
【硝子のショコラ】9|ショコラティエ【長編恋愛小説】
僕は昔から口下手だった。
何かを言おうとすると、頭の中で言葉だけがぐるぐる回る。
気づけば会話は先へ進んでいて、僕だけ取り残される。
いつもそうだった。
だから自然と、一人でいることが多くなった。
家族はそんな僕を少し心配していたみたいだけれど、
成績は悪くなかったし、ただ大人しい子どもとして扱われていた。
実際、その通りだったと思う。
僕自身、自分をそういう人間だと認識していた。
両親はごく普通の人たちだった。
普通の家庭で育てられて、特に不自由した記憶もない。
ただ、僕には昔から「これをやりたい」というものがなかった。
将来の夢も、熱中できる趣味もない。
ぼんやりした子どもだったと言われれば、それまでだ。
だから僕は、その時々で、自分にできることだけをやろうと決めていた。
感情の起伏もあまり激しくなかった。
スポーツに夢中になることもなければ、
誰かと騒ぐことにも興味が薄かった。
気持ちが少し疲れた時は、一人で長時間歩いた。
それで大抵のことは整理できた。
友人に話すより、自分の中で静かに消化する方が、僕には向いていた。
それ以外は、たぶん人並みに生きていた。
そんなある日、僕は出会った。
その世界は唐突に、でも自然に、僕の前に現れた。
僕の人生が、はっきりと輪郭を持った瞬間でもあった。
その頃、僕はなんとなく自分の学力に見合った大学に進学していた。
相変わらず、何を考えているかわからないと言われることは多かった。
それでも一緒に講義を受けたり、たまに食事をする相手くらいはいた。
そんな時、なぜか僕は同級生の女の子から
バレンタインデーにチョコレートをもらった。
彼女は、この間のお礼に、と言っていたけれど、
僕にはすぐには思い当たらなかった。
理由もわからないまま、知らない人から物を受け取るのは落ち着かない。
しかし彼女はその小さな紙袋を僕に押し付けると、
顔を真っ赤にして走り去った。
僕は紙袋を手に、その場にポツンと取り残された。
考えあぐねて、友人に聞いてみた。
——お前、結構モテるんだな
と相手にもされなかった。
他の友人が、
——多分だけど、ほら、あの時、お前がかばった子じゃないかな
それなら、なんとなく心当たりがあった。
ゼミの飲み会で、彼女にばかり飲ませようとしている学生がいたので、
そのまま他の学生と連れ立って帰ったことがあった。
——あの子か
名前と連絡先の書かれたメッセージカードが入っていた。
箱の中には、六粒のチョコレートが綺麗に並んでいた。
まるで宝石みたいだな、と思ったのを覚えている。
僕はもう一度箱を確かめる。
読めない。
たぶんフランス語だ。
こんな高価そうなもの、本当にもらっていいものか迷ったけれど、
一度受け取ってしまった以上、返すのも違う気がする。
少し考えてせっかくだし、食べてみることにした。
口に入れた瞬間を、僕は一生忘れない。
この一粒が、僕の人生を決定づけた。