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【シロクマ文芸部】ひとりごと処方箋

    藤井輝子(egg7v_)

    「ひとりごとを処方しましょう」
     かかりつけ医は慣れた調子で告げた。

    「は?」
     アズマは戸惑った。

    「服用方法は説明します」
     アズマは、何とか手元のカバンから紙とペンを出した。

    いつ使うか:就寝前・1日1回
    どうやって使うか:1日を終えた自分に言葉をかける
    なにを言うか:
    パターン①事実を認める:「出来るところまで今日は出来た」
    パターン②負担をかけない:「必要なことは十分やった」
    パターン③思考をやめる:「今日はここまでだ 寝よう」
    避けるべき言葉:
    「明日もっと頑張ろう」
    「前向きにならないと」
    「今日はだめだった」

    セルフコンパッションの一つ

     アズマはペンを止めた。
    「これで今夜から眠れますか?」

     かかりつけ医は快活に笑った。
    「騙されたと思って まずは続けてください」

     どこか腑に落ちない表情で、アズマは立ち上がった。
    「ありがとうございました」
    「朝日を浴びたり、散歩や日光浴もよいですよ」

     すぐ眠剤を処方されると思いこみ、副作用を検索していたアズマは拍子抜けした。が、昨夜の疲れが抜けたような気持ちになり、

    うーん

     と日差しを浴びながら、腕を空に向けて伸ばした。

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     アズマが出た診察室で、医師は電子カルテに入力した。今朝の混み具合は、かの感染症蔓延のおりに比べれば、そう大したことではない。午前診療は時間通りに締められそうだ。

     昼寝しようかな。今日は天気いいし。

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     午後23時。
     就寝準備も済み、アズマは選んだひとりごとを呟いてみる。

    「必要なことは十分やった」

     言葉にすると、なんとなく腑に落ちる。
    腑に落ちると、力が抜け、かすかな眠気がまとわりついてきた。

     そんなものなのかな、と思う。

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     最近、弟が他人になりすまし、家族の財産を盗んだ。親の老後生活の資金も、介護費用も、そこに含まれる。親は離婚し、精神状態が怪しくなった。いつもTVを最大音量のまま眠ってしまい、よく近所から苦情が来る。

     アズマは、自分がいつから眠れなくなったのか、思い出せない。

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     1ヶ月後、アズマは再受診した。

    「眠れてます?」
     かかりつけ医は明るくたずねた。

    「まあ、なんとか」
    「ずいぶん親御さん孝行されておられますなあ」

    「いやいや なかば強要です」
    「むりやり吞みくだす諸々を 自分で認めてあげる
     そういう処方なんですが 効いてるみたいですね」        

    「でも先生は薬処方しないと赤字でしょ?」

     しかし、医師には医師の矜持というものがあるのだ。

    「そりゃあ 眠剤処方するほうが楽ですがね
     アズマさんにはこっちのほうが良く効きそうかなと」

    「そうですね 本当にそうでした」

     かかりつけ医は、満足そうにカラカラと笑い声を立てた。
     
     昼寝したいな。今日も天気いいし。


    【終】


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