
茶の香りと金の匂い #3 選ばれた生徒
マカオでの研修が終わるまでの三日間。私は先生から送られてくる指示に従い、淡々と注文と決済を繰り返した。
朝。昼。そして夜。
LINEに届く指示に従いMetaTrader4で操作するだけ。それだけだった。
三日後、私は取引履歴を何度も見返していた。利益は24,240ドル。
私は思わず電卓を叩いた。日本円に換算すると、およそ260万円。計算が間違っているのではないかと思った。だが、何度計算しても結果は同じだった。
たった三日。しかも自分は何の知識も持たず、ただ指示に従っただけ。
MetaTrader4で取引することで普通の会社員の数か月分の収入に相当する金額を得られるなんて、常識では考えられなかった。
いったい何が起きているのだろう。私は改めて調べ始めた。
取引画面に表示されている「XAUUSD」という文字。それは金と米ドルの組み合わせを表す金融商品の名称だった。
XAUは金。USDは米ドル。
金価格の変動によって利益を狙う取引で、仕組みはFXに近いCFD取引だった。
専門用語だらけで半分も理解できなかったが、とにかく世界中で取引されている巨大な市場らしい。
しかし、一つ疑問が残った。そこまで利益が出るのなら、先生自身が取引すればいいのではないか。
私は香港の彼女へ尋ねてみた。すると、すぐに返事が来た。
「アナリストは自分で取引できないの」
理由はよく分からなかった。だが彼女の説明によれば、先生は十年以上この業界で働いており、相場分析と売買戦略の作成を専門としているらしい。
市場を分析し、利益目標を決め、リスクを管理し、最適な売買ポイントを生徒へ伝える。それが仕事だという。
そして生徒が利益を得た場合、その二割を報酬として受け取る。なるほど。そういうビジネスモデルなのか。
弁護士や税理士が報酬を受け取るように、投資の専門家も知識を提供して対価を得る。そう考えれば不自然ではない。むしろ合理的に思えた。
「あなたはどれくらい先生に教わっているの?」
そう聞くと、彼女は少し誇らしそうに答えた。
「もう三年になるわ」
さらに続ける。
「でも、生徒になれるまで二か月近くかかったの」
厳しい審査があるのだという。誰でも参加できるわけではない。先生に認められた人だけが指導を受けられる。そんな話だった。
私はスマートフォンの画面を見つめた。二か月。それだけ時間をかけて選ばれた生徒。三年間も続けている彼女。
そして、わずか三日で24000ドル以上の利益。
後になって振り返ると、その時の私は信じたかったのだ。この世界には、自分の知らない成功への近道が存在するのだと。