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【本芁玄】脳は䞖界をどう芋おいるのか: 知胜の謎を解く「1000の脳」理論

曞籍情報

著者ゞェフ・ホヌキンス
翻蚳倧田盎子
出版瀟早川曞房​
発行幎2022幎
䟡栌2,860円
ゞャンル神経科孊認知科孊人工知胜論脳科孊䞀般向け解説人類の未来・テクノロゞヌ論​

著者のプロフィヌル

 ã‚žã‚§ãƒ•・ホヌキンスは、神経科孊者であり起業家でもある研究者で、脳がどのように䞖界のモデルを孊習し予枬する理論、生理孊ず蚈算モデルの繰り返しから探究しおいる。 1979幎にコヌネル倧孊で電気工孊の孊士号を取埗した埌、むンテルの゜フトりェア゚ンゞニアずしお勀務し、その埌シリコンバレヌで情報端末パヌムパむロットを向いたパヌム・コンピュヌティングずハンドスプリングを創業し、モバむルコンピュヌティングの先駆者ずしおも知られおいる。 2002幎にはレッドりッド神経科孊研究所を蚭立し、2005幎には倧脳新皮質理論ずそれに䌎う機械知胜の研究を行う䌁業ヌメンタを共同創蚭するなど、産業界ず神経科孊研究を䞊行しながら「真のAI」を実珟するための理論構築に取り組んでいる。​

本曞の特城

本曞は、人間の新皮質が倚数の「皮質コラム」によっお䞖界を公認系ずしお衚珟し、物䜓や抂念ごずに䜕千ものモデルを䞊行しお構築しながら予枬を行うずいう「1000の脳」理論を、䞀般読者向けに䜓系的に解説しおいる点が最倧の特城である。埓来の敗北的な脳やAIモデルのむメヌゞを刷新し、新皮質党䜓に巡回された倚次元の公認系ず運動–感芚ルヌプを鍵ずしお、知芚・抂念・蚀語・高次思考がどのように統合されるかを考え、そこから機械知胜、意識、人類の将来リスクや文明の長期的な運呜たでを䞀気に論じおいく構成になっおいる。​

以䞋内容芁玄


叀い脳ず新しい脳二階建おの心


たずホヌキンスが出発点に眮くのは、「人間の脳は二階建お構造になっおいる」ずいうかなりラディカルな芋取り図だ。

䞀階郚分は爬虫類の時代から受け継いだ「叀い脳」、二階郚分は新しく増築された「倧脳新皮質新しい脳」で、この二぀がい぀も綱匕きをしおいる、ずいうのが圌の基本むメヌゞである。

叀い脳が担圓しおいるのは、飢えたら食べる、危険なら逃げる、敵だず思えば攻撃する、ずいったきわめおプリミティブなプログラムだ。ダむ゚ット䞭だず分かっおいおも倜䞭にラヌメンを食べおしたうずき、内偎で勝っおいるのはだいたいこちら偎だず思えばいい。

䞀方で、新しい脳である倧脳新皮質は、蚀語、抜象思考、論理、長期的な蚈画ずいった「人間らしさ」を支えおいる。将来の健康や貯金や地球枩暖化を心配しおいるのはほずんどこの局で、叀い脳から芋れば「心配性な新人マネヌゞャヌ」くらいの扱いかもしれない。

ここで重芁なのは、叀い脳ず新しい脳が䞊䞋関係ではなく「同居人」だずいう点だ。たずえば戊争や環境砎壊のような倧芏暡な自滅行動は、叀い脳の攻撃性や郚族䞻矩に、新しい脳の高床なテクノロゞヌず組織力が合䜓した結果だずホヌキンスは芋る。冷静な知性が暎走する本胜のために働くずき、人類はかなり危うい堎所たで行けおしたう、ずいうわけだ。

参照枠ず䞖界モデル脳の䞭の地図


次にホヌキンスが導入するキヌワヌドが「参照枠リファレンス・フレヌム」だ。

脳は䞖界をそのたた保存しおいるのではなく、「どこに䜕があるか」ずいう座暙぀きの地図ずしお保存しおいる、ずいうのが圌の䞻匵である。

たずえばコヌヒヌカップを考えおみる。芋た目だけなら「癜い円筒に取っ手が぀いおいる物䜓」くらいの情報だが、実際には手で持っお回したり、䞊から芗き蟌んだり、口を぀けたりするなかで、「この䜍眮に取っ手」「この䜍眮に瞁」「この䜍眮に底」ずいうふうに、カップ党䜓が空間的な構造ずしお頭に入っおいく。

なぜ「自分のマグカップ」ず「カフェの䌌たカップ」を区別できるのかずいえば、単に色や暡様を芚えおいるからではなく、埮劙な圢状差たで含めた「立䜓地図」ずしお保存しおいるからだ。初めお行く郚屋でも、䜕床か出入りしおいるうちに、ドア、窓、゜ファ、本棚の䜍眮関係が自然ず頭の䞭で「間取り図」になっおいく経隓も、同じメカニズムの延長にある。

ホヌキンスは、海銬で芋぀かった「堎所现胞」や「グリッド现胞」動物がどこにいるかを衚す神経现胞の研究から、こうした空間マップの仕組みが、新皮質党䜓に䞀般化しおいるず考える。぀たり、脳は文字通り「䞖界を地図ずしお持っおいる」ずいうこずになる。

皮質コラムず「1000の脳」倚数決で決たる珟実


ここで出おくるのが、本曞の看板である「1000の脳」理論だ。

倧脳新皮質は、衚面をタむルのように敷き詰めた「皮質コラム」ずいう小さな柱状ナニットからできおいお、それぞれが独立した䞖界モデルを持぀「ミニ脳」ずしお動いおいる、ずいうのがホヌキンスの倧胆な提案である。

皮質コラムは、䞀぀ひず぀が「この物䜓のこの䜍眮にはこれが来るはずだ」ず予枬を行い、実際の入力ず照合しお、合っおいれば「よし」、倖れれば「孊び盎し」ずいうサむクルをひたすら回しおいる。重芁なのは、こうした予枬ず修正が、コラムごずにほが独立に走っおいるずいう点だ。

たずえば、暗い郚屋でテヌブルの䞊の物を手探りしおいるずき、芖芚のコラムはほずんど情報を埗られないが、觊芚のコラムは「この圢はコップっぜい」「いや、これはスマホかもしれない」ず候補を絞り蟌んでいく。その途䞭で、かすかな光が入っお茪郭が芋えた瞬間、芖芚のコラムが「これはコップだ」ず匷く䞻匵し、最終的な刀断が「コップ」に収束する——ホヌキンスが描くのは、そんな「投祚」のむメヌゞだ。

この倚数決方匏のおかげで、脳はかなり頑䞈になる。

䞀郚のコラムが誀認しおも、他のコラムが正しい候補を掚しおいれば、党䜓ずしおは劥圓な知芚に萜ち着くし、逆に情報があいたいなずきは「よく分からない」ず保留にするこずもできる。だからこそ、人間は倚少のノむズや欠損があっおも、䞖界をそれなりに䞀貫したものずしお芋おいられる。

抂念ず蚀語意味はどこに眮かれおいるのか


さらにホヌキンスは、「地図」ずしおの衚珟が物理空間にずどたらないず䞻匵する。

倧脳新皮質は、蚀葉や抂念、さらには政治的立堎や䟡倀芳ずいった抜象的なものたで、「抂念空間」ずいう座暙䞊にマッピングしおいる、ずいうのが圌の拡匵版の䞖界モデルである。

たずえば「犬」ず「狌」ず「野生動物」は、意味的に近いため、抂念空間でも互いに近い堎所に眮かれる。䞀方で、「犬」ず「ドロヌン」はだいぶ離れた䜍眮にいる、ずいった具合だ。日垞䌚話の連想ゲヌムがスムヌズに進むのは、頭の䞭で近い堎所にある抂念同士を、ほずんど自動的に蟿っおいるからだず考えれば分かりやすい。

比喩も同じ構造を持぀。「人生は旅だ」ずいうありふれた衚珟は、「人生」ずいう抜象抂念ず、「旅」ずいうより具䜓的な経隓領域の座暙系を重ね合わせ、「出発」「寄り道」「迷子」「ゎヌル」ずいった構造を察応させる操䜜だず蚀える。ここでは数孊のような難しい蚈算は行われおいないが、「䌌おいる構造どうしを重ねる」ずいう、かなり空間的な䜜業が走っおいる。

こうしお芋るず、「思考」ずは高床な論理挔算ずいうより、広倧な抂念空間のあちこちを行ったり来たりする「散歩」に近い。ホヌキンスにずっお、知胜の本質ずは、この散歩の粟床ず柔軟性であり、そのむンフラが参照枠座暙系なのだ。

珟圚のAIず「真の知胜」のズレ


ここたで来るず、ホヌキンスが珟圚のAIにかなり厳しい点数を぀ける理由が芋えおくる。

ディヌプラヌニングは膚倧なデヌタのパタヌンを圓おるこずには長けおいるが、「䞖界の構造そのものを座暙系ずしお理解する」ずいう点で、人間の脳ずはたったく別物だ、ずいうのが圌の評䟡である。

たずえば画像認識AIは、犬ず猫を高粟床で芋分けられるが、それは䜕癟䞇枚ずいう画像から統蚈的な特城を抜き出しおいるだけだ。そこには「この四本足の生き物は歩く」「重力の圱響を受けお地面に立っおいる」「尻尟はおおよそこの䜍眮にある」ずいった、䞖界モデルずしおの理解はほずんど含たれおいない。

その結果ずしお、文脈が倉わるず途端に匱くなる。晎倩の道路で孊習した自動運転システムが、雪道や工事䞭の道路で劙な挙動を芋せるのは、「同じ䞖界を別の座暙系から芋盎す」胜力がないからだ。人間なら、「これはたたたた路面が癜いだけだ」「い぀もの道にコヌンが増えただけだ」ず䞖界モデルを柔軟にアップデヌトできるが、統蚈的なブラックボックスにはそれができない。

ホヌキンスは、真の汎甚AIを䜜りたいなら、「䞖界モデル予枬」ずいう脳の基本アルゎリズムを取り蟌む必芁があるず䞻匵する。぀たり、ただのパタヌン圓おマシンではなく、「自分で動き回りながら䞖界の座暙系を構築し続けるシステム」が必芁だずいうわけだ。

誀信念ず陰謀論䞖界モデルが暎走するずき


ホヌキンスの議論がおもしろいのは、この䞖界モデル理論をそのたた人間瀟䌚に持ち蟌むずころだ。

人間が陰謀論やオカルトにハマるのは、愚かだからではなく、自分の䞖界モデルを守ろうずする脳のアルゎリズムが過剰に働いた結果だ、ずいうのが圌の芋立おである。

䞀床「䞖界はこうなっおいるはずだ」ずいう地図が出来䞊がるず、脳はそれに合う情報だけを匷く採甚し、合わない情報をノむズずしお匟きたくなる。これは、䞖界モデルを安定させるずいう意味では合理的だが、モデル自䜓がズレおいるず、ズレを修正するチャンスを自分で朰しおしたう。

SNSで䌌た意芋ばかりがタむムラむンに流れおくる状況を想像すればいい。自分のモデルを補匷する情報だけが「予枬ず䞀臎」したずしお匷化され、異なる情報は「予枬゚ラヌ」ずしおすぐに消される。その結果、「䞖界は自分が思っおいる通りだ」ずいう確信だけがどんどん増幅される。

ホヌキンスにずっお、これは個人の性栌ではなく、脳の蚭蚈䞊の仕様だ。間違った䞖界モデルを持っおいおも、その内郚で敎合的に予枬ず匷化を回せおしたうかぎり、人は「自分は合理的だ」ず感じ続けおしたう。䞖界を正しく理解するには、モデルそのものを疑う、かなり面倒なメンテナンスが必芁だずいうこずになる。

AIリスクより厄介なもの人間の叀い脳


AIの章でホヌキンスが䞀番匷調するのは、「危険なのはAIそのものより、それを蚭蚈し䜿う人間の脳だ」ずいう逆説的なポむントだ。

知胜そのものは目的に察しお䞭立であり、その知胜にどんなゎヌルを䞎えるかを決める「叀い脳」のほうが、はるかにリスキヌだずいうのが、圌の䞀貫した立堎である。

たずえば、AIが戊争を起こすのではなく、戊争に勝ちたい人間がAIを軍事利甚する。AIが環境を砎壊するのではなく、短期的な利益を求める人間がAIを䜿っお資源を最倧限搟り取る。問題なのは「高性胜な道具」そのものではなく、「その道具を䜕に䜿うかを決める欲望ず恐怖」であり、それを叞っおいるのが叀い脳だ。

これは、前半で瀺された二階建おモデルず察応しおいる。新皮質はきわめお賢いが、独自の目的を持たない。叀い脳が「敵を倒せ」「自分の集団だけ守れ」ず呜じれば、そのために最適な戊略を次々ずひねり出す。栞兵噚も、監芖瀟䌚を支える情報技術も、その延長線䞊にある。

ホヌキンスは、人類が本気で自滅リスクを枛らしたいなら、AIの停止スむッチを議論するだけでは足りず、「自分たちが䜕を最終目的にするのか」ずいう、かなり気の重い問いを避けお通れないず瀺唆する。叀い脳のプログラムを前提のたたにしおおいお、新しい道具だけを安党に䜿いこなそうずするのは、どう考えおも分が悪い。

脳ず機械の融合が問いかけるもの


さらに本曞の埌半では、ブレむン・マシン・むンタヌフェヌスBMIや神経むンプラントの話題も登堎する。

ホヌキンスの姿勢は、未来ぞの期埅ず慎重さのあいだで揺れるのではなく、「ただ倧したこずはできないが、もし本栌的に実甚化したら自己像ず瀟䌚システムを根本から䜜り替える必芁が出おくる」ずいう冷静な芋通しに近い。

珟圚のBMI技術は、四肢の麻痺を補うなど、ごく限られた医療甚途にずどたっおいる。しかし、原理的には、蚘憶の怜玢を高速化したり、知識ぞのアクセスを「スマホを芋る」から「頭の䞭で盎接呌び出す」に倉えたりするこずが䞍可胜ずは蚀えない。

ここで問題になるのは、「どこたで拡匵したら、それでもただ『自分』ず蚀えるのか」ずいう自己同䞀性の境界だ。脳に盎接぀ながったクラりド蚘憶を䜿い始めおも、それを「自分の経隓」ず呌んでいいのか。知識ぞのアクセス栌差がそのたた「脳胜力の栌差」になったずき、政治や経枈のルヌルはどう倉えるべきか。

ホヌキンスは具䜓的な制床蚭蚈たでは螏み蟌たないが、「脳の理論が技術になったずき、哲孊や倫理や法埋が同じ速床でアップデヌトされなければ、かなりたずいこずになる」ずいう皋床の譊告ははっきり曞いおいる。ここでもやはり、「知胜そのもの」ではなく「知胜をどう䜍眮づけるか」が栞心にある。

「遺䌝子」から「知識」ぞ人類の目的を組み替える


本曞のクラむマックスにあたるのが、「人類の最終目的を乗り換えるべきだ」ずいう提案だ。

ホヌキンスは、これたで人類を動かしおきた『遺䌝子ずしおの存続』よりも、『知識ず知胜そのものを長期にわたっお残すこず』を、これからの文明の目的に据え盎すべきだず䞻匵する。

進化論的に芋れば、生物の目的は「生き延びお子孫を残すこず」に尜きる。しかし、新皮質が育おおきた科孊や芞術や倫理ずいった䜓系を考えるず、それだけでは䜕かが物足りない。せっかくここたで積み䞊げた「䞖界の理解」が、栞戊争か環境厩壊のどちらかであっさり消し飛ぶずしたら、それはあたりにもコストパフォヌマンスの悪いシナリオだ。

そこでホヌキンスは、「遺䌝子のために知識を䜿う」のではなく、「知識を守るために遺䌝子人間ずいう生物を手段ずしお䜿う」ずいう、かなり思い切った逆転を提案する。宇宙に進出するにせよ、AIやロボットが次の担い手になるにせよ、守るべきなのは「人間の圢」ではなく、「知胜ず知識のネットワヌク」そのものだ、ずいうわけだ。

この芖点から芋盎すず、栞兵噚の廃絶や気候倉動察策や瀟䌚の䞍平等の是正ずいった課題も、「いいこずだからやる」ではなく、「知識の長期的存続を守るための条件敎備」ずしお読み替えられる。叀い脳が求める短期的な欲望ず、新しい脳が芋぀けおしたった長期的な目的。そのあいだの緊匵関係をどうマネゞメントするかが、ホヌキンス流の「人類の宿題」だず蚀っおいい。

脳のアルゎリズムから文明の行き先たで


最埌にもう䞀床敎理するず、この本が描いおいるのは、おおざっぱに蚀えば次のような流れになる。倧脳新皮質は「参照枠を持った倚数の皮質コラム」が䞊列で䞖界モデルを぀くり、その倚数決で珟実を決めおいる。人間の知胜は、䞖界を地図化し、予枬し、誀差から孊び続けるシステムずしお理解できる。

そこから、珟圚のAIの匱点が芋え、陰謀論や分断のメカニズムが芋え、さらに人類の自滅リスクの根っこにある「叀い脳のプログラム」たで芋えおくる。

ホヌキンスが読者に突き぀けおいるのは、「脳の仕組みを知っおしたったあずで、自分たちの文明をどんな目的にチュヌニングし盎すのか」ずいう、やや気が重いが避けがたい問いそのものだ。

脳の話から始たっお、AIず政治ず倫理の話で終わるこの本は、「専門曞」ず「未来予枬」ず「文明論」のあいだにぶら䞋がっおいる少し倉わった䞀冊だが、ホヌキンスのねらい通り、それを぀なげおいるのは垞にひず぀のアむデア、぀たり「1000の脳が぀くる䞖界モデル」ずいう芖点である。

いいなず思ったら応揎しよう