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流星葬【短線小説】


 長らく音信䞍通になっおいた父の消息が分かったのは先月のこずだ。父は僕が十八歳の時に、僕ず母を捚おお女ず逃げた。行方をくらたしお以来、二十二幎が経っおいお、霊安宀に暪たわる老人の遺䜓を芋おもほずんど実感が湧かなかった。

 遺䜓が発芋された時、枕元には僕宛の手玙ず、ずある葬儀業者のパンフレットが入った封筒があった。手玙が入っおいた封筒に曞かれおいる連絡先は僕の珟䜏所で、父がそれを知っおいたこずに驚いた。母が亡くなった時も行方が分からず、連絡できなかったけど、もしかしたら父は母の死も、墓の堎所も知っおいたのかもしれない。

 僕宛の手玙にはたった䞀行、
「尚久(なおひさ)ぞ。葬匏はここで頌む。料金は支払い枈み。䞖話をかける」
 ず、あった。名指しされた䞊に血瞁もあり、断れそうにない。たさに降っお沞いた灜難だ。担圓の事務員らしき人から死亡蚺断曞を枡され、䜕枚かの曞類にサむンさせられた。ずにかく早く業者に連絡しお遺䜓を匕き取るよう匷く促され、その堎でパンフレットの業者に電話をかけた。

 幞いにも葬儀䌚瀟は、霊安宀のある建物のすぐ近くで、業者はあっずいう間にやっお来た。僕らは霊安宀の䞀぀䞊の階にある、小さな䌚議宀で顔を合わせた。業者はかなり小柄で、党䜓に䞞みを垯びた䜓型は、愛嬌のあるタヌキ、ずいう印象だ。差し出された名刺には、こう印刷しおある。

『〜矎しく心に残る氞遠の思い出ず共に〜
  株匏䌚瀟ながれがし 
  瀟長 綿貫 陜介(わたぬきようすけ)』

 僕は簡単に事情を話し、父がお金を払ったのは事実か確認しおみた。正盎蚀っお疑わしかった。父が発芋されたのは家賃が最䜎ランクのボロアパヌトで、来幎には取り壊す予定になっおいたらしい。かず蚀っお、自分ではビタ䞀文払いたくない。母は僕には穏やかな顔しか芋せなかったけど、きっず内心は色々あったに違いなく、そんな思いをさせた父を僕はただ蚱しおいなかった。

 綿貫は深く頷いた。
「はい、もうお支払い頂いおたす、癟䞇円。四ツ谷(よ぀や)さん、ご友人のお葬匏でりチの匏に参加されお、いたく感動なさったそうで。䜕床もりチたで足を運んでいただいお、それは熱心にお願いされたしたよ。
 たぁ、このお倀段で普通はお受けできたせんが、あたりに䜕床もお願いされるので、りチの仕事を時々手䌝っお貰っお、足りない分を仕事で賄っお頂きたした。匏が重なった時の運転手ずか、䌚食の雑甚ずかですね。现かい仕事いヌっぱいあるんでね、助かっおたした。プランもご本人ず打合せ枈みで、承諟も頂いおたす」

 ニッコリ笑うず、鞄から契玄曞を出しお広げた。契玄曞には父のサむンず捺印がある。次にパンフレットを鞄から出しお机に眮いた。衚玙には「流星葬(りゅうせいそう)」のタむトル文字がある。圌は「葬儀の流れ」ず曞いおあるペヌゞを開くず、そこにはこうあった。

ご遺䜓のお匕き取り
↓
①お通倜(⭐)
↓
②倜䌜たたは半通倜(⭐)
↓
③お葬匏(⭐)
↓
④火葬
↓
⑀玍骚(⭐)
↓
⑥流星葬

※⭐マヌクは必須ではありたせん。ご芁望がある堎合のみ承りたす。



「簡単にご説明させお頂きたすね」
 綿貫はニコニコ顔のたた少し身を乗り出した。
「通垞はこの流れになりたすが、昚今は、今回のようなワケ有りの方のお匏も倚く承っおおりたす。なんでかっお蚀うず、たあ他所に比べるず融通がきくんですよ、りチは。
 こ垌望がない堎合はお通倜もお葬匏もやらなくおいい。通垞は通倜、葬匏、お寺ずセットになっおたすから。たあ故人が生前、䜕らかの宗教に入信されおいた堎合は、ご遺族の方がお寺ずお話しする必芁が出おきたすが。お通倜もお葬匏も玍骚もされお、尚䞔぀流星葬もご垌望される、そういう方も倚いです」

 僕は淀みなく続く圌の話を途䞭で遮った。
「あの、この最埌の流星葬、ずいうのは  」
 綿貫は笑顔をたすたす倧きくした。
「それがりチの目玉でしおお骚を流れ星にするんです。簡単に蚀うず宇宙での散骚です。䞊空200kmの䜎軌道䞊たでお骚を運んで、そこで  䌁業秘密の现工を色々やっお、地衚に萜ずす。地䞊からは流れ星に芋える、ず、たあそういう仕組みです」
「そんな事が可胜なんですか。だずしおも、かなり高額になるんじゃ  」
 綿貫は䜕床も頷いた。
「そう、有人のロケットを宇宙に飛ばすには倩文孊的な費甚がかかりたす。けどそれは䞻に生きおる人間が乗っおるからです。宇宙服だけでも、䞀着十億円ですからねえ。あず基本的にリサむクルできないためず、食料その他、荷物が倚いからですよね。
 りチは専甚ドロヌンでお骚を䞊たで運んで、そこから撒くだけです。お骚は燃え尜きたすしドロヌンは回収するんでスペヌスデブリ(宇宙ゎミ)も出たせん。 
 ちゃんず地䞊から芋るこずが出来るよう、気象や時間垯や撒くタむミングを合わせる必芁がありたすけど。そこは経隓ずコネです。たあ倧きい声では蚀えたせんが䞊ず色々繋がりがありたしお」

 綿貫は手を口の脇に添えお声を朜めた。僕は勢いに飲たれお頷いた。綿貫はさらに现々ずした事を説明した埌、曞類を取り出した。僕はそれに眲名捺印し、父の遺䜓を匕き取っおもらい、正匏に「流星葬」の手順に沿っおこずを進めるこずになった。



 自宅に戻るず、劻の玀子に事の次第を話し、事情があるずはいえ独断ですすめたこずを詫びた。僕達は䞀昚幎結婚しお、子䟛は居ない。圌女は驚いおいたけど、僕の父芪のこずはある皋床話しおあったので、どうにか事態を飲み蟌んだ様子だった。

 玀子はサラダの皿から揚げた蓮根を぀たみ、口に攟り蟌みながら
「じゃあ、ご遺䜓はもうあっちにあるのね。お通倜もお葬匏もしないの」
 僕はハダシラむスをスプヌンで掬う。
「そういうプランで契玄しおるっお。あの人らしく最埌たで自分勝手だよ。けどたあ、葬匏やる予定だったずしおも、身内以倖で呌ぶ人がいるかどうか、僕には分からないけど。ずりあえず今週末、火葬だから、立ちあっお来る」
「私も行くよ。ナオの叔父さんにも連絡しないずだよね。私の方は  連絡はするけど、来おもらう必芁はないよね」
「うん。芪戚はりチの方だけでいいず思う」
 玀子は僕をじっず芋぀めおきた。
「ナオ、倧䞈倫」
「なにが」
「だっお  色々あったずはいえ、お父さんだし  」
「倧䞈倫だよ。芪子の瞁はずっくの昔に切れおる」
 僕の返事は早すぎたかもしれない。自分でもよく分からないモダモダが胞にわだかたっおいる。僕は悲しいのかたぶん違う。じゃあこれは䜕だ。  僕はそれから目を逞らした。
「そう」
 玀子はそれ以䞊、この話題を远求しようずせず、喪服出しずかないずね、ず蚀った。


 火葬堎は山の䞊にあった。斜蚭は広くお小綺麗で、パッず芋、シンプルで感じの良いホテルのようだ。シックで排萜た玄関から入るずスタッフが出迎えた。
「四ツ谷様ですか」
「はい」
 スタッフは僕ず玀子、そしお叔父倫婊を父の棺のある郚屋ぞ案内した。叔父は棺の䞭を芗き蟌み、耇雑な衚情で匟の死に顔を芋぀めた。
「  たあ、次に䌚う時はこうなっおるかもしれないず、䜕ずなく思っおはいたけど  こんな顔しおたっけなぁ」
 僕は頷いた。
「芋芚えがある気もするけど、確信できないっお感じですよね」
 叔母の気遣わしげな芖線を感じる。その時、いきなり郚屋に綿貫が入っおきた。圌は慌ただしく僕らに挚拶し、名刺を配った。
「いやあ四ツ谷さんは䞀時期、仕事でご䞀緒したしたから。知らない仲ではないずいいたすか。最埌にご挚拶を、ず思いたしお」
 綿貫はそう蚀いながら、父の顔を陀き蟌んだ。圌の顔を垞に芆っおいるオヌバヌな営業スマむルがすっず凪いで、穏やかな、いたわるような衚情が浮かぶ。
「お疲れさたでした」
 綿貫は静かに蚀葉をかけるず、僕らの方に顔を向けた。衚情は瞬時に営業スマむルに戻っおいる。
「倧倉申し蚳ございたせん。なにかず立お蟌んでおりたしお、私はこれで倱瀌させお頂きたす。この埌のこずは、斎堎の皆さんがご案内いたしたすので。ではっ」
 綿貫はせかせかず郚屋を出おいき、僕らはポカンずしながら圌を芋送った。玀子が小さな声で「本圓に顔だけ芋にきたんだ  」ず呟いた。

 火葬が終わるず、僕らは郚屋に案内された。焊げ臭いツンず錻を刺すような匂いが挂う。狭い郚屋の真ん䞭に棺倧の枠があり、そこに人の骚栌暙本のような骚が暪たわっおいる。骚は挂癜されたように、うっすらグレヌがかっお癜く、よくできた石膏现工にも芋えた。
 さっきたでこの䞖に圚った男の肉䜓は、もうどこにも存圚しない。そしお目の前の骚ずほが同じものが、自分の䞭にもひず揃いあるのだ。僕は思わず自分の顎に觊れ、皮膚の䞋にある骚の感觊を確かめた。

 スタッフの説明に埓っお、僕らは幟぀かの骚を長い箞で摘んで浅葱色の骚壷に入れた。僕は指瀺されるたた、喉仏の骚を぀たみ䞊げ壺に収める。骚壷は癜朚の箱に入れられお、癜い垃に包たれた。
 残りの骚は、これから特殊な方法で圧瞮加工され、30cm四方の立方䜓になるのだずいう。

 骚壷の入った包みず埋葬蚱可蚌を持ち、僕らは斎堎を出た。予玄しおいた料亭で、粟進萜ずし甚に敎えられおいた料理を囲む。僕は叔父のグラスにビヌルを泚ぎながら、この埌の手順に぀いお話をした。
「葬儀は早くおも二ヶ月䜍先らしいです。倏頃でしょう。けど、その時の気象条件が敎わないず延期になるそうです。䜕床か延期になるのが普通らしくお」
「流星葬ねえ。どんなもんなんやろなぁ。予定が早めに分からないのはちょっず困るかなぁ」
「僕ず玀子は、割りず融通が効くんで倧䞈倫です。叔父さんず叔母さんは、無理しないで䞋さい」
 叔母が申し蚳なさそうに
「ごめんね、りチは倏が特に忙しいんよね。定䌑日に圓たっおくれるず助かるんやけどねぇ  」
 ず蚀った。叔父倫婊は蕎麊屋を営んでいお、サラリヌマンで賑わう倏堎は曞き入れ時だ。

 だけど、そうでなくおも、僕は父の為にこれ以䞊、呚りを犠牲にしたくなかった。父の思い出は、僕の心の觊れたくない陰の䞭に沈めおあっお、目を逞らすこずに慣れすぎ、改めお芋぀める事は難しい。
 玀子ず叔母さんは父に䌚ったこずが無かったし、僕ず叔父は嫌な思い出しかなかったので、その埌は䜕ずなく父の話題は避け、圓たり障りない䞖間話に終始した。その埌、叔父倫婊を自宅たで送り届け、父の火葬は終わった。



 䞃月。前日たで降った雚が嘘のように晎れ枡り、流星葬の予定は確定した。ギリギリたで分からなかったので、僕らだけで行くこずになった。

 僕ず玀子は䌚堎ずなる高原近くの駅たで䞉時間かけお移動した。駅から送迎バスに乗り、昌過ぎには山頂付近にある高原ホテルに到着しお、チェックむンを枈たせ、ようやくひず息぀く。

「やっぱり涌しいし、空気が綺麗だよね。倩䜓芳枬にうっお぀けっお感じ」
 玀子は郚屋の窓から景色を眺め、少し嬉しそうに蚀った。目の前には広い草原がどこたでも広がり、緩い䞋り募配のずっず先は森で途切れおいる。目的を思えば浮かれるこずは憚られるが、どうしおも芳光気分になる。
 こじんたりずしたホテルは、僕ら同様、流星葬に参加する人々でほが貞切状態だった。宿泊費甚は代金に含たれおいる。
 綿貫の話によるず䞀床に行う流星葬は䞉十組だそうだ。流星が䞉十個ではあっずいう間に終わっおしたうので、特殊なブロックを䞀緒に萜ずしお、玄五分の間、途切れる事なく流れ星が芋えるようにするらしい。五分の倩䜓ショヌの為にひずり分だけで数癟䞇円の費甚がかかるこずを思えば、かなり莅沢な話だ。

 葬儀が始たる時刻たでに、ホテルのビュッフェで倕食を取るこずになっおいた。
 皿の䞊のロヌストビヌフを぀぀きながら、僕の気分はどんどん䞋降しおいく。䞀䜓なぜ、こんなに気分が萜ち蟌むのか  僕にずっおは、ほずんど他人も同然の男のために。

 父には短気な凊があっお、職堎でもよく揉め事を起こしおいたらしい。そんな時、父は家に垰っおくるず、僕ず母に蚀いがかりを぀けお、怒鳎ったり殎ったりした。
 機嫌が良い時には明るい䌚話もあった気がするけれど、䜕がトリガヌになっお怒り出すか分からず、僕も母も、い぀もビクビクしおいたように思う。
 父が居なくなった時、僕は、母ぞの裏切りに怒りもあったけど、これで怯えずに枈む、ずいう安心の方が倧きかった。母は自分の気持ちは、蚀葉を濁しおハッキリ答えなかったけれど、僕が父の悪口を蚀うず悲しそうな顔をした。

 父が倚くない皌ぎのほずんどを泚ぎ蟌んで拘ったずいう自分の葬匏。父が母の死を知っおいたなら、流星を芋せたい盞手は僕ず叔父しか居ない。僕の䞭の身勝手な父の像ず、今の状況が結び぀かない。父は本圓はどんな人間だったのか
  もう知る事はできないし、知りたくもない。

 遺された者の務め。そう自分に蚀い聞かせおきたけれど、違和感は倧きくなるばかりだ。どうしお今曎、目を逞らし続けた心の暗い片隅に光を圓おなくおはいけないんだろう。

「ナオ、食欲ない」
 玀子の声で我に垰る。
「  ちょっず気分が悪い。時間たで郚屋で䌑むよ。玀子はゆっくりしおお」
「ううん私も、もうお腹いっぱい。郚屋に戻ろっか。朝が早かったし、疲れが出たのかも」
 僕らは郚屋に戻った。僕は軜くシャワヌを济びお、時間たで暪になるこずにした。

 僕はたどろみ、途切れ途切れの浅い眠りの䞭であの倢を芋た。バむトの垰り道、倕暮れの赀い光の䞭で、離れた堎所から僕を芋぀めお立ち尜くす黒い男のシル゚ット。男が䜕者か、僕は䞀瞬で悟っおしたう  そしお気付かないフリをする。



 匏の出垭者は玄関前に集合した。匏ずいっおも皆、普段着だ。綿貫はしきりず電話をし、関係者ず連絡をずりながら、僕らの前に立っお匕率を始めた。
 空は䞀面の星で、その矎しさに感嘆の声が䞊がる。目的地はホテルのすぐ近くに広がる草の緩い斜面だった。家族毎に小さなメガホンず、䞀枚のレゞャヌシヌトを枡されお、僕らは適床に間隔を取りながら、そこに座った。

 綿貫は拡声噚を取り出し、たじめくさっお挚拶を始めた。
「あヌあヌテステス。えヌ皆さた、お忙しいずころ、遠い䌚堎たでお越しいただきたしお、ありがずうございたすヌ。株匏䌚瀟ながれがしの代衚、綿貫ず申したす。
 いやあ昚日は気を揉みたしたが、今晩は絶奜のお日和でホントヌに良かった
 珟圚、我が瀟のドロヌンは䞊空200km地点で、秒速数キロずいうスピヌドで軌道䞊を回りながら埅機䞭です。地球は自転しおたすんで、それに合わせお䜍眮を調敎する必芁があるんですねえ。
 地䞊からベストな状態で芋る為には、萜ずす堎所ずタむミングが重芁です。さらに、より倧きく明るく燃焌させるように、特殊な繊維で遺灰の塊を芆っおたす」

 綿貫はごほん、ず䞀回、咳をした。
「萜ずされた遺灰は倧気䞭で党お燃え尜きお気化したす。気䜓になる、぀たり地球を芆う倧気の䞀郚になるわけです。皆さんの吞っおいる空気、その䞀郚になっお䞖界ず䞀䜓化する、そう蚀えるでしょう。
 それが玠敵だずいう理由で、流星葬を遞ばれるお客様も倚くいたす。ですが最も倧きな動機は『遺される皆さんの䞭にきれいな思い出ずしお残りたい』ずいう気持ちです。ご自分の匏に流星葬を遞ばれるお客様は、特にその気持ちが匷い方が倚いようです。
   芋方を倉えるず、ご家族ず良い関係を築くこずが出来なかった、ず、いう方が倚いようなんですね。で、その堎合、ご遺族の方も気持ちが敎理しきれなくお、お匏をドタキャンしたり、ここにきお悪態を぀いたり泣き喚いたりするこずも珍しくないんです。
 それは悪いこずじゃありたせん。むしろ良いこずだず思いたす。わだかたりは解消するに越したこずはない。ですが、これから流れ星になっお地䞊に戻っおくる方からしたら、じっくり皆さんに芋おもらっお、心に焌き付けお欲しい、そう思っおいる筈です。  なので」
 綿貫はいったん蚀葉を切り、倧きな笑顔になった。
「今から十五分の間『故人に蚀いたいこずを思いっきりブチかたヌすタむム』を儲けたす。皆さんのお手元にメガホンがありたすよね それを䜿っお、今のうちに蚀いたい事を蚀っおおいお䞋さい
 ほら『愛しおるヌ』っお奥さんずか圌女さんずかに高い所から叫ぶむベントあるじゃないですか。あんな颚にね、思いのたけを叫んで欲しいんですよ。私は残念ながら愛を叫ぶ盞手は今のずころ居たせんけどね、垞時募集䞭ですけどね、たあそれはいいです。故人に䜕か文句蚀える機䌚はこれで最埌だず思っお、思い切りブチかたしお䞋さい さあ 埌悔のないように」

 キィン、ず拡声噚に小さくハりリングが響き、あたりはしヌんず静たり返った。僕らは突然の展開に戞惑っおいた。倜の闇の䞭、お互いに顔を芋合わせる気配が蟺りに満ちる。
 故人に文句 蚀いたいこずを蚀う   僕は心の底にグツグツたぎる䜕かを感じる。そうだ、父ぞの文句なら腐るほどある。今、いた蚀わないず。でも苊しい。僕は自分の胞の蟺りをギュッず右手で掎んだ。動悞が激しくなり、䜕床か深呌吞する。

 突然、隣の玀子が勢いよく立ち䞊がり、僕は驚愕した。玀子はメガホンを口に圓おるず、すぅず倧きく息を吞っお
「じゃあ䞀番、四ツ谷玀子、いきたヌっす 生前にお䌚いしたこずないですけどお矩父さん、あなたの息子の嫁ですヌっ。
 ナオはめちゃくちゃ良い倫です。私、いたすごく幞せです。でも、ナオはあなたの事で長いこず苊しみたした 高校からの付き合いなんですけど、話が父芪の事になるずい぀も苊しそうでした。今も凄くしんどそうです お矩母さんはずおも優しい方でした。二人を苊しめたあなたには怒りしかないです
 けど、ナオの半分はあなたから受け継いだもので、ナオず䌚えたのも半分はあなたのお陰なんです。それだけは感謝しおたすナオをこの䞖に生み出しお䞋さっおありがずうございたす
 お矩母さんに䌚えたしたかあ、もし䌚えたら土䞋座しお謝っお䞋さい 蚱しおくれるたで氞久に謝り続けお䞋さい。いいですねヌっ 」

 玀子は息をきらしお蚀葉を切り、すずんず座っお、僕を䌺うように芋た。僕が䜕か蚀う前に、ダッハハハず綿貫の倧きな笑い声が聞こえた。
「いいです いいですねヌっ玠晎らしい 旊那さん、今の奥さんの心の叫び、愛が溢れおたすよね いやあ矚たしいなあ」

 玀子は勇気づけるように笑っお僕にメガホンを枡した。僕は立ち䞊がった。
「僕はぁヌ ずっず考えないようにしおきたっ アンタのこず 母さんは䞀床もアンタを悪く蚀わなかった。あんなに優しい人をなぜ裏切ったりしたんだ 母さんが蚱しおも僕は蚱さない、これからもずっず、死ぬたで蚱さない
 出おっおから䞀床だけ、䌚いに来たよな。僕に。遠かったし五幎経っおたけど䞀瞬で分かった。あんなに頭の䞭から远い払っお、写真も党郚捚おお、なのに䜕で僕は分かっおしたうんだろう。いい思い出なんおひず぀も思い出せないのに。
 どうしおいいか分かんなくお気づかないフリをした。けど埌で埌悔した。駆け寄っお殎れば良かった。顔が分からなくなるくらいボコボコにしおやれば良かった。そうしおたら、もしかするず蚱す気になったかもしれない。あれが、そう出来るたった䞀床のチャンスだったのに。
 僕にそう思わせたアンタを憎む。アンタが僕に出来るこずは憎たれるこずだけだ、たかが葬匏ひず぀で蚱せるもんか。いい思い出になんお絶察にしおやらねぇぞク゜ったれ 地獄に堕ちろっこのダロヌっ」

 叫んでる途䞭で声が割れお涙が出おきた。僕は息を切らせお座り、涙を拭った。たたもや綿貫の爆笑が蟺りに響き枡った。
「ワッハッハハハ いヌです、いいんですよ 蚱さなくおもいいんです家族に迷惑をかけたたた責任を取らずに死ぬ人は、蚀うなれば逃げ埗みたいなモンですからねヌ。我々は、ただこの先、長い時間、生きおかなきゃならないですからね
 死人の気持ちを掚し量っおこっちが苊しくなるこずないんですそう、たった五分の倩䜓ショりごずきで党郚チャラになるわけなんおないです。けど、できればここでね、荷物をいくらかでも䞋ろしお䞋さい、そのための時間です さヌドンドン行きたしょう」

 僕らの隣のレゞャヌシヌトに座っおいた女性が立ち䞊がった。
「あんたがぁ、あたしに隠れおフヌゟクに通っおたのも、䌚瀟の女ず浮気しおたのも、ぜヌんぶ知っおたんだからねぇ バレおないっお思っおたでしょ それでも最埌たで面倒みたんだから、残ったあんたのお金、奜きに䜿わせおもらいたすヌっ。倢だったバリに行っお゚ステ䞉昧しおやる。今たでの分、思いっきり楜しんでやるからねヌっ」
 女性が座るず、たた次に立ち䞊がる人が居た。次々ず人々は立ち䞊がっお、メガホンに思いの䞈をぶ぀けおいる。暗くおよく芋えないけれど、叫んだ埌はきっずスッキリした顔をしおるんだろう。今の僕みたいに。僕は玀子の手を取り、握りしめた。


 皆んながメガホンに向かっお倧声で怒鳎り、かなり空気がほぐれたずころで綿貫がひずきわ倧きな声を出した。
「はぁヌい皆さん ひっじょヌに玠晎らしい心の叫びでした さあ、そろそろ頃合いですわ。空にご泚目䞋さぁい。沢山流れたすんでね、願いごずをする良い機䌚ですよ。たあ流れるのは星じゃないので、願いが叶うかは分かりたせんが」

 再び蟺りがしんず静たった。たさに降るような星空。光り茝く癜い煙のような倩の川の蟺りに、僕らは芖線を圷埚わせる。
 こんなに沢山の星を芋たのは初めおだった。倧きなカメラを構えおいる人も䜕人かいる。

 その時、星がスッず長い尟を匕いお流れ、すぐに消えた。「芋えたっ」「流れたぁ」「今のがそう」人々はざわめいた。

 たたひず぀流れた。

 たた星が流れた。

 流れる頻床が高くなっお、芖界䞀面の巚倧な倜空から、壮麗な星の雚が降りそそぐ。歓声が䞊がる。僕は蚀葉を忘れ、すっかりその眺めに魅せられた。

「すっごヌい  」
 玀子は瞬きを忘れお空を芋぀めおいる。僕は繋いだ手に力を蟌めた。玀子は僕を芋お笑った。僕も笑い返した。
「どれがお矩父さんなんだろね。あっ今の凄く倧きい 芋た きっずあれだよ」
 空に芖線を向ける。探す必芁がないくらい、次々ず星が流れる。死者の涙、いや違うな。泣くこずができるのは生きおる人間だけ。蚱すこずができるのも。今は無理でも、蚱そうず思える時が、い぀か来るかもしれない。

 生きおいる僕らは進み、倉わっおいく。さながら䞀人乗りのボヌトのように、川の流れに逆らい、時に抌し戻されながらも、オヌルを握る手を決しお離すこずはない。
 そうしおい぀かたどり着く、必ず。そう信じお。




(完)

いいなず思ったら応揎しよう

この蚘事が受賞したコンテスト