
【硝子のショコラ】16|通訳【長編恋愛小説】
それから程なくして、私は一冊の本を受け取った。
郵送されてきた封筒の差出人を見て、少しだけ顔をしかめる。
あの作家だった。
中には、私が関わった、彼の新作が一冊入っていた。
あの時の仕事が、こうして無事に刊行されたのは、よかった。
——約束したから
付箋にそれだけ書かれている。
私はため息をつきながらページをめくった。
仕事として読み始めたけれど、気づけば最後まで読んでいた。
そしてあとがきには、私のことだと分かる一文があった。
おもしろかった、とは少し違う。
ただ、妙に引っかかる文章を書く人だと思った。
後日、彼から短いメッセージが届く。
——どうだった?感想ほしい
私は迷った末、
——比喩が少し多すぎると思います
とだけ返した。
するとすぐに返信が来た。
——そんなこと、初めて言われたよ
——好みの問題ですから
——君らしい感想
またすぐにメッセージが届いたけれど、
私はスマートフォンを伏せた。
私の感想が重要だとは、到底思えない。
これ以上、やり取りを続けるのは無意味だ。
それ以上返信することはなかった。