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【小説】弱小3年A組ヒーロー 〜俺たちのクラスを救ったのはたった1人の転校生だった〜 第4話

    俺たちが体育館の入り口に着くと、全学年のほぼ全てのクラスが既に集まっており、3ーAのスペースだけがぽっかりと空いていた。

    どこからともなく賑やかな会話や、学祭に対する盛り上がりを感じさせる雰囲気が漂っている。

    チーム長お披露目の独特の空気感と緊張感が体育館中を纏っているようだった。

    そんな雰囲気に飲み込まれるように、俺たちは体育館の入り口で立ち止まった。

    さっき覚悟を決めたはずなのに、俺の心の中には打ち消したはずの不安や恐怖が次々と湧いてくる。

    しっかりしろよ俺。

    大きく息を吐き、前に足を進めようとする俺の肩を誰かがポンと叩いた。

    「相澤君」

    驚いて振り向くと、そこにはニッコリ笑った安藤君が立っていた。

    「相澤君、背中に俺は不安ですって書いてあるよ!」

    そう言って安藤君はケラケラと笑った。

    「やっぱりバレた…?」

    「うん、バレバレだよ。背中曲がってる!笑」

    そう言って俺の曲がった背中を伸ばすようにさすってくれた。

    「…副チーム長なのに情けないよな。さっきまでこのクラスならいけるかもって自信が持てたはずなのに、いざこの場に来ると足がすくんじゃって。俺がステージに立つわけじゃないのにさ。」

    自虐的に笑う俺の顔を覗き込みながら安藤君は優しく背中をさすり続けてくれた。

    「さっきの相澤君、本当に格好良かったよ。うちのクラスにもこんな勇気のある人がいたんだって感動した。
    相澤君なら大丈夫。僕も、そしてみんなも協力するから。それに、きっと月城君は今1人で不安な気持ちでいると思う。
    だから僕たちみんなで月城君のお披露目を盛り上げよう?ねっ?」

    そうだ。
    俺ですらこんなに不安に押しつぶされそうなんだ、朝陽はこの俺の何倍も何十倍も不安な気持ちでいるはずだ。
    今俺に出来ることは、朝陽を盛り上げられるように皆を鼓舞することだ。
    俺は自分にそう言い聞かせ、大きく息を吸って後ろにいるクラスメイト達に向かって声を掛けた。

    「みんな!ここから先は他のチームの熱気に飲み込まれないように強い気持ちでいこう!俺らなら絶対に大丈夫だから。みんなで協力して俺たちの自慢のチーム長の朝陽を盛り上げよう!」

    「おう!」

    「任せろ!」

    「頑張ろう!」

    みんなは笑顔で大きく頷いてくれた。

    俺は1人じゃない、みんながいる。

    俺も気合いを入れ直し、一呼吸置いた後体育館に足を踏み入れた。

    その瞬間、先ほどまで騒がしかった体育館に一瞬の静寂が流れ、他のチームの視線が一気に集まった。

    「あれってもしかして噂の3ーA?」

    1、2年生からコソコソと話し声が聞こえる。

    怯まない怯まない…自分に言い聞かせる。

    そして俺らが3年のスペースに着くと同時に他のクラスの奴らは騒ぎ立てた。

    「おい、A組来たぞ!」

    待ってましたと言わんばかりに好奇の視線がこちらに集中した。

    何が面白いのかゲラゲラと俺らを見て笑っている。

    「マジかよ。お前ら全然来ないから逃げたのかと思ったわー!」

    「チーム長は誰だ誰だ〜?ここにいない奴…あっ俺そもそもA組に誰がいるかも知らないからわかんねーや。」

    「今頃お前らのチーム長怯えてチビってんじゃない?無事にステージに出て来れるといいな?」

    「いや、そもそもA組だけチーム長いない説もあるぞ!うちにはチーム長を出来る人間がいませーん。ごめんなさーい。ってステージで謝ってこいよ。」

    あははははは。体育館中からドカンと笑いが起こった。

    「なぁ、A組のチーム長出てきたらさ、みんなで冷やかしてやろうぜ!」

    「おぉいいねいいね。ってかもうそこの舞台袖にチーム長集まってるからA組のもいるんじゃね?
    おーい、A組のチーム長聞こえてるか〜?ちゃんとステージに出てこれまちゅか〜?」

    そう言って心底楽しそうに笑う奴らを見て、俺はもう我慢ができなかった。

    何も知らない奴らになんで朝陽がこんなこと言われなきゃならないんだよ…

    そう思った時には無意識に口から言葉が出ていた。

    「…うるせぇよ。」

    俺の一言に一瞬場が静まる。

    「はぁ?今お前なんて言った?」

    何人かが立ち上がってこっちに詰め寄ってくる。

    俺は拳を強く握りながらそいつらを見回して言う。

    「うるせぇって言ったんだよ!俺らのチーム長を馬鹿にすんな!うちのチーム長はお前らのチーム長に負けてない!俺らの自慢のチーム長だ!お前らにとやかく言われる筋合いはない!」

    俺のことは何を言われても構わない。

    だけど朝陽のことを馬鹿にされることだけは許せなかった。

    「っんだよ、相澤ごときが!晩年補欠野郎が調子に乗ってんじゃねぇぞ?」

    「俺らのチーム長に負けてないだ?アホかよ。A組ごときに俺らのチーム長より優れたやつがいるわけないだろ!冗談もほどほどにしとけよ!調子に乗んな。」

    そう言って何人かが俺に詰め寄ろうとしたとき、スッと俺の前に誰かが立ちはだかった。

    「おいおい。まさか高校生にもなって手を出す気じゃないよな?もしそのつもりなら相澤君じゃなく俺にしときな。」

    「なっなんだよお前…」

    そこに立ちはだかっていたのはうちのクラスの中でも一際体格の良い外山君だった。

    普段は無口でクールな外山君だから知らなかったけれど、さっきの自己紹介で格闘技をしていると言っていた。

    外山君は俺を庇うように両手を広げ、鋭い眼差しで睨みつけている。

    「先に喧嘩をふっかけてきたのは君たちだろう?相澤君は何も悪いことは言っていない。相澤君は副チーム長として当たり前のことを言ってくれただけだ。」

    外山君の発言に周りがザワつき始める。

    「…相澤が副チーム長…?」

    すると周りは一瞬目を見合わせると、吹き出しながら腹を抱えて笑い出した。

    「おいおい、相澤が副チーム長!?笑わせんなよ。お前マジかよ!相澤に頼らなきゃいけないチーム長ってどんだけ頼りないんだよ。」

    「さすがA組さん、期待を裏切らないわ。どんだけ弱小チーム長が出てくるか楽しみにしといてやるよ。」

    「相澤、まぁせいぜい頑張れよ!そしてお前のとこのチーム長がどれだけ他のチーム長と差があるのかしっかり見て勉強しとけよ。」

    そう吐き捨てるように言った後、俺たちを馬鹿にするようにヘラヘラと笑いながら戻っていった。

    なんなんだよ。なんでこんなことまで言われなきゃいけないんだよ。俺らが何したって言うんだ?

    馬鹿にされることには慣れているつもりだった。こんなのいつものこと。だけど、今回は今までに感じたことのないくらい腹が立った。悔しかった。まだ腹の虫が治らなかった。

    「お前ら良い加減に…」

    そう言って前に出ようとした俺の腕を外山君がグッと掴みながら、首を横に振った。

    「相澤君やめよう、あいつらと同じ土俵に立つのは。
    相澤君の気持ちは痛いほどわかるよ。
    俺だって今めちゃくちゃ腹が立ってる。
    でもここで俺らがムキになれば、それはアイツらの思う壺だよ。
    人を馬鹿にすることしかできない奴と喧嘩するだけ無駄だ。
    それに今トラブルを起こすことを月城君は望んでいないよ。それがたとえ月城君を守る行為だったとしてもね。
    それに月城君も言ってくれていただろう?他のクラスの奴らに何を言われても気にする必要はないって。」

    俺は俯きながら頷いた。

    そんな俺の様子を見た外山君は俺の腕を掴んでいた手を離して、改めて俺の肩に手を置くと穏やかな口調で言った。

    「だけどさっきの相澤君マジでカッコ良かった。アイツらには響かなくても俺たちにはちゃんと相澤君の気持ちは届いているから。」

    俺が顔を上げると、外山君も含めクラスのみんなが笑顔で頷いてくれた。

    みんな…

    まだ正直悔しさはあるし、アイツらを許したわけじゃない。

    だけど俺らの良さや、朝陽の凄さはここにいる俺らがわかっていればいいんだ。そう思えた。

    冷静でいなければいけない立場で取り乱してしまったことを反省した。

    「みんなありがとう。そして外山君もさっきは庇ってくれてありがとう。本当に助かった。」

    「良いってことよ。これからもよろしくな、副チーム長!」

    そう言って、普段クールな外山君がニッコリ笑った。

    無口で少し怖い人だと思っていた外山君が、本当は人情味あふれた優しい人だと言うこともこの時初めて知ることができた。

    そして俺たちは急いで出席番号順に並び始め、俺も1番前に腰を下ろした。

    俺の場所からはチーム長達がいるはずの舞台袖が見えるが中の様子までは見えない。

    舞台袖は体育館側からも入ることができるが、裏の別ルートからも入ることが出来るため恐らくチーム長は皆別ルートから入っているのだろう。

    朝陽は無事に着いているだろうか。

    職員室に呼ばれていたが間に合っただろうか。

    緊張していないだろうか。

    朝陽なら大丈夫だろうと思いつつ、余計な心配が次から次へと湧いてくる。

    俺はただただ中の見えない舞台袖を眺めることしかできなかった。


    【〜朝陽side〜】

    先生に頼まれた転校の書類を書き終え、俺は急いで職員室を出た。

    集合時間まで残り3分。急がなくては。

    渋谷先生に教えてもらった裏ルートを通って俺は体育館の舞台袖に向かって走っていた。

    突然決まった転校。

    当たり前に卒業まで一緒に過ごせると思っていた大好きな学校や友達との別れ。

    卒業まで下宿をしながら俺だけ残る選択肢も考えたが、距離が遠いことや親の意向も考慮しながら、最終的には自分で決めた転校だった。

    だけど自分で決めたこととはいえ、卒業まで残り1年で転校する俺の気持ちはずっと複雑だった。

    今まで以上に良い仲間に巡り合うことなんて不可能だろう…

    今まで以上に楽しい高校生活を送ることなんて絶対に無理だ…

    マイナスな思考になる度に今までの仲間達の顔が頭に浮かび涙が出た。

    俺の登校最終日にはみんなが泣いてくれた。

    俺もめちゃくちゃ泣いた。

    みんなからもらった寄せ書きの真ん中には「朝陽は俺たちの太陽」と書いてあった。

    本当に最高の仲間達だった。

    もうあんな良い仲間達には恵まれないと思っていた。

    ーーーーーーーーーーーー

    憂鬱な気持ちを抱えながら、俺は半分諦めた気持ちで転校初日を迎えた。

    最初に立ち寄った職員室で担任だと紹介された渋谷先生は明るく熱血な良さそうな先生だった。

    一度別室で2人で話したいという渋谷先生の意向で、隣の会議室で2人で向かい合って腰を下ろす。

    こんな転校初日の俺と2人で話したいことってなんだろう…

    俺は疑問に思いながらも渋谷先生の話に耳を傾けた。

    先生は俺に朗らかな笑顔を見せながら話し始めた。

    「月城が入るクラスは3年A組だ。朝陽のAだな。」

    ニヤリと笑う先生に、俺はそうっすねと愛想笑いを浮かべる。

    「実は教室に行ってもらう前に月城にはA組のことを先に話しておきたくてな。」

    すると先ほどまで笑顔を見せていた先生は、小さくため息をつくと視線を落としてポツリポツリと話し始めた。

    「転校初日の月城に言うのも変な話だがな、本当に良い子達なんだよ、A組の子達は。温かくて優しい子達ばかりなんだ。
    だけど優しすぎるがために今まで嫌な思いをした子達が集まってるんだ。
    いじめられるような経験をしたり、人間関係で傷つけられたり…それで自分の殻に閉じこもり、仲間を作ることに恐怖を感じている子や自信を無くしてしまっている子、誰かと関わることが怖くなってしまった子や自分を知ってもらうことを恐れてしまう子が多くてな…」

    そう話す頃には先生の顔から笑顔は完全に消えていた。

    「だから俺はあの子達にもう一度仲間の素晴らしさを教えたい、楽しい高校生活を過ごさせてあげたい。閉じてしまった殻を破ってやりたい。そう思ってこの1年間あの子達に向き合ってきたんだ。
    あの子達も絶対に今のままで満足しているわけがない。
    だけど誰も今の現状を変える方法がわからず動けないんだ。
    あの子達ならキッカケさえあれば絶対に良い仲間になれるはずなのにもどかしくてな。」

    そう言いながら先生はポリポリと頭を掻いた。

    「だけど今回A組に転校生を…と言う話を聞いた時、俺は直感で何かが変わる気がしたんだ。
    これはA組が変わる良いきっかけになるんじゃないかって。
    最初で最後のチャンスかもしれないって。
    もちろん月城にプレッシャーを与えようなんて思っていないし、重荷を背負わせようなんて思っていないから安心してな?
    ただお前の前の学校からの引き継ぎ書類を読んだ時、こう書いてあったんだ。
    『月城朝陽は仲間想いのクラスの最高のリーダーだった』ってな。」

    最高のリーダー…そんなこと書いてくれていたんだ…

    俺の胸は一気に熱くなった。

    「だから月城なら何か良いキッカケをくれるんじゃないかって期待してしまって…
    あっでも、強制じゃないからな?月城だって転校してきたばかりで不安だろうし、まずは自分第一でOKだ。
    でももし今後時間が経って学校にも慣れて、月城自身に少し余裕が出来たら、このクラスを良くするために協力してくれないか?俺はせっかく転校してきてくれた月城にも、このクラスで良かったと思って卒業してもらいたいんだ。」

    先生の真摯な気持ちに俺自身も素直に応えたいと思った。

    「わかりました。僕で良ければ協力させてください。」

    俺の返答を聞いた先生は満面の笑みで立ち上がり、俺の手を力一杯握りしめた。

    「本当か?本当に良いのか?ありがとう月城!ありがとうな。」

    先生は嬉しさのあまり握った俺の手をブンブン振り回す。

    「本当にありがとな。ただ本当に無理はしなくて大丈夫だからな。
    転校初日にこんな話をしてしまって申し訳なかった。
    実は今日は今年の学祭のチーム長を決めたりする大事な日でな。
    恐らくうちのクラスはスムーズには決まらないことは目に見えているから月城の耳にも先にA組の現状を伝えておいた方が良いと思ってな。」

    「チーム長?って言うのは重要な役割なんですか?」

    「おう。もう重要中の重要だ。チーム長はそのチームの要。誰がなるかでそのチームに大きな影響を与えるんだ。
    だから学祭本番と同じくらいチーム長選出は盛り上がる一大イベントなんだよ。ただ…」

    「ただ…?」

    「うちのクラスには人前に出て引っ張ることが得意な子がいなくてな。
    だから恐らく立候補では決まらないと思うんだが、クジでも何でもどうしたって決めなきゃいけないから結局は決まるんだが、その子をクラス全員でサポートする体制を作らなきゃいけないと思っているんだ。
    そんな時に、今までリーダーとしての経験のある月城が色々アドバイスしてやってくれると、その子も凄く心強いんじゃないかと思うんだ。
    月城も慣れるのにまだ時間がかかると思うから出来る範囲で良いのだが、陰でチーム長になった子をサポートしてやってもらえないだろうか。頼む。」

    そう言って先生は深々と俺に頭を下げた。

    「先生、わかりましたので頭を上げてください。僕で期待に添えるかはわかりませんが、チーム長になった子のサポートとA組を良くするために僕自身が何をしたら良いか自分なりに考えてみますので。」

    「そうかそうか。本当にありがとな月城。」

    そう言って先生は何度も笑顔で頷いた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    そうしてA組のみんなとの初対面の時。

    正直初めは本当に静かな大人しいクラスだなと思った。

    前の学校のクラスが賑やかだったこともあり、最初は少し戸惑った。

    でも俺の自己紹介の時みんな真剣に話を聞いてくれたし、相槌もたくさん打ってくれた。先生の言うとおりとても良い子達なんだろうなということはわかった。

    そしてその後親しくなった功太と優斗も穏やかな素敵な子達だった。

    だけど俺は2人からこのクラスの話を聞いて、俺が思っている以上に状況は深刻だと言うことも理解した。

    それと同時に功太も優斗も本当は変わりたいと思っていることも知れた。

    さっき先生に協力すると偉そうなことを言ってしまったが、俺に一体何が出来るだろう。

    自分がこの学校に慣れるまで本当に何もしなくて良いのか?

    俺がこのクラスを変えるキッカケになるためには何をすれば…

    功太と優斗と会話しながらも、俺の頭の中はその考えで埋め尽くされていた。

    そして遂にチーム長決めの時。

    先生の言うとおり誰も立候補は出なかった。

    静まり返った教室に時計の秒針の音だけが無常に響いていた。

    ふと隣の功太を見ると思い詰めたような顔をしながら俯き、足は震えている。

    おい、功太大丈夫かよ…

    そして周りを見渡すと皆が同じような表情をしていた。

    そして無常にも時間はどんどん過ぎ去っていく。

    何度先生が呼びかけても誰の手も挙がらなかった。

    このままクジで決めてしまって良いのか?

    それで本当にこのクラスは変われるのか?

    どんなに俺が心の中で問いかけても誰の手も挙がることはなかった。

    そして俺の焦る気持ちとは裏腹に、遂に先生の手がくじの箱に伸びる。

    良いのか?それで。

    考えろ考えろ。俺に出来ること俺に出来ること。

    …ん?待てよ?

    俺は今日転校してきたばかりだから、自分はチーム長に立候補すべきではないと決めつけていた。

    こんな何も知らない自分が先頭に立つことはこのクラスのためにならないと思っていた。

    でもこれは逆なんじゃないか?

    むしろ何もわからない俺をチーム長にすることで、みんなの協力を得られなければ成立しない環境にすればいいのでは?

    それがみんなが団結するキッカケに…

    俺はハッと閃き、気が付いたら勢いのまま手を上げていた。

    「俺やります!」

    そしてそれと同時に一気に集まるクラスメイトの視線、先生の驚いた表情はこの先忘れることはないだろう。

    正直自分でも大それたことをしたなと思う。

    転校してきて数十分でチーム長って…自分の大胆さに驚いた。

    先生も功太も俺のことをめちゃくちゃ心配してくれたが、俺の中で後悔は全くなかった。

    ただ転校してきたばかりの俺がチーム長になることをみんながどう思うかだけは心配だった。

    でもそんな俺の心配をよそに、みんな俺がチーム長になることをめちゃくちゃ喜んでくれた。

    俺に付いていきたいとまで言ってくれた。

    本当に嬉しかったし、俺も気持ちを切り替えてこのクラスのみんなのために本気で頑張ろうと思えた。

    そして何より嬉しかったのは、あんなに隣で震えていた功太が俺を支えるために副チーム長に立候補してくれたことだった。

    功太にとってどれだけ大きな決断だっただろう。相当勇気を振り絞ったに違いない。

    こんな会ったばかりの俺のために勇気を出してここまでしてくれるなんて…

    ここでもう俺の覚悟は完全に決まった。

    さっきまで転校を嘆いていた自分はもういない。

    前を向かないと。

    もう自分はどうなっても良いから、縁あって出会えたこのクラスを変える。そしてみんなを守っていくと決めた。

    必ずチーム長をやり遂げてみせる!

    そう気持ちを新たに俺は体育館に向かった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    俺が舞台袖の入り口付近に着いた時、中からは他のチームのチーム長と思われる声が聞こえてくる。

    俺は意を決して舞台袖に足を踏み入れた。

    チーム長達はこちらに背を向けていてまだ俺の存在に気づいていない。

    「C組のチーム長はやっぱり神谷だったか!マジで強敵すぎるわ。」

    「いやいやG組も強すぎるだろ。だって一ノ瀬がチーム長なんてもう優勝候補じゃん。」

    「いや1番やばいのはF組じゃない?だってチーム長は蓮だし、副チーム長は理人ってもう勝ちにきてるじゃん。」

    この時初めてチーム長の顔合わせが行われた舞台袖は大いに盛り上がっていた。

    「予想通り荒木と九条もいるし今年のチーム長全員やばいな?」

    「ねぇ夢乃はぁ?どうして誰も夢乃のこと言ってくれないのよ。」

    「もちろん夢乃も凄いよ!B組はチーム長候補沢山いたのにその中から選ばれたんだろう?女子のチーム長めちゃくちゃカッコいいし、夢乃に似合ってるよ。」

    「本当に?唯一の女子で自信ないんだからもっと褒めてよ。」

    「大丈夫だ夢乃。いつもの自信はどこ行ったんだよ。A組のチーム長に比べたら間違いなくお前の方が優れてるから安心しろ。」

    「ねぇそれ慰めてるつもり?A組と比べて勝ったって何にも嬉しくないんだけど!ってかA組のチーム長って本当に来るの?」

    「いやーまずあの中からチーム長を選ぶのは無理があるだろうな。まだ決まってないんじゃないか?」

    「やっぱりチーム長は決まりませんでしたってオチかも。」

    「仮に決まったとして俺らの中に入ってこれるんかな?」

    「まぁ無理でしょ。」

    「A組のチーム長逃げたんじゃね?」

    「あははははは、それあるかも。」

    「じゃあ今年のA組のチーム長は無しってことで。」

    「えぇーでも引き立て役欲しくない?A組のチーム長がいれば必然的に俺らの株上がるじゃん!」

    「お前ら本当にヒドイなー。笑 まぁでも一理あるか!」

    そうして何が面白いのかゲラゲラと笑う奴らに俺は我慢が出来なかった。

    みんなはいつもこんなこと言われていたのか…

    ずっとこれに耐えてきたのか…

    そう思うと俺の体は勝手に動いていた。


    「ねぇ、今君たちが噂しているA組のチーム長って俺のこと?」

    先程まで賑やかだった空間に一瞬の静寂が走ると同時に、その場にいた全員がこちらを振り返った。

    状況が飲み込めないのか皆ポカンとしている。

    「えっ、えっと…君は…誰?こんなイケメンいたっけ?に、2年生とか?あぁもしかして学祭の実行委員とか?」

    荒木が恐る恐る聞いてくる。

    だから俺は心底不思議そうな顔をして聞いた。

    「いやいや何言ってるんですか?ここはチーム長の集まりですよね?僕もチーム長ですよ。
    A組のチーム長、月城朝陽です。よろしく。」  

    俺は完全な営業スマイルを振りまいた。

    A組というフレーズに全員が即座に食いつく…

    「「「「「えっA組のチーム長!?」」」」」

    俺の返答に皆が一瞬フリーズする。

    「…えっ、A組のチーム長って言った!?いやいやいやそれは無いでしょ!さすがに君がA組にいないことくらい俺らわかるよ。」

    一ノ瀬がヘラヘラと笑う。

    「確かにこんなイケメンいたら夢乃が気が付かないわけないもん。他の女子の間でだって絶対噂になってるはずなのに聞いたことないし。やっぱ2年とか?」

    夢乃が近づいて俺の顔を覗き込む。

    「おいおい、いくら3ーAに適任がいないからって2年から選出はアウトでしょ。君悪いけどちゃんと3年から選出するように言って来てくれる?君なら絶対来年はチーム長になれそうだから今年は諦めな?ね?」

    神谷が俺の肩を叩きながら退出を促そうとする。

    しかし俺は「ご心配なく」と神谷の手をさりげなく避けると改めて言った。

    「あはは、2年なわけないでしょ。僕今日から3年A組に転校してきたんですよ。だかられっきとした3年。転校生でも3年なら問題ないよね?」

    冷静に、かつ淡々と話す俺に周りは狼狽え始める。

    「てっ転校生!?嘘だろ!?」

    「転校生とかやばっ。えーなんでA組に転校してきちゃったの〜?B組に来て欲しかった〜。」

    「まぁとりあえず問題はないけどさ、それより転校生なんかがチーム長になってクラスまとめられるわけ?」

    九条は対抗心を露わに鋭く質問する。

    「ちょっと九条!自分よりイケメンが現れたからってそんな言い方なくない?」

    「はぁ?そんなんじゃねーし。夢乃うるさい。」

    「はぁ?うるさいって何よ!」

    「まぁまぁ2人とも落ち着けよ!」

    そんなやりとりを俺は冷めた目で見ていた。

    そんな時だった。体育館から何やら揉めるような声が聞こえ始めた。

    「A組が来たぞ。」
    「チーム長は誰だ誰だ〜?ここにいない奴…あっ俺そもそもA組に誰がいるかも知らないからわかんねーや。」
    「今頃お前らのチーム長怯えてチビってんじゃない?無事にステージに出て来れるといいな?」
    「いや、そもそもA組だけチーム長いない説もあるぞ!うちにはチーム長を出来る人間がいませーん。ごめんなさーい。ってステージで謝ってこいよ。」

    そんなくだらない発言が聞こえてきた。

    みんな体育館に着いたんだ…

    あいつら…どれだけうちのクラスを馬鹿にする気だ?

    そのうち今度は俺を挑発するような発言に変わっていった。

    「なぁ、A組のチーム長出てきたらさ、みんなで冷やかしてやろうぜ!」
    「おぉいいねいいね。ってかもうそこの舞台袖にチーム長集まってるからA組のもいるんじゃね?
    おーい、A組のチーム長聞こえてるか〜?ちゃんとステージに出てこれまちゅか〜?」

    体育館からは笑い声が聞こえる。

    はぁ、高校3年にもなってこんなことしか言えないのかと俺は心底呆れていた。

    その時だった。

    「…うるせぇよ。」

    ん?誰だ?聞き間違えか?俺は耳を澄ませた。

    「うるせぇって言ったんだよ!俺らのチーム長を馬鹿にすんな!うちのチーム長はお前らのチーム長に負けてない!俺らの自慢のチーム長だ!お前らにとやかく言われる筋合いはない!」

    …この声は…功太!?

    嘘だろ!?あの功太が言い返してるのか!?

    今すぐ駆け付けて助けたいがお披露目までここから出るとこは出来ない…どうしたら…

    功太1人で俺のために…嬉しさと心配で俺の胸は張り裂けそうだった。

    その時、

    「おいおい。まさか高校生にもなって手を出す気じゃないよな?もしそのつもりなら相澤君じゃなく俺にしときな。」
    「先に喧嘩をふっかけてきたのは君たちだろう?相澤君は何も悪いことは言っていない。相澤君は副チーム長として当たり前のことを言ってくれただけだ。」

    …この声は確か…外山君か!

    それでも相手は怯まない。

    「おいおい、相澤が副チーム長!?笑わせんなよ。お前マジかよ!相澤に頼らなきゃいけないチーム長ってどんだけ頼りないんだよ。」
    「さすがA組さん、期待を裏切らないわ。どんだけ弱小チーム長が出てくるか楽しみにしといてやるよ。」
    そうして嘲笑うような声が聞こえる。

    そしてチーム長達からも笑い声が聞こえてくる。

    それを聞いて俺の堪忍袋の尾が完全に切れた。

    俺は別に何を言われたって構わない。

    だけど俺のために覚悟を決めて副チーム長になってくれた功太を馬鹿にすることだけは許せなかった。

    俺はチーム長達に向かって言う。

    「…あのさぁ、あんたらさっきから何が面白いわけ?」

    さっきまでの営業スマイルは完全に取り去り、俺は鋭い視線で言った。

    恐らく俺からは殺気が漂っていたのだろう、一気に空間が静まりかえる。

    「凄いチーム長だか何だか知らないけど、トップであるチーム長が人を蔑む行為を笑っているようじゃもう終わってるんじゃない?」

    俺の言葉に全員の動きが止まる。

    そして俺は更にチーム長達に詰め寄って言ってやった。

    「俺らにどうこう言う暇あるならさぁ、アンタらのあのくだらないクラスメイトどうにかしてくんない?」

    俺の冷たい視線と口調、殺気だった雰囲気に皆が俺から視線を逸らそうとする。

    「…わ、悪かったよ。」

    一ノ瀬が渋々謝罪の言葉を口にしたが俺の怒りは全く収まらなかった。

    そしてそんな不穏な雰囲気の舞台袖とは裏腹に、遂にチーム長のお披露目が開始される軽快なアナウンスが始まる。

    皆この状況をうまく頭で整理できないままお披露目会に突入することになった。

    ステージにはチーム長のためのマイクと、背面にはチーム長の顔がよく見えるように大きなスクリーンが設置されている。

    「それでは遂にこの日がやってきました!今年はどんなチーム長が選ばれたのでしょうか!皆さん楽しみですね。
    それではG組から順番にチーム長紹介をお願いいたします。」

    その年によって違うようだが今年はG組から順番にお披露目がされるらしい。

    そうなると俺は最後か。

    「それではまず初めにG組チーム長は一体誰なのでしょうか!G組チーム長は…この方です!」

    そのアナウンスを合図に一ノ瀬がステージに出て行った。

    と同時にとてつもない歓声が上がる。

    「一ノ瀬っ!一ノ瀬っ!」

    「キャー!一ノ瀬さんだぁぁぁ!」

    1人目とは思えないくらいの熱気が体育館を包んでいる。

    俺はその光景を舞台袖からただじっと眺めていた。





     
     
    中学生と小学生の子を持つ30代ママです。フルタイムで働きながら家事育児に奮闘する毎日ですが、自身の体調不良をきっかけに生活や仕事、子供との向き合い方を改めて考え始めた今日この頃です。 小説や自身の体験など幅広く発信予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

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