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肉まんと、言えなかった言葉

アメリカに住んでいた頃、友人に教えてもらったお店があった。飲茶や月餅が並ぶ、中国人が経営する小さなお店で、「あそこの肉まんがおいしいから、ぜひ食べてみてほしい」と強く勧められていた。

ある日、そのオススメの肉まんを買って今日のお昼にしよう、と店に行ってみることにした。

店内に入ると、若い女性店員が二人いた。

最初、そのうちの一人が英語で何か話しかけてきたのだが、何を言っているのかよく聞き取れなくて、思わず「え?」という顔になってしまった。特に答えず、ショーケースの中を眺めていたら、そこからなんとなく空気が変わった気がした。少し離れたところで二人が小声で何か話している。

なんか嫌な感じだな、と思いながらも、友人イチオシの肉まんだけは買っていこうと、「肉まんをひとつください」と伝えた。「他には?」と聞かれたので、

「Ah, that’s it.」

と答えた瞬間——店員が、あからさまに嫌な顔をした。「たったひとつ?」と言わんばかりの表情で。その後も、包みを乱暴に私の前に置いたりして。

何も言わず、家に帰った。

帰り道、ずっとモヤモヤしていた。あの態度は何だったのか。私が何かしたのか。でも家に帰って肉まんを食べたら、そんな気持ちが一瞬で吹き飛んでしまった。おいしかった。アメリカでこんなにおいしい肉まんが食べられるなんて、と思うくらい、本当においしかった。

単純なものだ、と自分でも笑えた。あの頃は日本の食べ物に飢えていたから。

もう一回行きたい。でもまた嫌な目にあったら——そう思って、なかなか足が向かなかった。ある日、夫にそのことを話すと、「じゃあ一緒に行こう」と言ってくれた。

再訪の日、扉を開けると、例の店員がいた。

ドキドキしながら、今度は肉まんを二つ注文した。すると接客はいたって普通で、変な態度もなく、こちらが拍子抜けするくらい何事もなかった。

一人でショーケースを眺めていた私に向けられた、あの空気。あれは何だったのか。答えは今もわからない。

帰り道、頭の中でリプレイしていた言葉がある。

Thanks for the wonderful service.

嫌みのひとつも言えずに帰ってきた私が、肉まんを食べながら思い浮かべたセリフだ。英語だと、怒りも少しだけ品よく収められる気がして、それがなんだかおかしかった。

I’ll take my business elsewhere.
次に嫌な思いをしたら、これを言おう。

そう思いながら、結局また買いに行ってしまう自分が目に見えていた。

肉まんが、おいしすぎたから。

#創作大賞2026 #エッセイ部門

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