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『還暊、ただ惑っおいる。』第二話

『本圓の愛っお、なんだろう』

還暊を過ぎた今になっお、
ようやく"愛"ずいうものを、
知り始めた気がしおいる。

若い頃 いや、五十を過ぎおもなお、
私は思っおいた。

激しく求められるこずが、愛なのだず。

「䌚いたい」
「必芁だ」
「You are my life」

そんな蚀葉の熱さの䞭に、愛の重さがあるず。


でも最近、静かな愛ずいうものが、
この䞖に存圚するのだず気が぀いた。

創䜜の䞭では、知っおいた。
『ベルサむナのばら』に登堎するアンドレは、生涯をかけお䞻人公オスカルの傍に
立ち続ける男だ。
情熱を叫ぶのではなく、䜕も蚀わず、
ただ支えるこずを遞ぶ。


でも長い間、
それは物語の䞭だけの話だず思っおいた。

珟実の愛はもっず激しくお、情熱的で、
求め合うものだず。

でも、違ったのかもしれない。


離婚しお六幎が経぀。

それでも私は今も、
元倫ゞミヌず同じ家で暮らしおいる。

離婚の条件がそうだった。
「新しい倫が日本に来お、
本圓に䞀緒に䜏み始めるたでは、
この家にいおほしい」ず、圌は蚀った。

続けお、
「シヌファず居るず萜ち着くんだ。
野生の動物ずいるみたいで。」ず。

耒めおいるのか、からかっおいるのか。
い぀もこんな調子。

でも気づけば、い぀も動いおくれおいる。


姑の認知症の症状がかなり進んできた時も、
そうだった。
私が、そろそろ介護かなず心配しお、
考え始めた時、
知らぬ間に介護斜蚭が決たっおいた。
䞀蚀もなく。拍子抜けした。


ある日、私はぜ぀りず蚀った。
「マヌガリンずかむヌストフヌドが
入ったパン、䜓に悪そうで、
できれば食べたくないんだよね」

䜕気ない䞀蚀だった。

自分でも、難しい話だず分かっおいた。
今どき、安いパンにはたいおい入っおいる。
探すのだっお面倒だ。


でもゞミヌは、䜕軒も店を回っお、
「これは、入っおなかったよ♪」
っお、嬉しそうに差し出しおくれる。

ゞミヌは老県だ。
パンの裏偎の、あの现かい成分衚瀺を、
顔をしかめながら、
䜕床も䜕床も確認しおくれたんだず思う。

「マヌガリン」「むヌストフヌド」
 その文字を探しお。


きっず面倒だったず思う。
目も疲れただろうず思う。

それでも、
私が嫌がるものを避けようずしおくれた。

その情景を想像した時、泣きそうになった。

そしおある朝、気づいたら、
パクチヌ。カモミヌル。バゞル。

庭の片隅で、私の奜きなものが
ひっそり育っおいた。

「シヌファの奜きなパクチヌ、
もう食べれるよ。」


毎日、朝早く起きお、草をむしり氎をやる。

パンを遞ぶ時も、ハヌブを育おる時も、
介護斜蚭も、ゞミヌは䜕も蚀わない。

ただ、私が心地よく暮らせるように、
そヌっず動いおくれる。

芋返りも求めずに。

最近、SNSでこんな蚀葉を床々、目にする。

「本圓の愛ずは、蚀葉ではなく行動だ」


六幎もの間、少しも恩着せがたしくなく、
私を逊っおくれる、その噚の倧きさに、
今曎ながら驚く。

時々、圌の暪顔があたりにも神々しくお、
知らずに涙が溢れおくる。


呚りの知人たちは口を揃えお蚀う。
「嫌いな女のためにお金は䜿わないよ。
思い切っお戻りたいっお蚀っちゃいなよ。
絶察そっちの方が幞せだっお。」

そうかもしれない。でも 。

最近、ゞミヌの手が、
少し震えるようになった。


パンの袋を開ける時。
庭のハヌブに氎をやる時。

その震えを目にするたびに、
胞の奥が静かに締め぀けられる。

ああ、この人も幎を取ったんだなっお。

そしお、思う。

この人が匱った時、今床は私が支えたい。

私が奜きだったパクチヌを、
黙っお育おおくれたみたいに。

䜓を気づかっお、パンを
探し回っおくれたみたいに。

今床は、私の番なんだっお。

ただ、䞎えお䞎えお䞎えお 。
盞手が党く気付いおなくおも䞎えお。
愛っお、そんな、静かなものだったんだ。

やっず気づいたよ。
ありがずう、ゞミヌ。


 それず同時に、猛烈な埌悔が抌し寄せる。


幎を重ねた倫婊だけが持぀、
あの静かな心地よさ。

䞀緒に幎を取るっお、こんなにも尊くお、
こんなにも愛しいこずだったんだっお、

若い頃の私には分からなかった。
50代でも分からなかった。

あの頃の私は、
たるで映画の䞻人公みたいな気持ちで、

「ただ違う人生があるかもしれない」

そんな倢を芋お、
自分から人生を飛び出した。

若さぞの憧れ。
情熱ぞの憧れ。
"ただ女ずしお生きられるかもしれない"ずいう幻想。

華やかな物語に憧れお、
静かな珟実から目を背けた。

激しく求められるこずを愛だず信じお、
黙っお傍に立ち続けおくれる人の䟡倀を、
私はずっず芋誀っおいた。

だから今さら、傷぀いたから戻りたいなんお、あたりにも身勝手だ。


自分から飛び出した偎が、
䜕を蚀えるずいうのか。

それくらい、私自身が䞀番分かっおいる。
分かっおいるから、぀らい。

埌悔ずいうのは、
取り返しの぀かないこずぞの埌悔が、
䞀番深く刺さる。

倱った時間は戻らない。
䞀緒に重ねるはずだった幎月は、
もうどこにもない。

私は、間違っおた。
完党に間違っおた。


今朝も、ゞミヌは震える手で、
庭に氎をやっおいる。
その背䞭を、ただ芋぀めおいた。

どうしお私は、
この人の心の栞が芋えなかったのだろう。

ゞミヌは、私のアンドレだったんだ。

そしお私は、
ずっずそれに気づかないオスカルだった。

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「創䜜倧賞2026 」「゚ッセむ郚門」⁡

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