
陰陽師の隣で 第十話『最後の帰省』
私は、一度母を実家へ連れて帰る事を父へ相談してみた。
もちろん、
『陰陽師の先生が言っていたから』
なんて理由を話せば、否定派の父は間違いなく激怒するだろう。
だから私は、
「何十年も帰ってへんし、気分転換にもなるんちゃう?」
と、それらしい理由を並べた。
アルコール依存症は仕方ないとしても、毎日家で飲んだくれているより、一度実家へ帰って刺激を受けるのも悪くない。
そう父へ提案した。
すると意外にも、父は納得してくれた。
母へその話をすると、
「いつ帰るの?」
まるで子供のように目を輝かせた。
私は少し驚いた。
こんな嬉しそうな母を見るのは、初めてかもしれない。
昔の母は、過保護で過干渉で、とにかく厳しい人だった。
——陰陽師の先生は、この事を言っていたのだろうか。
そう思いながら、お盆の時期に私達家族は富山県へ帰省した。
母の実家はとにかく大きかった。
まるで旅館のような豪邸だ。
母の変なプライドの高さは、お嬢様育ちだったせいなのかもしれない。
伯母に案内され、先祖代々の墓がある場所まで向かった。
久しぶりに母方の先祖へ手を合わせる。
その後、二、三日ほど実家でゆっくり過ごし、私達は家へ帰った。
母は終始嬉しそうだった。
何十年も帰っていなかったのだから、よほど嬉しかったのだろう。
酒で酔い潰れている母は嫌いだった。
けれど、こんな顔を見ると——。
やはり連れて帰って良かったと思った。
——その三週間後。
母は亡くなった。
私は言葉を失った。
陰陽師の先生は、母の寿命まで視えていたのだろうか。
友人の件ではない。
今度は、私自身が怖くなった。