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少しだけ夏

最近、
アイスが溶けるのが早い。

融解は気温だけじゃなく、
接している時間にも左右されるらしい。

駅前のコンビニで買って、
近くの公園まで歩くだけなのに、
もう縁の方から形が崩れ始めている。

でも夜はまだ少し涼しい。

半袖の腕を風が抜けるたび、
季節が決めきれないまま揺れているのがわかる。

ベンチに座ってアイスをかじる。

冷たいはずなのに、
甘さだけが長く舌に残った。

記憶もたぶん、
似た構造をしている。

人は出来事そのものより、
その時の匂いや温度を先に思い出すらしい。

遠くで電車の音がする。

去年の今頃は、
朝の満員電車に慣れるだけで必死だった。

知らない人の体温、
湿ったシャツの匂い、
窓ガラスに反射する眠そうな顔。

毎朝ちゃんと疲れていたのに、
最近は、
それすら身体の一部みたいになってしまった。

適応というのは、
環境に馴染むことではなく、
違和感の輪郭から順番に失っていくことなのかもしれない。

専門に入ってから、
時間の流れ方がおかしい。

課題、撮影、バイト、
全部が同じ速度で押し寄せてきて、
気づけば、
夢だったものが現実に近づいている。

ずっと遠くにあった時は、
ただ憧れていればよかった。

でも、
人は到達可能なものに対して、
急に恐怖を覚える。

心理学で、
それに近い名前があった気がするけれど、
思い出せない。

アイスがまた少し溶ける。

指についた甘さを舐め取る。

夜風で冷えた身体の奥だけ、
なぜか少し熱かった。

もうすぐ夏が来る。

夏はいつも、
人を少しだけ別人にする。

膨張した空気とか、
長くなる夕方とか、
そういう小さな作用の積み重ねで。

だから私は、
夏の手前くらいの季節がいちばん好きだ。

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