
【硝子のショコラ】29|通訳【長編恋愛小説】
ショコラをプレゼントされたあの夜。
どうやって帰宅したのかよく覚えていない。
それから私と彼は
多くの時間を、二人で過ごすようになった。
散歩したり、食事したり、
映画を観に行ったり、
コンサートに行ったり。
今まで一人でしていた事を
二人でするようになった。
何が変わったかはわからない。
彼は私を変えようとはしなかった。
ただ自然と寄り添ってくれているだけだった。
彼とだけは長い間一緒にいても疲れない。
むしろ心地よいとさえ思っていた。
そんなある日、
定休日の店のカフェスペースで本を読みながら、
アトリエで作業する彼を待っていた。
「お待たせ」
そう言うと、彼は私の前に箱を置く。
「なぁに?試作品?」
「開けてごらん」
そこにはショコラが二粒。
ひとつは彼の、もうひとつは私の
イニシャル入りだった。
「……ねぇ、これ」
「うん、もうずっと一緒にいない?」
「それって…」
「二人で生きていこう。
もちろん、焦らなくていい。
じっくり考えてから、決めたらいい。
僕はもう最初からそのつもりだから。
いつまでだって待つよ。」
私だって同じ。
答えはずっと前から決まっていた。
「……そうしたら」
私は少しだけ迷ってから言った。
「一晩、一緒に過ごしてみたい」
彼はとても嬉しそうに笑った。
「もちろん」
彼は、柔らかい微笑みを浮かべて
私の手を取る。
「行こう」