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【硝子のショコラ】19|作家【長編恋愛小説】

    偶然会ったことだし、もう少し話したい。

    「ねぇ、君ランチはもう済んだ?」

    考えるよりも先に、そんなフレーズが口を出た。

    彼女に考える隙を与えたら断られる。

    それを遮るように、俺は彼女を促して歩き始めた。

    「よかったら付き合ってよ」

    強引だったかもしれない。

    でも彼女への興味はますます深まるばかりだ。

    作家としてなのか、人としてなのか、
    それは判断がつきかねたけど
    どっちだって構わなかった。

    とにかく、俺は今彼女と話したかった。

    書店から少し歩いた場所にある、小さな和食屋に入る。

    時々打ち合わせに使う店だった。

    店主と挨拶を交わす。
    彼女は落ち着かなそうに、
    でも静かに店内を見回す。 

    「何か苦手な食材ある?」

    「特にありません」

    相変わらず簡潔だ。

    席に案内されると、彼女は静かに上着を脱いで自分の荷物の上に、そっと畳んで置いた。

    その所作に、なぜか目を奪われた。

    表情は相変わらず読めない。
    でも、迷惑そうにも、少し困っているようにも見えた。

    席に着いて、少し冷静になると、相手の都合も聞かずに、誘ったことを急に申し訳なく思った。

    こういう俺が、彼女は苦手なんだろう。

    「大丈夫。この前のお礼にご馳走するから
     心配しなくていいよ」

    悪気はないことを伝えたかった。
    彼女は俺の方に少しだけ視線を投げた。 

    特に会話もないまま、食事が運ばれてきた。

    彼女は静かに箸を動かす。

    食べ方まで静かだった。

    箸の持ち方や器の扱いに、妙な丁寧さがあった。

    そして、ずっと緊張している。

    見れば見るほど不思議な子だった。

    人といる時ほど孤独に見える。 

    「あまり、人と関わるの得意じゃない?」

    気づけば、そんなことを聞いていた。

    彼女の箸が止まる。

    「……そうですね」

    声が少しだけ硬い。

    やっぱり警戒されてる。 

    でも無理もない。

    今日は少し強引すぎた。

    それなのに、なぜかやめられなかった。

    「君みたいな人って、あまり俺の周りにいないから」

    彼女は返事の代わりにお茶を飲む。

    沈黙で答えるのがここまで上手い人、初めてだ。

    しばらくして、彼女は時計を見るふりをした。

    「あの……そろそろ失礼させていただきます」

    彼女を誘った時は、少しは話を聞けるかと思っていたのに、本当に食事だけで終わってしまった。 

    「また誘っていいかな」

    彼女は答えなかった。

    「ごちそうさまでした」

    それだけ言って店を出ていく。

    閉まった扉の向こうに彼女の後姿を見ながら、俺は少し笑ってしまった。

    あそこまで全力で距離を取られること、最近あまりない。

     ——まいったな

    でも悪い気はしなかった。

    むしろ、もっと知りたくなる。

    彼女といると、自分の知らない感情が顔を出す。

    その不安定さが新鮮ですらあった。

    自分でもよくわからない。
    俺は一体何をしたいのだろう。

     
     
    余白のある静かなアンバランスさに惹かれています。それぞれの正しさが少しずつずれていく、その感覚を描いていきたいです。

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