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ある夏の日

2025年8月某日、現在アトリエとして使用している母の実家の2階に不審な女が現れた。
女は、サングラスをかけてキャップを被り、さらにマスクをしているので顔は全く分からない。
猛暑の中、長袖Tシャツに長ズボン。
挙げ句の果てにゴム手袋まではめている。
汗を流しながら、手には小さめのバズーカのようなものを持っていた。
理解し難い風貌のこの人物、実は私である。
なぜこんなことになってしまったのか。

話は二時間ほど前に遡る。
私はリビングでゾンビ映画を観ていた。
ゾンビなんて本当は全く興味がないのだけれど、推し俳優Aくんの主演作ともなれば話は別だ。
Aくんが演じたのは、ゾンビが溢れかえるデストピアを明るく生き抜く主人公。
Aくんだけを目当てに見始めたにも関わらず、ゾンビの生態を色々と知ることとなった。
その一つに「ゾンビは音に反応する」というものがあり、何も知らなかった私は妙に感心してしまった。

映画を見終わった頃、母が血相を変えて部屋に入ってきた。
2階から「ブーン」という変な音が聴こえることに気がついたのだという。
見に行ってみたところ、真っ黒い大きな蜂が1匹飛び回っていたらしい。

せっかく映画を見て楽しい気分に浸っていたのに、なんてことだ。
一体どこから侵入したのだろう?
私は、自分たちの置かれた状況に絶望した。
が、こうしてはいられない。
母と大真面目に話し合った結果、追い出すよりも退治したほうが良さそうだ、ということになった。

早速、母は近所のスーパーに殺虫剤を買いに行った。
その間に、私は蜂の生態を調べ始めた。
すると、蜂は音に敏感に反応するということが分かった。
あれ?デジャヴ?
・・・笑っている場合ではない。
なるべく静かに近づいて一気にやっつける以外に方法はなかった。

すぐに帰宅した母は、黄色いバズーカ型の蜂やアブに効く強力殺虫剤を握りしめていた。
よくやった。これがあればなんとかなる(たぶん)。
すぐにでも退治しに行きたいところだったが、刺されるといけないので長袖長ズボンに着替えた。
さらにマスクや帽子、ゴム手袋などで完全防備。
準備万端。いざ出発。

階段を上っている途中で既に聴こえる「ブーン」という音。
息を潜めて近づくと、ベランダに通じる窓周辺に奴はいた。

私には想像力がある。
奴の姿が私にはグロテスクなゾンビに見えた。
その瞬間、持っていた殺虫剤が巨大なバズーカ砲に姿を変えた。
私を誰だと思っている。
ゾンビハンターである私に迷いなどなかった。
狙いを定めて発射ーーーーー

殺虫剤をこれでもかと吹きかけられた蜂は、みるみるうちに勢いを失い、息絶えた。
安堵すると同時に、自らの滑稽な姿を想像して一気に萎えた。
かくして「私VS蜂」の対決は幕を閉じたのだった。

余談。
実はネズミと対決して勝利したこともあるのだけれど、あまり明るい結末ではなかったのでここには書かないことにする。
こういうことを経験するたびに、人間が他の生き物と共存できるか否か、という問題は永遠のテーマなのだと、改めて考えさせられる。
私たちはやっぱり罪深い。
人間ってなんなんだろう。

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