
「信長の野望」でマウントを取ってきた友人に、三十年越しで謝りたくなった話
高校二年生の頃。
友達の間で『信長の野望』の話題になった。
中学時代、かろうじてPCエンジンの『武将風雲録』を伊達家でプレイしたきりの僕。
それを正直に打ち明けると、
「風雲録!? あれおもんないよな!」
という身も蓋もない言葉が飛んできた。
スーファミ版『覇王伝』至上主義のI君だ!
なんだよ! 僕がなけなしの知識で話題に入ろうと努力してるのに。
悔しい気持ちを抑え、
「武将風雲録と覇王伝ってそんなに違うの?」
と尋ねると、I君は鼻の穴を膨らませた。
「天と地だよ! 覇王伝はやり込み要素がすごいけど、風雲録なんて茶器集めぐらいしかないじゃん!」
……暴論だ。風雲録は茶器だけじゃないぞ!
同梱の外付けセーブユニット『セーブくん』が必要なくらい大容量だし。
そう心の中で反論するも、比較対象がない僕に返す言葉はない。
その後も、I君の『覇王伝』話と『風雲録』ディスにひたすら耐えた。
やがて、話題はゲームから、武将の話に移っていった。
自慢じゃないが、僕は子供のころから学習漫画を読み漁っていたおかげで日本史には割と強い。
武将の話ならついていけるぞ!
僕は面目躍如とばかりに身を乗り出した。
すると、またしてもI君が口を開いた。
「そういえば、オダノブオっていたじゃん!」
……ノブオ? そんな武将、いたっけ……?
周りの奴らは、そもそも武田信玄なんかの有名武将しか知らない面々だ。
僕と同様、頭の上に、ハテナマークを浮かべている。
それを見て取ったI君、ちょっと得意げだ。
……彼のことは嫌いじゃないが、腹立つ顔だな!
「ほら、織田信長の息子の……」
その言葉で、ようやく合点がいった。ゆっくりと口を開く。
「I君! それって、織田ノブカツじゃない?」
きょとんとするI君。
僕は机に常備していた、『高校日本史用語集』を取り出して開いた。
「ほら、ここ。『信雄』って書いて『ノブカツ』って読むんだよ」
それを見た周りの奴らが爆笑し始めた。
「え、I君、ノブカツをノブオって読んでたの? マジで!?」
「中野(僕)、すげえじゃん!」
「ノブオうけるわーー!」
さっきまでのドヤ顔はどこへやら、急速にクールダウンしていくI君。
僕は彼に一矢報いたことに、内心ご満悦だった。
爆笑されて無口になった彼を見て少し心が痛んだけれど、先にマウントを取ってきたのは向こうだ。お互い様である。
しかし、この話には続きがある。
先日、ふと思い出してWikipediaを開いてみたのだ。すると、そこには信じられない文字が躍っていた。
『織田 信雄(おだ のぶかつ/のぶお)』
どういうことだ!? 『のぶかつ』だけじゃないのか?
驚いて調べてみると、一般的な呼び名は確かに『のぶかつ』らしいが、『のぶお』という読みも通説として存在し、高校の教科書に併記されたことすらあるそうだ。
……I君、あの時は爆笑してごめんよ……君は間違ってなかったんだね。
今度彼に会う時は、この話を酒の肴に、美味い酒でも奢ろうと思っている。