの䞭で動かなくなっおいた。

     枡郚は立ち尜くす。
     息が荒い。
     自分の肩が䞊䞋しおいるこずに気づいた。
     血を芋぀める。
     そしお。
     思った。
    死ねば
    離れない
     ――ずっず圱䜏に残る。

     枡郚は本間ぞ電話をかけた。
    「匟さんず」
    「䞉浊さんが揉めおるみたいです」
    「様子を芋に行っおあげおください」

     倜。
     サむレンが鳎る。
     赀色灯が集萜を照らす。
     救急車。
     パトカヌ。
     運ばれおいく䞉浊の遺䜓。
     枡郚は静かに芋送っおいた。
      違う
     思う。
    譊察に芋぀かれば
    持っおいかれる
     その瞬間。
     䞀぀の答えに蟿り着いた。
    なら
    殺した人間を
    家に隠せばいい
    誰もいなくならない
     圱䜏は、枛らない。
     枡郚は埮笑んだ。

     この日。
     ――圱䜏に、䞀぀の圱が生たれた。

    #創䜜倧賞2026 #ミステリヌ小説郚門

     
     
    䜐枡島圚䜏です。 小説を曞いおおりたす。 よろしくお願いいたしたす。

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