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【#創作大賞2026#お仕事小説部門】夢はまだ、握ったまま【第二十二話】六席の店をやりたい理由

    ■あらすじ
    《寿司職人として働きながら、いつか自分の店を持つことを夢見ていた主人公。だが34歳のある日、その人生は「一型糖尿病」という診断によって大きく揺らぐ。


    毎日のインスリン注射と向き合いながら働き続ける日々。思い描いていた未来は少し形を変え、家族の存在はこれまで以上に大きくなっていく。


    夢を追うことと、家族を守ること。


    その間で何度も立ち止まり、悩み、それでも前を向こうとする一人の寿司職人。


    病気は夢を奪うものなのか。 それとも、新しい景色へ導くものなのか。


    これは、一型糖尿病とともに生きる寿司職人が、自分らしい幸せと本当に大切なものを探し続ける物語。


    あの日から変わった人生の中で、それでも夢は、まだ握ったまま。


    ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※この物語はフィクションではありません。一型糖尿病とともに生きる一人の寿司職人が、家族への想いと夢のあいだで揺れながら歩んできた日々を、ありのままに綴っています。》




    【第二十二話】六席の店をやりたい理由


    「どんな店をやりたいの?」


    独立の話をすると、よく聞かれる。


    その度に僕は、


    「六席くらいの小さな店をやりたいです。」


    と答える。


    すると大体同じ反応が返ってくる。


    「少なくない?」


    「もっと席数があった方がいいんじゃない?」


    「それで儲かるの?」


    確かに、その意見は正しいと思う。


    席数が多ければ売上は作りやすい。


    団体のお客様も取れる。


    スタッフを雇って規模を大きくすることもできる。


    でも、自分がやりたいのはそういう店ではない。


    六席には理由がある。


    僕はお客様一人ひとりと向き合いたい。


    今日はどんな一日だったのか。


    最近どんなことがあったのか。


    そんな話をしながら寿司を握りたい。


    魚の話をするのも好きだ。


    市場であった出来事を話すのも好きだ。


    寿司だけではなく、その時間ごと楽しんでもらえる店にしたい。


    席数が増えれば増えるほど、自分の目は届かなくなる。


    もちろん大きな店を否定しているわけではない。


    それも素晴らしい形だと思う。


    ただ、自分には合わない。


    僕が作りたいのは、どちらかと言えば店というより「集合場所」だ。


    誰かが来る。


    また別の誰かが来る。


    お客様同士が自然と顔見知りになる。


    気付けば会話が生まれる。


    そんな場所が理想だ。


    実際、自分が好きな店はそういう店が多い。


    店主がいて、お客様がいて、その空間に居心地の良さがある。


    用事がなくても顔を出したくなる。


    そんな店だ。


    そしてもう一つ理由がある。


    家族との時間だ。


    若い頃は休みなんていらないと思っていた。


    とにかく働いていたかった。


    学びたかった。


    でも今は違う。


    子どもたちも大きくなってきた。


    家族と過ごす時間も大切にしたいと思うようになった。


    独立しても仕事だけの人生にはしたくない。


    仕事は好きだ。


    寿司を握るのも好きだ。


    でも、家族との時間も同じくらい大切だ。


    だから自分は、大きな店を目指しているわけではない。


    自分が責任を持って目を配れる範囲で。


    お客様にも家族にも誠実でいられる範囲で。


    そんな店を作りたい。


    それが僕にとっての六席なのだ。


    六席の店をやりたい。


    その思いは年々強くなっている。


    でも、やりたいだけで店はできない。


    現実にはお金が必要だ。


    店を借りるにもお金がいる。


    内装を作るにもお金がいる。


    冷蔵庫や製氷機、寿司屋に必要な設備を揃えるにもお金がいる。


    そして開業したからといって、すぐにお客様が来てくれる保証もない。


    夢だけではどうにもならない現実がある。


    だからこそ、自分は35歳まで独立しないと決めていた。


    勢いだけで飛び出したくなかった。


    技術も経験も、人との繋がりも、できる限り積み重ねてから勝負したかった。


    夢を叶えるためには、夢を見るだけでは足りない。


    現実と向き合わなければいけない。


    そして気付けば、自分は次の壁について考えるようになっていた。


    「この店を作るためのお金を、どうやって集めるのか。」


    独立という夢は、少しずつ現実の形を帯び始めていた。

     
     
    名古屋で6席だけの寿司屋を開く予定です。 和食8年、寿司屋10年。 派手さよりも、ちゃんと美味しいこと。居心地がいいこと。また帰って来たくなること。 そんな店を作りたいと思っています。 このnoteには、開業までのことや、料理、空気、人との距離感について書いていきます。

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