
【掌編小説】黒い折りたたみ傘
学生の頃、太陽がある日は嬉しかった。
「今日もキャッチボールしようぜ」
白球を追いかけて、
重たいバットを振って、
焼けた腕を見て笑ってた。
営業になった今、
俺は毎日、黒い折りたたみ傘を鞄の袖ポケットに入れている。
軽い。
昔の金属バットより、ずっと軽い。
「今日、俺も同行しまーす!」
後輩の後藤が、元気よく隣を歩く。
取引先のビルの前で、ネクタイを少し直す後藤を横目に見た。
まだ慣れてない動きだな、と思う。
袖から見える手首は、浅黒く焼けていても、どこか張りがある。
商談を終えた、営業先の帰り道。
「そーいえば、先輩、それいつも持ってますよね。今日とか降水確率0%すよ」
後藤が、鞄から少し見えた黒い傘を指差した。
「筋トレだよ」
「え、それ、そんな重たいんすか」
「いや、冗談冗談。じゃあ、お疲れ」
そう言って、後藤と別れた。
夜。
洗面所の鏡で、腕を見る。
いつからだろう。
こんなところに、シミなんて。
「あーあ、今日も使えなかったな。この日傘」
ベッドの横に置いた黒い折りたたみ傘を見る。
明日は、後藤のいない外回りだ。
……よし。