
青ブラ文学部|衣擦れの音 天の川を渡る 衣擦れの音
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七夕の宵闇が漂う頃
小さな町の はずれ 泰山木の木陰で 蒼太は彩花を 待っていた。
今夜 彼女に贈るつもりの指輪を、大事にポケットに入れている。
近くを流れる 笹川のせせらぎが歌うように、闇夜にさんざめく。
だが 彼女は来ない。
川の向こうに見える町明かりに 七夕まつりのざわめきが聞こえるようだ。
蒼太は、木の根元に腰を下ろし 空を仰いだ。
彼の不安をよそに、無数の星がきらめいている。
と その時 サワッ〜と 一陣の風が渦をまいて吹き抜けた。
思わず閉じた目を開くと、そばに一人の女の姿があった。
見慣れぬ衣装を身につけ、長い髪が風に揺れている。

慌てて立ち上がった彼に、女は言った。
「大切な人を待っているのね」
「あ 貴方は誰です? どこから来たの…」
「ふふ… 空の上。天の川からよ。
だって お相手があんまり待たせるんですもの。ちょっとお散歩にね」
「お散歩って… 空から?」
「そうよ… あなた方は 天の川って遠い別世界だと思ってるんでしょ?
でもね あなた方も わたしも 同じ 天の川銀河に住んでいるの。
おひさまも あそこに見える星も みんな 天の川銀河の中にあるのよ」
「まさか… だって あんな遠くに光ってるじゃないか!」
「それも 全部いっしょに 大きな 大きな 天の川銀河の中にあるの
天の川は その一部なのよ。
そして ここは 天の川銀河 太陽系 第三惑星の地球 分かるかしら?」
あまりに途方もない話に戸惑いながらも、蒼太は 次第に女の話に引き込まれていた。
夜風に吹かれ、女の身体から 衣擦れの音がこぼれる。
ひとしきり、不思議な宇宙の話を聞かせた後
「さて、わたくしは もう行かなくては。今夜は楽しかったわ。
あなたの大事な人は、もうすぐ来ますよ」
「はい … 」
一瞬 風がそよぎ、遠い宇宙に星が流れた。
女の姿は 静かに消えた。
「あっ」
蒼太は、夕闇の中に 天の川を渡る 衣擦れの音を聞いたような気がした。
わずかな静寂。
やがて、小さな足音が急いで駆けて来るのが聞こえた。
晴れ渡る天の川は、二人の行く末を祝福するように きらめいている。
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