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【硝子のショコラ】17|作家【長編恋愛小説】

    東京に住む外国人の話を書きたくなった。

    観光でもなく、短期滞在でもなく、
    わざわざこの国を選んで
    生活している人たち。

    何を好きになって、何に疲れて、
    それでもなぜここにいるのか。

    中にいる、けれど外から見る、
    みたいな不思議な話を書いてみたくなった。

    アメリカ、アジア、ヨーロッパ。

    いろんな国の人に話を聞いたけれど、なぜかヨーロッパ圏はフランス人ばかりだった。

    感情表現が豊かだからか、話していておもしろい。

    ただ、そのぶん熱量も高い。

    怒る時は怒るし、褒める時は大袈裟なくらい褒める。

    途中から日本への不満大会みたいになることもあった。


    二週間かけて、十人に話を聞いた。

    正直、かなり濃い取材だった。

    でも俺は満足していた。

    ああいう剥き出しの言葉には、その人の生活がよく出る。


    通訳を担当してくれた彼女は、
    逆に、見るからに疲れていた。

    「フランス人って、奥が深いんだね」

    半分冗談みたいにそう言うと、
    彼女はまるで意外だというような顔をした。

    たぶん、もっと別の感想を想像していたんだろう。



    「君は、フランス人苦手?」

    そう聞くと、彼女は少し考えてから言った。

    「苦手というより……疲れるんです」

    「どうして?」

    「感情を隠さないからです」

    ——その方がわかりやすいのに。

    「でも君も、結構わかりやすいけどね」

    彼女はその瞬間、初めてちゃんと俺を見た。

    からかわれたと思ったのかもしれない。

    でも別に、そういうつもりじゃなかった。

    「疲れると、声が少し平坦になる」

    あと、たぶん今すぐ帰りたいと思ってる。

    そこまで言うと、彼女は困ったみたいに
    曖昧な表情を浮かべる。


    この子はおもしろい。

    人との距離を意識的に離している。

    感情を見せないように必死に
    蓋をしている感じがした。

    彼女が帰り支度を始める。

    荷物をまとめる姿まで妙に静かだった。


    「君、すごく本読むでしょ?」

    「……ええ、まぁ」

    やっぱりだ。

    言葉の選び方が、本を読む人のそれだった。


    「今日までありがとう。本になったら送るよ」

    彼女は曖昧に頷くだけだった。

    愛想が悪いわけじゃない。

    たぶん、人との距離のとり方が
    普通の人とのそれとは違うだけだ。


    彼女がドアを開ける。

    その背中を見ながら、気づけば俺は口を開いていた。

    「あのさ、君って一体何から逃げてるの?」

    彼女は振り返らなかった。

    「お疲れ様でした」

    それだけ言って、静かにドアを閉めた。

     ——図星。あるいは?

     
     
    余白のある静かなアンバランスさに惹かれています。それぞれの正しさが少しずつずれていく、その感覚を描いていきたいです。

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