メインコンテンツへスキップ
見出し画像

介護士は最後の他人 第23話「寝かせて」の本当の意味


    登場人物

    葵(あおい)
    介護福祉士。利用者の言葉だけで判断せず、その人の表情や仕草、生活歴まで含めて「本当に伝えたいこと」を考えることを大切にしている。

    美咲(みさき)
    介護職になったばかりの新人職員。利用者に寄り添いたいという思いは強いが、まだ経験が浅く、利用者の言葉をそのまま受け取ってしまうことが多い。葵との関わりを通して、介護の本質を学んでいる。

    佐藤さん
    認知症のある利用者。自分の思いを言葉で表現することが難しくなっているが、その一言一言には大切な意味が込められている。

    ⸻

    あらすじ

    「寝かせて……。」

    利用者のその一言を聞き、新人職員の美咲はすぐに居室へ連れて行こうとする。

    しかし、先輩介護士の葵は「少し待って」と声をかけた。

    その一言の裏には、本人でさえうまく言葉にできない本当の思いが隠されていた。

    ⸻

    「寝かせて」

    午後3時。

    レクリエーションが終わり、利用者それぞれが思い思いの時間を過ごしていた。

    車椅子に座る佐藤さんが、小さな声でつぶやく。

    佐藤さん
    「寝かせて……。」

    その声を聞いた美咲は、すぐに車椅子の後ろへ回った。

    美咲
    「分かりました。今、お部屋へお連れしますね。」

    すると、近くで見守っていた葵が静かに声をかけた。

    葵
    「美咲、少し待って。」

    美咲
    「えっ?でも佐藤さん、『寝かせて』って言っています。」

    葵
    「そうだね。でも、本当に寝たいのかな?」

    美咲は首をかしげた。

    ⸻

    言葉だけで判断しない

    葵は佐藤さんの前にしゃがみ、目線を合わせた。

    葵
    「佐藤さん、どこか苦しいですか?」

    佐藤さんは答えない。

    ただ、身体を少し前後に動かし、落ち着かない様子だった。

    足は何度も床を踏み直し、手は車椅子の肘掛けを強く握っている。

    その様子を見た葵は、美咲に小さく話した。

    葵
    「トイレへ行ってみよう。」

    ⸻

    本当に伝えたかったこと

    トイレへお連れすると、佐藤さんは排泄を済ませ、ほっとしたように大きく息をついた。

    帰り道、穏やかな笑顔で葵たちに話しかける。

    佐藤さん
    「ありがとう。」

    美咲は驚きを隠せなかった。

    美咲
    「寝たかったわけじゃなかったんですね。」

    葵
    「そうかもしれないね。」

    少し歩きながら続けた。

    葵
    「認知症のある方は、自分の気持ちを言葉で伝えることが難しいことがあるの。」

    葵
    「『寝かせて』という言葉を借りて、『苦しい』『トイレに行きたい』『何とかしてほしい』という気持ちを伝えていたのかもしれない。」

    美咲は静かにうなずいた。

    ⸻

    アセスメントとは「本当の理由」を探し続けること

    介護では、利用者の言葉をそのまま受け止めるだけでは十分ではありません。

    「帰りたい。」

    「痛い。」

    「嫌だ。」

    「寝かせて。」

    その言葉の裏には、本人でも説明できない理由が隠れていることがあります。

    排泄したい。

    身体の向きを変えたい。

    どこかが痛い。

    不安。

    寂しい。

    暑い。

    寒い。

    あるいは、ただ安心したいだけかもしれません。

    だから介護職に必要なのは、「言われたことをする力」ではなく、

    『なぜ、この言葉が出たのだろう。』

    そう考え続ける力です。

    それがアセスメントです。

    ⸻

    正解は一つではない

    今回の答えは、トイレでした。

    でも、次も同じとは限りません。

    人は毎日違います。

    体調も違えば、気持ちも違います。

    だから私たちは観察し、考え、試し、振り返る。

    その積み重ねが、その人らしい生活につながっていきます。

    介護は、「正解を当てる仕事」ではありません。

    利用者の気持ちに近づこうと、考え続ける仕事なのです。

    ⸻

    あとがき

    「寝かせて。」

    たった四文字の言葉。

    でも、その四文字だけでは、本当に伝えたいことは分からないことがあります。

    私たち介護職は、その人の表情や仕草、生活歴、普段の様子をつなぎ合わせながら、言葉にならない思いを探しています。

    介護とは、「してほしいこと」を叶える仕事ではなく、

    「本当に困っていること」を見つける仕事。

    利用者の言葉を信じることも大切です。

    でも、それ以上に大切なのは、その言葉の奥にある思いに耳を傾けること。

    それが、その人らしい生活を支える第一歩なのだと思います。

    ⸻

    介護士は最後の他人。

    だからこそ、家族では気づけない小さな変化に気づき、言葉にならない思いを受け止められる存在でありたい。

    それが、私の考える介護です。

     
     
    介護現場・管理職・経営をつなぐ人が辞めない仕組みづくり 力に頼らない介護と組織づくり 現場/育成/制度/経営 介護の再構築 研修・相談は✉️にて お気軽にお声掛けください。 re.care.works2026@gmail.com tiktokもやってます※下記アイコンから☺️

    あなたへのおすすめ