
【硝子のショコラ】7|通訳【長編恋愛小説】
オーナーは普通のフランス人男性に見えた。
背が高くて、見た目より年齢はおそらく若い。
無精髭におしゃれなベッコウの眼鏡。
ノーネクタイにモーヴのシャツ、ピカピカに磨かれたブラウンの革靴に、
ボルドーのシューレース。
こういう色使いがとてもフランス人らしい。
私たちはラウンジに席を見つけると、さっそく本題に入る。
内容はなんてことはない、今の状況、今後の展開、
オーナーは彼の働き、仕事、製品のクオリティーに
とても満足しているといった内容だった。
これからも店舗を少しずつ増やしていきたいとのことで、
オーナーは日本と他のアジアの地域を視察に回るそうだ。
絶対に納得しない限り、出店はしないという、
独特の嗅覚をお持ちの方らしい。
なるほど。NONはNONということか。
おしゃべりなフランス人らしくなく、
割と慎重に言葉を選んでお話しされる方だった。
確かに、少々癖があるタイプだ。
私は、捲し立てられるよりも話しやすくてこの方が楽でいい。
クオリティーに妥協しない姿勢はとてもいいと思う。
けれど現場はきっと大変だろう。
私は想像を巡らせる。
そんな中、きっと彼は飄々と楽しそうに
チョコレート作りに励んでいたのだと思う。
一時間半ほどのミーティングも終了し、
私は二人に挨拶をしてエレベーターへと向かう。
後半は思ったより深い話になったので、疲労を感じる。
このまま帰宅して、風呂に入ってすぐ寝よう。
地下鉄の車内は空いていた。
座って読みかけの本を取り出す。
あまり集中できない。
意外と疲れているのかな。
諦めて目を閉じる。
改めて、彼はきっと素晴らしいショコラティエに
なって行くのだろうと思う。
彼には、どんな世界が見えているんだろう。
私は少し興味を覚える。