
【硝子のショコラ】8|通訳【長編恋愛小説】
時は静かに流れる。
私の周りは何も変わらない。
朝になって、活動して、眠りにつく。
私は相変わらず静かに生きていた。
誰の世界にも交わらず、たった一人の世界で。
時々、子供の頃の記憶に苦しめられる夜もあったけれど、
少しずつコントロールできるようになってきた。
それでも全くなくなったわけではない。
そんな時は本を読んだ。
私の現実逃避の一番の逃げ道だった。
私は子供の頃から本ばかり読んでいた。
その習慣は今でも続いている。
紙の本が好きなので、街の書店に立ち寄っては
何時間も過ごすことが外出の目的になっていたりもする。
その日も仕事の後、目についた書店に立ち寄った。
品揃えが私好みだ。
探していた本があったので、購入しようとレジに足を向けた。
時間をかけて本を探すのが楽しみなので、
ネットで買うことは極力避けている。
時代錯誤だけれど、懐古趣味だと自分では思っている。
その時、平積みの一際目立つ場所に綺麗な色の表紙が
印象的な本が目に留まった。
“Le Grand Livre du Chocolat”
チョコレート大全?
フランスの有名ショコラティエによる一冊だった。
著者名を見て、思わず足を止める。
あの癖の強いオーナーだ。
よく見ると、その下に彼の名前も共著者として記されていた。
素敵な本だった。
装丁も色も写真も何もかもが美しかった。
ひとしきり眺めて、本を閉じる。
彼らの仕事の素晴らしさを再認識する。