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5万円までの腕時計っておもちゃだと思う、と夫が言い放った。

    夫は今、謎の熱にうなされている。それは絶賛我が家で猛威を振るっている「腕時計熱」。

    昨日、家族で夕ご飯を食べていた時、夫が急に斜め上の発言をしてきた。

    「そういえばXで時計ネタを見ていて思ったんだけど、僕にとって5万円までの腕時計って、おもちゃだと思うんだよねぇ」


    ごめん、ちょっと何言ってるか、分かんない。

    いつからそんなセレブになったんだいぃっ!?夫よっ!!



    夫は41歳普通のサラリーマン、妻はしがない地方公務員、たとえ我々がダブルインカムだとしても、そんなぶっ飛んだ金銭感覚に陥るほど我が家は稼いでいないぞぉぉおっ!

    私は思わず「あははははっ!!ちょっと何言ってるか分からないから、詳しく教えて!!」と、困惑気味な笑みを浮かべて突っ込んだ。

    また夫の変な沼が出てきたよ。夫の沼推しとしては、この発言は聞き捨てならない。わたしの夫の沼推し日記(マル秘)に残さなければならないぞ。


    ということで、夫の腕時計熱について詳しく問い詰めてみた。とりあえず謎発言を解体しよう。


    「ちょっとあなたの頭の中を教えて。とりあえず『5万円までの腕時計は、おもちゃ』ってどういうこと!?」

    「そもそも1万円以下の腕時計は、子どものおもちゃみたいなガジェットだと思う。んで、1万円から5万円の腕時計は、僕にとっては激安時計だと思うんだ」

    何をもって激安なのか、全くもって理解し難いけど、とりあえず大人しく続きを聞く。


    「僕の中での解釈はこんな感じ。10万円から15万円の腕時計は、コスパの良い時計、15万円から50万円の腕時計は、ちょっとコスパが悪くて中途半端な時計、50万円から100万円は普通に良い時計、100万円から1000万円は高級時計、1000万円以上は変態の領域」

    「あなたも大概、変態の領域展開してるけどな、中途半端な時計って、時計メーカーに失礼すぎるぞ!」などとツッコミを入れながら、夫の言い分をメモしてみた。


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    夫の腕時計沼



    メモしたけど、やっぱりよく分かんない。追加質問する。

    「コスパが良い悪いとかが、ちょっと意味分かんない。15万円から50万円の腕時計がコスパ悪いっていうのはどういうこと?」

    「中途半端でコスパが悪い時計というのは、もう少しお金を出せばもっといい時計が手に入るのに、という意味。逆にコスパがいい時計というのは、見た目も高級感があるし、『こんな機能もあるのか!安いな!』って興奮するもの。僕が人に薦めるラインかな」

    分かったような、そうでもないような……。


    夫の話す言葉に、私のちっぽけな脳の処理が追いつかない。

    夫は「15万円から50万円が、時計界隈では普通に良い時計」って言ってたけど、そもそも時計界隈って何だ??

    その界隈では普通って言うけどさ。50万円もあったら、毎年家族で大阪のUSJ行けちゃうよ?毎週末スシローだって行けちゃうし、なんなら毎週土曜日の買い物で、6歳と3歳の息子たちに「駄菓子は、1人200円までね!」なんて、ケチくさく制限しなくて済むのよ?

    50万円という価格帯が、もはや私の中では「超」が付くほどの高級なんですけど。私の常識が変なのか?時計界隈が変なのか?すでに脳みそは混乱中。


    途中、夫から「腕時計を愛してるからっ!」って発言が飛び出して来たときは、「だいぶ君、腕時計に侵食されてるねっ!」と速攻でツッコミを入れた。

    そして、時計の価格帯にはこんなに幅があるんだと、わたしは知らない世界の深淵を覗き込んだのだった。しかも、自分が持ってる腕時計って1万円以下だから、夫からしたら、もうおもちゃみたいなものだろうな。そして、便利さ一択で、わたしはスマートウォッチしか付けてない。


    そういえば、夫は右手にスマートウォッチをつけて、左手にアナログ時計をつけていた。「なんで両手に腕時計をつけてるの?」と聞いたら、こんな風に言っていた。

    「仕事に行くとき作業着だし、メイクとかもしないからさ。唯一個性を出せるのが腕時計だけなんだよね」


    なるほど、彼なりのオシャレの表現だったのね。それにしても、個性を発揮するスペースが随分と狭い。だって腕時計だと、手首の幅しか個性出せないよ。夫が腕時計の熱に毒されすぎて、変態すぎて、もはや新種の珍獣に見えてきた。

    あれから腕時計のとこを色々言わなくなった夫。「腕時計熱も治ったか。よしよし」と思った矢先、私の在宅勤務中に、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。インターホンの画面を見ると、佐川急便のお兄さんいる。あれ?私なんか注文してたっけ?

    目も頭も、はてな?になりながら佐川のお兄さんから荷物を受け取った。荷物を見ると、宛名は夫、品名は「時計」って書いてある。

    前に夫が「5万円までの腕時計はおもちゃだよぉ」と言い放ったのは、もしかしてこの「時計」を買うための口実だったのか?でも、この「時計」って、値段いくらするんだ?置き配じゃなくて手渡しだったから、ものすごく高級時計だったりして!ひぃっやだ、持つのも怖い。

    夫の沼推しとしての嗅覚が、ブインブイン働いた。ちょっと今夜、夫をさらに問い詰めなきゃならん。


    その夜、夫が帰宅した。

    私はなんでもないかのように「そういえば今日佐川のお兄さんが荷物届けてくれたよ〜。何買ったの?」と尋ねてみた。すると夫は、「あ、あぁ、あれねぇ。えーっと何買ったっけぇ」と、受け答えがしどろもどろだ。あやしい。ここは一気に畳み掛けるぞ。

    「時計って書いてあったけど、これって前に話してた例の『激安時計』??また腕時計、買ったんかぃっ!」
    「う、うん。ボーナス入ったから、つい買っちゃった。てへっ」

    てへっじゃない。夫は、まとまったお金が入ると、すぐに沼に課金する。詳しく聞くと、買ったのは3万円くらいのG-SHOCKらしい。

    なんだ、例の高級時計じゃなかった……!「持つのも怖いっ!」と震えてた私の時間を返せ!

    でも、私の中で、G-SHOCKは決して「激安時計」にカテゴライズされない。3万円も普通に高いぞ!


    50万円で、USJや週末スシローを妄想していた私と5万円までの腕時計をおもちゃと言い放つ夫。夫婦で金銭感覚を合わせるのは難しいと言うけれど、我が家の場合は、腕時計の価格が最たるものだ。もはや擦り合わせができない。どこまで行っても平行線。

    どれだけ夫の腕時計への熱い想いを聞いても、この金銭感覚が合うことは、多分、今後もないだろう。けれど、無理に合わせなくてもいいよね、とも思う。5万円までは激安時計という考えも、それもいいよね!って、開き直っている、結婚9年目の私たち。

    ふと夫を見ると、箱から出したG-SHOCKを左手にはめながら、にんまり笑っている。あら?いい笑顔じゃん。夫が沼で泳いでいる姿を見て「ま、いっか!」と今日も思う私だった。

     
     
     

    由美

     
     
    とある政令市でお仕事しながらのエッセイスト。別名、爆速課長補佐(時短勤務で誰よりも早く帰る) 昔から趣味がなかった私が、夫の底なし沼(こだわり)を特等席で見て、観察したエッセイとかを書いています。書くお仕事もしたいです。エッセイ本をだすのが夢。 41歳の私、小1&年少男子と夫

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