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【硝子のショコラ】26|ショコラ【長編恋愛小説】

    ショコラを買った翌日、私はさっそく彼女に
    連絡をしてみた。

    ——近いうちに、ご自宅に
    伺ってもよろしいでしょうか。

    すぐに返信がくる。

    ——いつでもどうぞ。
    今日の午後も自宅にいるし。
    彼はいないけど。

    ちょうどよかった。

    買ったばかりのショコラを持って、 彼女の自宅を訪ねる。

    「彼、今日たまたま打ち合わせで出ててね。
    コーヒーでも飲んでゆっくりしていって」

    彼女は私にそう言うと、
    自宅に招き入れてくれた。

    「あの、先日の詩集のお礼です。
     どんなものがいいかわからなくて…
     私、気の利いたもの
     何ひとつ知らないので…」

    私は紙袋を差し出す。

    「逆に気を遣わせちゃったわね。
     あら、これって
     あの有名なショコラティエじゃない
     充分気が利いてるわよ」

    遠慮なくいただくわ、と言いながら
    箱を開けた彼女の表情が、
    ぱっと明るくなる。

    確かに、彼のチョイスは素晴らしかった。

    「素敵ね、ありがとう。
     こんなにたくさん…」

    彼女はさっそく、一粒選んで口に入れる。

    幸せそうな顔で、私を見ながら頷いている。

    やっぱり、彼はすごいショコラティエだ。
     
    私の、あの拙い説明から
    こんなに人を喜ばせる
    ショコラを選べるなんて。

    彼にこの事を伝えたい。
    なぜだかそう思った。


    夫が帰宅したのは、あの子が帰ってから
    一時間もたたない頃だった。

    「え?あの子来てたの?」
     
    「そうなの、詩集のお礼にって
     チョコレート持って来てくれたのよ」

    チョコレート…

    俺は書店でバッタリ出くわした時の
    彼女の事を思い出した。

    確かあの時、彼女、
    チョコレートの本を見ていたんじゃなかったっけ。

    「今話題のチョコレート屋さんのでね、
     本当においしいから、いただきましょうよ。
     コーヒー淹れるね」

    「うん、ありがとう」

    確かに素晴らしいチョコレートだった。
    甘さの奥に、残る静かな苦味。
    さらに、後味のなんとも言えない風味。

    こんなチョコレートは、
    今まで食べたことがなかった。

    ——なるほどね

    これならああいう本が作れるわけだ。

    俺は少し納得した。
    センスの塊みたいな人だな。

    俺はそのショコラティエに興味が湧いた。

    「これはおいしいね。
     俺もびっくりした」

    どうしたら、こんなもの作れるんだろう。

    世界にはいろんな人がいるんだな。
    俺はもう一粒、口に入れる。


    その後、しばらく彼女の話を聞くこともなかった。

    忙しくしているようだと妻から聞いていた。

    そんな折、妻が彼女を
    クリスマスディナーに誘ったと言う。

    ——自宅でもいいよね

    俺は快諾した。
    そろそろ一年くらい彼女に会っていない。
    相変わらずだろうか。

    人って、特に彼女みたいな子は
    そんな簡単に変わらないだろうな。

     
     
    余白のある静かなアンバランスさに惹かれています。それぞれの正しさが少しずつずれていく、その感覚を描いていきたいです。

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