
妖怪くぅーはもう来ない|シロクマ文芸部
“深夜二時”とか、“丑三つ時”という響きが、どこか物語っぽくて好きだ。
昔から丑三つ時は、
幽霊や妖怪が出る時間とされてきた。
人の気配が消え、世界が一番静かになるとき、この世とあの世の境目がふわりと薄くなる—そんな時間帯。
最近のわたしにとっての“妖怪”といえば、
かつて深夜二時三時に定期出現していた、猫のくぅーちゃんである。
ニャー、ニャーと階段をかけあがり、ドアを必死によじ登ろうとする気配。
まるで「入れて〜」と言わんばかり。
眠い目をこすってドアを開けると、
テクテクテク、部屋へ入り平然とベッドへ飛び乗る。
あれが真夜中じゃなかったら可愛い。でも、あの時間はちょっとだけこわい。
わたしは時々思う。
あれは、妖怪くぅーだったんじゃないか、と。
正体は、猫をかぶった小さな夜の使い、
人がひとりで静かに寝入る時間帯に、そっと来てくれる。
でも最近、くぅーちゃんは来ない。
冷房が苦手なのか、別の居場所を見つけたらしい。
わたしの部屋は、今や通過点にすらなっていない。
真夜中に目が覚めても、誰も来ない。
丑三つ時、妖怪も眠っている。
部屋の中には、冷房の音と、自身の吐息だけ。小さな寂しさが、布団の中でふくらんでいく。
「今ごろ、どこで寝てるのかな、妖怪くぅー」
そうつぶやくと、
ほんの一瞬、どこかで鈴の音がしたような気がした。
んー、ただの耳鳴りだったか。
妖怪でもいいから、来てほしい夜もある。
そんなことを思いながら、
わたしは再びまぶたを閉じる。
朝はまだ、遠いのだ。
