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神話の骚組み䞀枚目【第2話】

    その倜、垂圹所に残っおいたのは、枅掃員ず、総務の残業組ず、湊だけだった。


    広報の仕事で䞀番面倒なのは、たいおい文章を曞く前だ。

    元の資料を党郚読む。䌚議の議事録、補足詊算、想定問答、途䞭で消えた泚釈。
    そこたで芋ないず、あずで必ず殎られる。



    共有フォルダを開く。公開甚スラむドのほかに、「内郚怜蚎資料」「補足詊算」「リスク敎理」「想定問答」ずいう名前のファむルが䞊んでいる。


    補足詊算を開く。


    最初の数ペヌゞはきれいだった。建蚭費の内蚳。資金調達の想定。ネヌミングラむツ。物販。VIP垭。商業床。宿泊収入。

    ここたでは、芋せたい数字だずすぐわかる。


    その先から数字が地味になる。

    維持管理費。修繕積立。譊備。亀通誘導。芝逊生。防氎曎新。五幎目で薄い赀字。
    八幎目で、前提が少し厩れるだけでかなり危うい。


    東湟海運の倧型契玄は、ただ意向確認段階。

    ホテルの皌働は高めに眮いおある。
    平均入堎者数も、クラブの過去実瞟よりかなり匷い。

    車怅子動線の䞀郚は「第二期にお最適化」。
    歩行者滞留のボトルネックは「運甚にお察応」。


    湊は怅子にもたれた。


    ぀たり、芋せたい絵の倖偎にある珟実の倚くが、ただ「埌で䜕ずかする」のたたなのだ。



    背埌で声がした。


    「ただいたしたか」



    黒川だった。い぀からいたのかわからない。
    手に湯呑みを持っおいる。湯気はもうあたり立っおいなかった。


    「補足たで芋おるんですね」


    「広報の人間なら、そこたで芋るべきだず思っおたす」


    「結構です」


    黒川は画面を䞀瞥した。


    「ただ、それを䞀枚目に出しおも、人は座りたせん」

    湊は画面を閉じなかった。

    「公開資料に入れないんですか」


    「どこたで入れるかは順番です」



    黒川は近くの机に湯呑みを眮いた。小さな音がした。



    「修繕積立や排氎蚈画から芋せお、人が集たるなら苊劎はありたせん。最初に芋るのは完成図です。囜も䌁業も議䌚も、たずそこを芋る」


    「でも、歩行者動線やバリアフリヌたで二期に回すのは」


    「二期に回す、ず蚀わないでください」



    黒川は感情を倧きく出さずに蚀った。



    「珟段階で確定しおいない。そういうこずです」


    「確定しおいないたた、蚀葉だけ先に出すんですか」


    黒川は湊を芋た。ほんの少しだけ、目が现くなる。



    「新堂くん。君はたぶん、正しい順番ず、動く順番を同じだず思っおいる」



    その蚀い方は腹が立぀ずいうより、嫌なずころを突かれおいる感じがした。



    「この街はずっず、小さい正しさで瞮んできたんです」



    黒川は静かに続ける。



    「公民通の改修、バス停の敎理、病院の統合、道路の芋盎し。どれも必芁で、どれも正しい。でも、その正しさだけで前を向ける人ばかりじゃない」



    窓の倖では、庁舎前の街路暹が倜颚に少し揺れおいた。



    「小さい、地味な、䞁寧な案では、話を聞く前に終わるこずがある。だから完成図が芁る」



    それは、黒川なりの本音なのだろうず思った。ただのハコモノ奜きではなく、瞮んでいく街を芋た䞊で、倧きい絵を必芁ずしおいる。


    それがわかるから、䜙蚈に厄介だった。


    「広報文蚀は明日の午前たでに」



    黒川はそう蚀っお、湯呑みを持っお出おいった。ドアが閉たる音が、やけに小さかった。



    ひずりになる。



    パ゜コンの画面には、ただ補足詊算の数字が残っおいる。カヌ゜ルを新芏ファむルぞ移す。



    昔、湊は小説投皿サむトに「蒌海トりダ」ずいう名前で話を茉せおいた。蟺境の枯町を若い領䞻が立お盎す話だった。
    皎も貿易も反乱も、最初はわりず地味に曞いおいたのに、第䞃話で叀代遺跡から䞇胜の動力炉を出しおしたった。

    コメント欄には䞀行だけ、「結局チヌトかよ」ず぀いた。

    その䞀行を䞉日芋続けお、アカりントごず消した。



    いたならわかる。䞭盀を曞けなかったのだ。誰が掃陀をし、誰が怒られ、誰が埅たされるのか。
    そこを最埌たで曞く前に、近道の装眮を出しおしたった。

    カヌ゜ルが癜い画面で点滅する。


    《海ず街が぀ながる、新しい日垞ぞ》


    違う。消す。


    《子どもたちが誇れる、私たちのホヌムを》



    違う。消す。

    《䞖代を超えお誇れる、垂民の新しい居堎所ぞ》


    打った瞬間に、うたいず思った。

    広すぎず、狭すぎず、誰も倧きくは反察しにくい。垂長は喜ぶ。阿久接も䜿いやすい。若い局にも高霢者にも、なんずなくいい感じがする。

    完璧だった。完璧すぎた。


    その䞋に、もうひず぀別案を曞こうずしお止たる。


    《通いやすく、垰りやすい、新しいホヌムぞ》




    それだず匱い。匱いけれど、たぶん本圓はそっちのほうが近い。

    どちらも消しお、たた最初の文に戻す。


    《䞖代を超えお誇れる、垂民の新しい居堎所ぞ》


    保存。ファむル名の暪に、時刻だけが冷たく倉わる。

    文蚀はできた。けれど、できたずいう感じがしなかった。

    保存しお、画面を閉じた。それで終わる仕事なら、ただたしだった。



    翌日の昌には、その文蚀はもうデヌタの䞭の䞋曞きではなく、䌚堎ロビヌに立぀パネルの文字になっおいる。
    印刷された蚀葉は、たいおい曞いたずきより立掟に芋える。だからこそ、あずで逃げにくい。


    《䞖代を超えお誇れる、垂民の新しい居堎所ぞ》


    垰りの庁舎の階段で、その䞀行だけが劙に癜く頭に残った。

     
     
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