『糸』
彼女の投稿には、いつも人が集まった。
特別なことを書いているわけではない。
近所のカフェ。
買ってよかった雑貨。
休日に見つけた小さな店。
どれも、他の人が紹介しているものと大きくは変わらない。
それでも、彼女が紹介すると、人が集まった。
「この前、紹介してくれたお店に行ってきました」
「すごくよかったです」
そんなメッセージが毎日のように届く。
写真が特別うまいわけでもない。
文章が上手いわけでもない。
ただ、自分が気に入ったものを紹介しているだけだった。
ある日、知り合いから連絡が来た。
「今度、新しい商品を出すんだけど、紹介してもらえないかな」
彼女は少し考えてから答えた。
「まずは、商品を見せてもらってもいいですか? ご希望に添えるかは、わかりませんが」
数日後、商品が送られてきた。
彼女は箱を開けた。
商品を手に取る。
写真を撮る。
商品ページを開く。
説明を読む。
もう一度、商品を見る。
それから、写真を撮り直した。
文章も書いた。
けれど、投稿ボタンは押さなかった。
翌日も、その商品は机の上に置かれたままだった。
三日目。
彼女は商品を箱に戻した。
そして、送り主にメッセージを送った。
「今回は、お返しいたします」
それだけだった。
理由は書かなかった。
それから一週間ほどして、いつものように投稿した。
帰り道に見つけた小さな花屋。
店員が選んでくれた花を撮って、
「きれいでした」
とだけ書いた。
翌朝。
コメントがいくつも届いていた。
「今日行ってみます」
「ここ、気になってました」
「あなたが紹介するなら行きたい」
彼女は一つずつ返信した。
その日の午後、花屋の店主からメッセージが来た。
『昨日から、お客さんがたくさん来ています』
彼女は、
『よかったです』
とだけ返した。
スマートフォンを置く。
机の上には、返したはずの商品を撮った写真が残っていた。
彼女はそれをしばらく眺めてから、削除した。
その直後、通知が一件届いた。
『あなたのおすすめなら、何でも買います』
彼女は画面を見たまま、少しだけ眉を寄せた。
そして、スマートフォンを伏せた。
机の端から、細い糸が一本だけ伸びていた。

