
待ち時間が、いちばん苦手
今回は、また違う検査の話。
1月末の体調不良から、約3ヶ月。
私は、ほぼ毎週、内科に通って検査をしている。
採血、検尿、検便、胃カメラ、腹部エコー。
どれも異常なし。
それでも原因がわからず、
先日、体の中を立体的に見るためのCTを撮ることになった。
普段の検査より、不思議と緊張はしていなかった。
CTは外から見るものだし、痛みはないと思っていたからだ。
けれど、その余裕は診察室で一気になくなった。
必要に応じて、「造影剤」という点滴を使うことがある。
血管を広げて、より見やすくするためのものらしい。
しかも、それは実際に撮ってみてから判断するという。
事前に説明書を渡され、署名を求められた。
一気に、現実味が増した。
検査着に着替え、廊下に並んだ椅子に腰かける。
待ち時間は、体感で30分ほど。
その間、検査室から声が聞こえてくる。
「息を大きく吸って、止めて、楽にしてください」
何度も、繰り返し。
それに合わせて、予行練習のように呼吸をしてみる。
けれど、緊張のせいかうまくいかない。
「楽にしてください」まで、たどり着けない。
機械の「プワンプワン」という音も、妙に耳に残る。
待合には、私ともう一人、学生らしき女性。
彼女はズボンだけ検査着に着替えていて、どこか余裕がある。
その後、呼ばれていった。
「足のレントゲン撮りますね」
——ああ、この人は腹部じゃないのか。
次に、検査室から男性が出てきた。
まるで普通に仕事の合間に出てきたかのような様子で。
——こちらも、私とは、違う検査なのかな。
そこへ、70代くらいのおばあちゃんがやってきた。
検査着には着替えず、椅子に座ってしばらくすると
看護師さんからコップを渡され、
「検査前に、こちらのお水を飲んでください」
水か、と少し安心する。
けれど、おばあちゃんはむせた。
——ただの水じゃないのか?
いろいろな考えが一気に巡る。
それでも「ちょっとむせちゃったわ」と言いながら、
最後まで飲み干し、検査室へと入っていった。
そのあと、メイクも服装も整った、
少しセレブっぽい女性がやってきた。
そのバッグには、「ラブブ」の人形。
そのとき、左前の検査室のドアが開いた。
看護師さんが出てきて、往復する。
復路では、点滴の袋を持っていた。
——これが、造影剤?
そう思っていると、
先程、点滴を持って入っていった部屋から、女性が点滴を刺したまま出てきた。
「段差、気をつけてくださいね」
そう声をかけられながら、
カーテンで仕切られたスペースへ案内されていく。
会話が、そのまま聞こえてくる。
「2回もすみませんね。痛かったですよね?」と看護師さん。
「なんだか、少しあたたかい気がします」と女性。
「冷え性の方は、そう感じることもありますよ」と看護師さん。
そして、
「あとで針を抜きますね。黄色くなって、あざのように消えていきますので」
——あざ。
その言葉で、急に緊張がマックスに達した。
私は、黙っていられなくなり、隣の女性に声をかけた。
「検査、苦手で…」
「私もです」
少し間があって、彼女が言った。
「……爪って、大丈夫かしら?」
紫色の爪が、目の前に差し出された。
「金属類は外すこと」と書かれている。
その中に、「爪」の文字があった。
「金属が入っている場合もあるんですかね」と言いながら、
結局どうしようもないと思ったのか、アクセサリーだけ外していた。
そういえば、私も少し前に、案内板に「マスク」が書いてあるのを見て、
一度ロッカーに戻り、外した。
金属を身につけない。
それだけは、ちゃんと守る。
検査以外のことで、機械に迷惑はかけたくない。
できることは、やっておく。
やがて、私の名前が呼ばれ、
「それでは、お先に行ってきます」
そう言って、検査室へ入る。
「お水を飲んでください」
差し出されたコップ。
——さっきのおばあちゃんが飲んでいたやつだ。
一応、確認する。
「これ、お水ですよね?」
「はい」
「ゲップしても大丈夫ですか?」
(そういう検査じゃないから…という顔で)
「大丈夫です」
少し安心して、飲み干した。
——普通の水だった。
検査台に横になる。
「目は閉じていた方がいいですか?」と聞くと、
「どちらでも」と言われる。
とりあえず目を閉じたが、
やっぱり気になって、途中で開けた。
機械が、ゆっくりと体の上を通っていく。
——これは、確かに怖い人は怖い。
「息を吸って、止めてください」
指示に従って、呼吸を止める。
「楽にしてください」
——それを、2回。
「はい、終わりです」
あっけなかった。
どうやら私は、
造影剤を使わずに済んだらしい。
受付には、先ほどの女性が座っていた。
点滴も終わり、落ち着いた様子で。
CDを受け取り、検査は終了。
今日もまた、ひとつ終わった。
#日常エッセイ