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不便な場所のほうが、持続する仕組みを持っている

2050年、日本では約4割の自治体が
消滅の危機にあると言われています
私はそれを、数年前に知りました

深刻な人口減少と高齢化
その対策として国が進める
コンパクトシティ化は、都市に人を集め
インフラを効率的に維持するという考え方です

それは合理的で、現実的な選択だと思います
けれど同時に、ひとつの疑問が残りました

本当にそれだけが
「これからの暮らし」の形なのだろうか

日本には、美しく豊かな里山や地方があります
けれどその風景の裏側で
インフラを維持するためのコストは増え続け
それを支える若い世代とお金は減っています

守りたくても、守れない
そんな現実が、静かに広がっています

私の周りには、地方へ移住した人が多くいます
その姿を見ながら
私は一つの問いを持つようになりました

里山や地方にあるものは何か
そして、都会にあるものは何か

2004年
私は東京からニュージーランドの秘境へ
移住しました

国は違っても、ここでの暮らしの中に
これからのヒントになるものがあるかもしれない

そう思い
この土地のことを書いてみようと思いました

ニュージーランド南島
西海岸の最北端に位置するカラメア
「西海岸最後の小さな町」とも呼ばれる
人口約800人のコミュニティです

私はここで、夫と
14歳の娘、11歳の息子と暮らしています

1874年に開拓されたこの町は
長い間孤立した環境の中で生きてきました
かつては海上輸送に頼り
1929年の地震で港が土砂で埋まり
他の町と結ぶ道路も約2年間寸断されました

そんな歴史の中で、この地には
セルフ・サステイナブル(自立して生きる)
という意識が当たり前のように息づいています

主な産業は酪農です

カラメアへ繋がる道は、二つしかありません

一つは
国立公園の中を約80km歩くトレイル
もう一つは
西海岸を走る一本道のハイウェイです

その道には山が二つあり
土砂崩れによる寸断と復旧を繰り返しています

町の税金の多くは
この道路のメンテナンスに使われています

興味深いのは、そのインフラが
「酪農」という産業によって
支えられていることです

牛乳を運ぶトラックが通るため
道路の復旧は優先される
停電時も、大きなジェネレーターによって
比較的早く回復します

もちろん、酪農による環境への影響もあります
けれどこの町には
「Clean Stream」という取り組みがあり
木を植えることで水質を改善し
自然とのバランスを保とうとしています

壊すか守るかではなく、どう共に生きるか
その選択が、ここにはあります

この町で最も印象的なのは
「人の意識」です

カラメアには水道がありません
人々は雨水を貯め
川や小川から水を得て生活しています

多くの家には畑や果樹があり
それぞれができる範囲で自給自足をしています

夏は窓を開けて過ごし
冬は暖炉に火を入れる
ソーラーパネルを使う家も少なくありません

生活の多くが、自分たちの手の中にあります

人口800人の小さな町ですが
ここには20カ国以上の人々が暮らしています

20年以上住んで感じるのは
この町に集まる人たちには
共通点があるということです

それは
「自分の価値観で生きたい」という意思です

社会の一般的な常識から少し距離を置き
自分にとって大切なものを選び取る

新鮮な空気と水のある場所で
自然に囲まれて暮らしたい

人が少ない場所で
自分のペースで生きていきたい

「不便で寂しい」のではなく
「離れているからこそ自由でいられる」という感覚

そんな価値観に素直に生きている人たちが
この町には集まっています

この町の暮らしには、「循環」があります

私が子どもを産み育てる中で感じたのは
子育てに必要なものの多くが
自然と回ってくるということでした

洋服のほとんどはおさがりで
ベビーベッドや自転車
おもちゃも家庭から家庭へと
受け継がれていきます

誰も使わなくなれば、次の誰かへ
それでも余れば、隣町のリサイクルショップへ

無理をせず、けれど無駄にもならない
そんな流れが、当たり前のようにあります

教育費も最小限です
教材は学校が用意し、給食もあります

そして修学旅行やスポーツ遠征などで
大きな費用が必要なときは
コミュニティ全体で支えます

子どもたちが主体となり
先生のサポートを受けながら資金を集め
地域の人たちがそれを支える

手作りのお菓子や卵、薪や食事券
暮らしの延長にあるものが
そのまま価値になります

「誰かが負担する」のではなく
「みんなで支える」という考え方です

私はここで、アート展覧会を企画したり
シニア向けのチェアヨガのクラス
を開いたりしています

この町は面積が広く
離れて暮らす人も多いため
人と会う機会そのものが
とても大切にされています

食事会やスポーツ、何気ない集まり
特にシニアが社交できる機会は
意識的に作られています

ホームパーティーやビーチでのバーベキュー
自然の中で人と過ごす時間が、日常の一部です

かつて
「消費する楽しみ」に慣れていた私にとって
ここでの暮らしは新しいものでした

暮らしを楽しむこともまた
自分たちの手でつくるもの
なのだと
私は学びました

日本の里山もまた
同じような可能性を
持っているのではないでしょうか

確かに人口は減り
インフラの維持は難しくなっています

けれどそこには
広い土地とゆったりとした時間があり
人の手で育まれてきた暮らしがあります
そして、その土地を守ってきた知恵もあります

だからこそ
新しく関わる人ができることもあるはずです

守るだけではなく、更新していくこと
受け継ぎながら、進化していくこと

不便さの中には
持続するための仕組みがあります


主となる産業と提携しながら
経済、環境、暮らしのバランスを保つ

シンプルだからこそ
つくり上げることができる暮らしがあります

ニュージーランドの小さな町で見つけた気づきが
日本の里山や地方を考える
ひとつの視点になれば嬉しいです

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