
Veil of Magia:Storm Legacy #6/6 「Epilogue:Sunbreak」
前回のあらすじ
両親を失った嵐の日から始まった物語は、一つの答えへ辿り着いた。
自分の力を受け入れ、Veilの未成年保護観察担当職員となったラン。
魔法少女達と、能力を持つ子ども達に囲まれながら、彼女は今日も誰かの未来を守っている。
これは嵐の記憶を受け継ぎ、誰かを迎えに行き続ける一人の女性の物語、その後の記録である。
すっかり寒くなってきた。
ぬるめに作ったココアを啜りながら。
報告書へ目を通す。
名前。
年齢。
能力分類。
そして所見。
先天性マギアホルダー。
能力発現時期は出生直後。
能力は微弱な電撃。
威力は静電気程度。
制御不能。
精神状態に連動。
対人恐怖傾向あり。
ランはページをめくる。
学校でのトラブル。
友人関係。
家庭環境。
大きな問題はない。
ないのだが。
報告書の端々から伝わってくる。
この子はずっと怯えている。
◆
カウンセリング室。
少女は椅子へ浅く腰掛けていた。
小学校低学年くらいだろうか。
俯き気味で。
両手をぎゅっと握り締めている。
「初めまして」
ランは向かいへ座る。
「藍原ランです」
「……」
「今日はお話ししよっか」
少女は小さく頷いた。
◆
最初は他愛ない話だった。
好きな食べ物。
学校。
クラスメイト。
最近見たアニメ。
少しずつ緊張が解けていく。
けれど。
能力の話になった瞬間。
少女の表情が曇った。
「嫌い」
ぽつりと言う。
「こんなの」
握った拳が震える。
「大嫌い」
パチッ。
黄色い火花が指先から弾けた。
「みんな大丈夫だって言うけど」
パチッ。
「全然大丈夫じゃない」
パチッ。
「人に触るの怖いし」
パチッ。
「先生にも怖がられるし」
少女は俯く。
「みんな優しいよ」
小さな声。
「大丈夫だよって言ってくれる」
でも。
そこで言葉が止まる。
「でもね」
震える声。
「私だけ違うの」
パチッ。
「みんな普通なのに」
「私だけ変なんだもん」
ランは何も言わない。
少女は気付いてしまっている。
誰も責めていない。
誰も嫌っていない。
それでも。
自分だけが違うという事実を。
「だから私ね」
拳を握る。
「誰かと遊ぶ時も気を付けるの」
パチッ。
「触らないように」
パチッ。
「迷惑かけないように」
パチッ。
「嫌われないように」
パチッ。
「私だって好きでやってるわけじゃないのに!」
感情に合わせるように。
黄色い電撃が身体の周囲を走り始める。
空気がピリピリと震える。
「落ち着いて」
ランは静かに言う。
「無理だよ!」
少女が顔を上げる。
涙でぐしゃぐしゃだった。
「なんで私なの!?」
バチバチッ!!
放電が強くなる。
「普通が良かった!」
バチッ!!
「こんな力いらない!」
少女の肩が震える。
「消えてほしい!」
その瞬間。
電撃が一気に膨れ上がった。
「っ!」
少女自身も気付く。
顔色が真っ青になる。
「やだ……」
震える声。
「また……」
電撃が走る。
「また出てきた……」
涙が溢れる。
「お姉さん離れて!!」
叫ぶ。
「危ないから!!」
ランは立ち上がった。
そして。
一歩前へ出る。
「駄目!」
少女が叫ぶ。
「触ったら――」
ランは優しくほっぺへ手を添えた。
パチッ。
小さな音。
黄色い電撃がランの左手へ流れる。
まるで。
吸い寄せられるように。
荒れていた電流が。
少しずつ。
少しずつ落ち着いていく。
バチッ。
パチッ。
やがて。
部屋は静寂を取り戻した。
少女が目を丸くする。
「……え?」
信じられないという顔だった。
「なんで……」
ランは微笑む。
そして左手を見せた。
青い雷光が小さく走る。
少女が息を呑む。
「私もね」
ランは言った。
「マギアホルダーなの」
少女の目が大きく見開かれる。
驚き。
戸惑い。
信じられないという表情。
ランは少し考えてから言った。
「これで」
優しく笑う。
「お友達になれるかな?」
「……え?」
「ほら」
左手の青い雷が小さく弾ける。
「私はあなたと一緒だよ」
少女の唇が震える。
その言葉は。
たぶん。
ずっと欲しかった言葉だった。
◆
少女の隣に座りながら話をする。
「最初は私も嫌だったよ」
昔を思い出す。
嵐。
雷。
恐怖。
否定。
拒絶。
「こんな力いらないって思ってた」
何度も。
本当に何度も。
「普通の人間でいたかった」
少女は黙って聞いている。
ランは少しだけ笑った。
「今でも、この力が好きかって聞かれたら、ちょっと困るかな」
「え?」
予想外だったのだろう。
少女が瞬きをする。
「だって雷だよ?」
肩を竦める。
「停電は嫌いだし、音も大きいし」
「でも」
ランは続ける。
「嫌いなことと、無くなってほしいことは違う」
少女の瞳が揺れる。
「この力があったから助けられた子がいる」
ケンタくんの顔が浮かぶ。
嵐の夜が浮かぶ。
「この力があったから出会えた子達もいる」
マギアホルダーの子供達。
魔法少女達。
みんなの顔が浮かぶ。
「でもね」
ランは少し笑う。
「私たち、みんなとそんなに変わらないよ」
「……?」
少女が首を傾げる。
「お腹空くし」
「うん」
「眠くなるし」
「うん」
「朝は布団から出たくないし」
「それは私も……」
少女が小さく呟く。
「でしょ?」
少女は少し笑う。
「能力があってもなくても」
ランは続ける。
「ご飯食べるし、眠るし、友達と遊ぶと楽しいし」
優しく言う。
「みんなと一緒なんだよ」
少女は黙る。
私だけ違う。
そう思い続けてきた。
でも。
目の前にいるお姉さんは。
自分と同じ雷を持っていて。
それでも笑っている。
「……うん」
小さな返事。
だけど。
先ほどまでとは違う声だった。
「せっかくだから」
ランは立ち上がった。
「ちょっと見せてあげる」
「?」
少女が首を傾げる。
ランは照明を消した。
部屋が暗くなる。
「見ててね」
微笑む。
「一瞬だから」
深呼吸。
両手を合わせ集中する。
指先へ意識を集める。
パリッ。
青い火花。
さらに。
さらに集中する。
形を崩さないように。
丁寧に。
ゆっくりと。
そして。
暗闇の中。
青白い光が浮かび上がった。
小さなハート。
「わぁ……」
少女が目を見開く。
ハートは数秒だけ空中で輝き。
やがて静かに消えた。
部屋へ明かりが戻る。
「すごい……」
「最近できるようになったの」
ランは少し照れくさそうに笑う。
「練習して」
「失敗して」
「また練習して」
「少しずつ仲良くなったら」
左手を握る。
「こんなこともできるようになるんだよ」
「私も……できるかな」
「できるよ」
ランは即答した。
「絶対できる」
「だから」
ランは拳を差し出した。
「この力をコントロールできるように」
優しく笑う。
「一緒に頑張ろ?」
少女は少し迷ってから。
拳を重ねた。
「……うん!」
◆
カウンセリング終了後。
ランは廊下を歩いていた。
スマホが震える。
メッセージ。
差出人は灰崎蓮也。
>能力使いました?
「?」
首を傾げる。
続けてメッセージが届く。
>急に雨が降ってきました
「……」
ランは窓の外を見る。
さっきまで晴れていた空から。
ぽつぽつと雨が降り始めていた。
さらにもう一件。
>何か心当たりあります?
ありません。
即返信。
一秒後。
>本当に?
本当です。
>後で報告書お願いします
「なんでですか!?」
思わず声が出た。
窓がカタカタと。
風で揺さぶられていた。
◆
しらないところだった。
しらないおへや。
しらないせんせい。
しらないこたち。
ママはおしごとだからっていった。
パパもおしごとだからっていった。
わかってる。
わかってるけど。
さみしい。
おうちにかえりたい。
まえのほいくえんにかえりたい。
おともだちにあいたい。
でも。
もうむりなんだって。
ママがいってた。
だからがまんしなきゃ。
なのに。
なみだがとまらない。
「だいじょうぶ?」
せんせいがきいた。
わたしはくびをふった。
だいじょうぶじゃない。
ぜんぜんだいじょうぶじゃない。
せんせいはこまったかおをした。
ほかのせんせいもきた。
でも。
なにもいえなかった。
だって。
さみしいの。
それしかわからない。
だから。
ずっとしたをむいていた。
そのとき。
「なにしてるの?」
おとこのこのこえがした。
かおをあげる。
いぬみたいなしっぽ。
ゆらゆらしてる。
へんてこなこ。
でも。
そのこはへいきそうだった。
「きみ、あたらしいこ?」
わたしはちいさくうなずく。
「そっか!」
そのこはわらった。
なんでかわからないけど。
すごくうれしそうだった。
「じゃあさ!」
そのこはてをだした。
「いっしょにあそぼうよ!」
わたしはきょとんとした。
そんなかんたんに?
ともだちってなるの?
なにもきかないの?
どこからきたとか。
なまえとか。
なんさいとか。
きかないの?
「はやくー!」
おとこのこがいう。
しっぽがぐるぐるしてる。
なんだかおかしくて。
ちょっとだけわらった。
ほんとうにちょっとだけ。
でも。
そのこはうれしそうだった。
だから。
わたしはそのてをとった。
「うん」
おとこのこはもっとわらった。
そして。
わたしをみんなのことろへつれていってくれた。