
青ブラ文学部 | 25時のほろ酔い女は 桜の満開の下で何を見たのか?
最終の地下鉄は、冴子の住む街の一つ手前の駅までだった。
地上に出ると、柔らかい春の空気に包まれる。
( タクシーは つかまりそうもない… )
すぐ目の前には、自宅のそばまで続く緑道公園の入り口がある。
冴子は、誘われるように、その小道に足を踏み入れた。
ほろ酔いの頬に、夜風が心地よい。
入口に立つ時計は、23時30分をさしていた。
仙台藩のお堀を埋めて造られた公園は、細く長くずっと続いている。
木立の向こうに見えるビルの明かり、遠くから響く車の音。
冴子は、その街の中の別世界を、ほろりと歩いて行った。
やがて、自宅への道半ばに、小さな池が見えてきた。
高い桜木が、それを取り囲み
まるで花かごのように枝を差し伸べ、水辺を包み込んでいた。
淡い街灯に照らされた桜は満開。
スマホを見ると、時刻はちょうど深夜、24時を回ろうとしている。
前方に目を凝らすと、水辺のベンチに黒い人影が見えた。
冴子は、ゆっくりとそばにさしかかる。
すると
「あの、よろしければ、ご一緒にこの桜を観ませんか?」
それは、ベンチの人影からの唐突な呼びかけだった。
だが、なぜか冴子は、驚かなかった。
まるで、その誘いを待っていたような気がして
「はい…」とうなづいた。
小さな池は、満開の桜に抱かれ
ひたひたと水の音を立てている。
街灯の鈍い明かりの中で、パチャンと何かが跳ねた。
「いい夜ですね」
「ほんとうに」
「貴女をお待ちしていました」
「なぜ…?」
「ここに来れば、お会いできると分かっていたからです、冴どの」
「なぜ私の名を? 貴方はいったい…」
男は答えない。
街の音が遠のき、時が止まった。
「いいのです。思い出さなくても。私はずっと貴方をお守りする者です。
時を超えて」
静けさが満ちた。
男は立ち上がると、つと手を伸ばして小枝を折り
「これを貴方に」と差し出した。
桜の樹は高くそびえている。どうやって花の小枝など折れるだろう。
だが、冴子の手に渡されたのは、まぎれもなく、美しい満開の桜であった。
「ありがとう…」
「またお会いしましょう、いつか、どこかで25時に」
ふっと、男の黒い影は揺らいだ。
スマホの時刻はちょうど深夜、24時を回ろうとしている。
男の姿は消えていた。
たしか、さっきも同じ時刻 24時だったはず…
わたしがすごしたのは、 幻の一刻 時のスポットなのか。
25時のほろ酔い女が見た 夢なのか。
でも、あの人は確かに言った。
「また会いましょう、いつの日か、25時に」と。
残された、手の届くはずのない桜の小枝が、その証だった。
桜の満開の下では、時に何かが起こるものなのだろうか。
< お断り >
「桜の森の満開の下」
「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」
このよく知られた作品のタイトルが、自分の中で結びつき
この作品のタイトルとして、浮かび上がりました。
意図的なものではなく、内容との関連はありません。
山根あきらさんの 企画
「25時の◯◯女」 というお題に 応募させて頂きます。
どうぞよろしくお願い致します。
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