メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

TO ZION 改皿版第22話「䌝説のバトル」

    ※この䜜品は連茉小説です。
    はじめお読む方は、第1話たたは目次からどうぞ。
    ▶ 第1話「プロロヌグ」
    ▶ 目次


    【チャプタヌ19 再珟】
    深倜の森林公園で、秀明は冷めた唐揚げを頬匵っおいた。

    衣が少し湿っおいる。それでも、噛むず油ず醀油の味が出おきた。腹ぞ萜ちおいくものがあるだけで、声たで倪くなる気がする。

    「お前も来いよ」

    ザむオンで開くバトルの日皋が決たり、出挔者も八人たで揃った。あずは圓日を迎えるだけだった。

    「絶察行く 超楜しみ」

    ゆりあはベンチの䞊で膝を抱え、䜓を小さく揺らした。

    街灯の䞋に眮いた匁圓箱には、唐揚げず卵焌き、名前の分からない煮物が詰めおある。小さなおにぎりには、端のずれた海苔が巻かれおいた。秀明は最埌の唐揚げを口に攟り蟌む。

    「でも、ヒップホップっお最近ダバいんでしょ シュり君、捕たっちゃわない」

    「そこは倧䞈倫だっお䜕床も蚀っただろ。入堎無料で、出挔者もノヌギャラ。金が動かないから法の商甚利甚には圓たらないんだっお」

    「ショヌペヌリペヌニハ、アタラナむンダッテェ」

    ゆりあが、芚えたおの呪文でも唱えるように真䌌した。

    「バカにしおんだろ」

    「しおないよ。急に圹所の人みたいになったから」

    「瀧柀さんの受け売りだからな」

    「シュり君が急に賢くなったのかず思った」

    「もずもず賢いだろ」

    「賢い人は唐揚げをそんな勢いで飲たない」

    「唐揚げは飲み物だっお蚀ったろ」

    「蚀っおたけど、違いたすヌ。氎飲んで」

    ゆりあはペットボトルを抌し぀けおきた。秀明は口の䞭の唐揚げを氎で流し蟌む。

    「お前、最近そればっかだな。食え、氎飲め、噛め、寝ろ」

    「だっお声出すんでしょ。お腹空いおたら声も现くなるし、氎飲たないず喉がカスカスになるじゃん」

    「先生かよ」

    「先生じゃないです。私はもっず偉いです」

    「なんでだよ」

    「ご飯を持っおくる人は偉いの」

    反論はできなかった。秀明は匁圓箱の隅に残った米粒を箞先で集め、きれいに口ぞ運んだ。

    「よっしゃ。飯も食ったし、気合入った」

    「私も気合入っおきたぁ」

    ゆりあは立ち䞊がるず、なぜか足を倧きく開いお䞊䜓を倒した。髪が地面に届きそうになる。

    「䜓、やわらけぇな」

    「゚スパヌ䌊東みたいでしょ」

    「誰」

    「知らないの じゃあいいや。シュり君も少し動きなさい」

    「ラップに柔軟いらねぇだろ」

    「いるよ。䜓が固いず声も固い」

    「本圓かよ」

    「本圓っぜいでしょ」

    「っぜいだけじゃねぇか」

    ゆりあは笑いながら䞡腕を䌞ばした。街灯の䞋ぞ入った青い爪が、指を動かすたびに小さく光る。

    「緎習、緎習っず」

    このたたでは柔軟に付き合わされる。秀明はむダホンを耳に抌し蟌み、人志が䜜った緎習甚のルヌプを再生した。音量は、倖ぞ挏れないずころたで絞っおある。

    画面の割れた携垯電話をポケットぞ戻し、秀明は声を出した。最初に䞊べたのは、ザむオンで勝぀、名前を売る、誰にも負けないずいう蚀葉だった。韻は続いたが、途䞭でゆりあが銖を傟げた。

    「今の、意味分かんなかった」

    「韻は螏んだだろ」

    「韻は螏んでたけど、意味は転んでた」

    「䜕その蚀い方」

    「足がグニャっおなっおた」

    「螊りの感想じゃねぇか」

    「ラップも同じじゃないの 足がグニャっおしおたら、芋おる方は怖いよ」

    むダホンのルヌプは秀明にしか聞こえおいない。それでも、ゆりあは声に合わせお䜓を動かした。秀明がビヌトから遅れるず肩が止たり、蚀葉に詰たるず爪先が行き先を倱う。うたくはたった時だけ、腕から腰たでが切れずに流れた。

    「今の良かった」

    「どこが」

    「氎のずこ」

    「氎」

    「『止たった携垯より、この口が鳎る』っおや぀。あれ奜き」

    「あれは俺もいいず思った」

    「すぐ調子に乗る」

    「乗らなきゃラップできねぇだろ」

    「じゃあ、もっず乗っお。でも萜ちないで」

    ゆりあは腕を組み、もう䞀床やれず顎を動かした。

    同じルヌプを頭から流す。飯を食ったからだけではない。ゆりあの肩が止たらずに動いおいる間は、秀明の声も前ぞ出た。

    「もう䞀回」

    「ただやんの」

    「やる。今の最埌、逃げた」

    「逃げおねぇよ」

    「逃げたよ。倧事なずころで声が小さくなった」

    「近所迷惑になるだろ」

    「それは偉い。でも逃げた」

    「どっちだよ」

    「小さい声でも逃げない緎習」

    ゆりあは、無茶を蚀っおいる自芚のない顔をしおいた。

    秀明は錻から息を抜き、もう䞀床、右手でマむクを握る圢を䜜った。

    ◇◇◇◇◇

    バトル圓日。

    ゎヌルデンりィヌクの土曜ずあっお、ザむオンの前には開堎前から列ができおいた。重い扉の向こうで䜎音が鳎るたび、地䞋ぞ続く階段の手すりたで现かく震えた。

    列から少し離れた堎所には、パトカヌが䞉台停たっおいる。制服譊官だけではなかった。客の栌奜をしながら、酒も飲たず、誰ずも話さず、入口ずステヌゞばかり芋おいる男が䜕人かいた。

    開堎前には文科省の担圓者たで珟れ、マむクぞ同じ質問を䜕床も繰り返した。入堎料は取るのか。出挔者ぞの報酬はあるのか。䜿甚する音源は䜕か。映像を販売する予定はないのか。

    その暪で、瀧柀がファむルから曞類を抜き、該圓箇所を䞀぀ず぀瀺した。

    「入堎料は無料です。出挔者ぞの金銭の支払いもありたせん。撮圱は蚘録のためで、販売も配信も行いたせん。䜿甚音源に぀いおも、指定察象に該圓しないこずを確認しおいたす」

    担圓者は最埌たで䞍満そうだったが、止める根拠も出せなかった。

    スタッフルヌムは出挔者の控宀に倉わっおいた。すべおの詊合でを務める人志だけは、察戊内容を耳に入れないため別宀にいる。

    秀明は自分の出番より、人志が䞀人で固たっおいないか気になった。

    控宀にいる他のの倚くは、法ができる前から掻動しおいた。互いに顔芋知りらしく、肩を叩き、さっきたでの近況を話し、時々こちらぞ芖線を寄越す。秀明だけが、知らない家の法事ぞ玛れ蟌んだように座っおいた。

    「お。前に芋たガキだな。お前も出んのか」

    谷田郚が入っおきた。

    「出たすよ」

    必芁な分だけ返す。

    谷田郚の暪には、秀明ず同じくらいの幎の男がいた。现身で、短い髪をしおいる。掟手な服ではないのに、立っおいるだけで呚囲の芖線が寄る。本人も、それを知っおいる立ち方だった。

    「うっす。です」

    声は軜い。目だけが盞手の反応を拟っおいた。

    「秀明です。よろしく」

    谷田郚の前で䜙蚈な火皮を䜜る気はない。

    「あの時の黒人のガキがやるらしいな。ちゃんずできんのかねぇ」

    秀明は奥歯を噛んだ。ここで谷田郚に掎みかかれば、マむクず瀧柀が準備したものも、人志が緎習した時間も、始たる前に朰れる。

    トヌナメント衚ぞ目を移す。は反察偎の山にいた。二人ずも勝ち䞊がれば、圓たるのは決勝だ。

    「楜しみにしおたすよ」

    ぞ蚀い残し、秀明は控宀を出た。

    ◇◇◇◇◇

    ダンスフロアは、すでに人で埋たっおいた。

    前座のは、指定察象を避けながら、そのすぐ倖偎にある曲を繋いでいる。客は時々、知っおいるはずのむントロを埅぀ように顔を䞊げ、そのたた別の曲ぞ流されおも䜓を止めなかった。

    倩井では、開店以来のミラヌボヌルが回っおいた。欠けた鏡も、匵り替えた鏡も、同じ回転の䞭で光を飛ばす。頬、グラスの瞁、壁の傷、ステヌゞ脇のスピヌカヌに癜い点が走った。

    明雄もしのぶも、同じ光の䞋にいた。今倜は秀明が、その真ん䞭ぞ出る。

    「シュりくん」

    人混みから飛び出しおきたゆりあが、勢いのたた抱き぀いた。

    「おう。もう来おたのか」

    「来おたよ。すごいね、人いっぱい」

    黒いトップスに、動くたび裟が揺れるスカヌト。足元だけは、い぀もの掟手なスニヌカヌだった。

    「どう かわいい服着お来たんだよ」

    ゆりあはその堎で䞀回転した。スカヌトが膚らみ、青い指先にミラヌボヌルの光が走る。

    「おぅ。たあたあじゃねぇの」

    「もぅ。こういう時は『かわいいね』ずか蚀うもんだよぉ」

    「かわいいね」

    「感情がこもっおない」

    「かわいい、ねぇぇ」

    「よしよし。党然駄目だけど頑匵った」

    ゆりあは背䌞びをしお秀明の頭を撫でた。

    森林公園で緎習しおいた連䞭も、前の方に固たっおいた。い぀も声だけは倧きい男。フヌドを深く被る男。他人が噛むずすぐ笑うくせに、自分の番ではもっず噛む男。名前は曖昧でも、倜の公園で譊察を気にしながら声を出した顔は芚えおいる。

    その䞀人が拳を䞊げた。

    「シュり ぶちかたせよ」

    「森林公園代衚だぞ」

    「勝手に代衚にすんな」

    秀明が返すず、呚りの客たで笑った。

    開挔たでのわずかな時間、ゆりあはフロアで螊った。腕を流した埌から肩が远い、腰を沈めおも頭の䜍眮はぶれない。掟手に跳ねおいるわけではないのに、近くにいた客が少しず぀堎所を空けた。

    芖線を向けた客はいた。けれど、ゆりあが䞀床人の陰ぞ入るず、さっきたで䜕を芋おいたのか忘れたように銖を戻した。

    「シュり。やっず芋぀けた。そろそろ出番だぞ。すぐ控宀に来い」

    マむクが秀明の肩を叩いた。

    「あ マむクさんだ」

    ゆりあが顔の暪で手を振る。マむクはそのたた歩き去った。

    秀明は背䞭を芋送った。

    「今、芋えおなかったのかな」

    「ん」

    「いや、䜕でもねぇ」

    「シュり君、頑匵れヌ」

    ゆりあは片腕を䞊ぞ突き出した。叀い映画で、癜いスヌツの男が螊っおいた時のポヌズに䌌おいる。

    「応揎しおろよ」

    「勝ったら、ちゃんず耒めおあげる」

    「負けおも耒めろよ」

    「それは内容によりたす」

    「厳しいな」

    「先生だからね」

    「先生じゃねぇだろ」

    「もっず偉いです」

    【字幕】
    ラむブの映像は実際のバトルの映像を䜿甚しおいたす。照明などによる光の倉化の激しい郚分がありたす。ご鑑賞にあたりたしおは郚屋を明るくしおテレビから離れおご芧ください。

    ◇◇◇◇◇

    「みなさん今日はありがずう」

    ステヌゞぞ出たマむクの声に、歓声が返った。

    「倧䌚は八人のによるトヌナメントです。先攻、埌攻で八小節を二回ず぀。終わったら、勝ったず思う方の名前で声を出しおください。決たらなければ延長。莔屓なしで頌みたすよ」

    客垭から笑い混じりの返事が飛ぶ。

    「法埋の関係で、曲はみんなの奜みじゃないかもしれないけど、そこは蚱しおください」

    今床は笑いずブヌむングが同時に起きた。フロアの隅に立぀私服譊官だけは笑わない。

    「それじゃあ、今日のを玹介したす。人志」

    さっきより倧きな声が䞊がった。

    人志はヘッドホンを片耳に圓お、タヌンテヌブルの前ぞ立った。肩に力が入っおいる。だが、手は迷わずレコヌドぞ䌞びた。ミラヌボヌルの光が、黒いシャツの背䞭に散った。

    最初の詊合が秀明だった。

    察戊盞手ずステヌゞ䞭倮で向かい合い、じゃんけんに勝぀。

    「どっちを遞ぶ」

    「じゃあ、先攻で」

    客垭が少しどよめいた。埌攻なら盞手の蚀葉ぞ返せる。その方が有利だず、秀明はただ知らない。

    「秀明は先攻 、準備はいいか」

    人志がスクラッチで答えた。

    「最初のバトル、レディヌヌヌヌヌゎヌ」

    䜎音が足元ぞ来た。人志が遞んだルヌプの䞊に、秀明は声を重ねる。

    「初めたしおだな 俺が秀明
    䜏所は空欄 寝床はアクティ
    森林公園 街灯が照明
    腹鳎る倜䞭に 芚えた韻

    バタヌロヌル二個 氎で抌し蟌む
    空っぜの腹でも 蚀葉は残る
    金も家もねぇ でも声は出る
    ザむオンの真ん䞭 今日は俺がいる」

    歓声が䞊がった。森林公園の連䞭が、その倍は隒ぐ。

    「シュり いいぞ」

    「バタヌロヌル」

    そこを拟うなず思ったが、笑いが起きたこずで肩の力が抜けた。

    察戊盞手はうたかった。自分の方が長くこの文化に飢えおきたず返し、秀明の生掻話を䞀床持ち䞊げおから、経隓の差で萜ずしおくる。韻も声も厩れない。

    二巡目、秀明は息を敎えた。小さい声でも逃げるなず蚀った、ゆりあの顔が浮かぶ。

    「長くやっおる そりゃリスペクト
    でも俺の倜にも あるぜ実枬
    蚊取り線銙 煙いアクティ
    腹を空かせお 吐いた蚀葉に

    公園の土ず スニヌカヌの泥
    逃げた譊官 隠した音
    キャリアの長さで 勝぀ならどうぞ
    俺は今この堎で 火を点ける方」

    客の声が䞀段䞊がった。

    盞手の最終タヌンは、韻を優先したずころで意味が厩れた。ゆりあなら、転んだず蚀うだろう。

    刀定は秀明。

    初戊を取っお控宀ぞ戻るず、空気は開挔前より匵っおいた。だけが怅子ぞ深く座り、携垯ゲヌムを続けおいる。

    「そろそろ俺の出番だから、ラップ聎いお勉匷しおおきな」

    「参考にするかは、聎いおから決めるわ」

    「あんた調子乗るず、負けた時かっこ悪いぜ」

    「それ、自分に蚀っおんの」

    が画面から顔を䞊げた。

    「誰が負けるっお」

    腰を浮かせたずころぞ、察戊盞手が割っお入った。

    「、勝負はステヌゞだろ。お前は俺が負かしおやんよ」

    第四詊合で、その二人がぶ぀かった。

    は、盞手の嫌がる堎所を芋぀けるのが早かった。蚀葉尻を拟い、客が笑える圢ぞ倉え、笑いが消える前にもう䞀床刺す。粗暎に芋える動きの裏で、声量も間も现かく倉えおいた。

    が勝った。

    控宀ぞ戻るず、秀明ぞ顎を䞊げる。

    「芋た」

    「芋た」

    「勉匷になった」

    「性栌悪いっおこずは分かった」

    「バトル向きっおこずだろ」

    秀明は返さなかった。

    ◇◇◇◇◇

    準決勝の盞手は、ずいう女性だった。

    现身で、髪を埌ろに䞀぀で結んでいる。ステヌゞぞ䞊がっおからも衚情はほずんど倉わらない。秀明がじゃんけんに勝぀ず、今床は埌攻を遞んだ。

    人志が倪いベヌスのルヌプを出す。は最初の䞀声から、音皋を滑らかに䞊䞋させた。

    「初舞台で勝っお 調子はどう
    でもここから先は 子䟛じゃ
    公園の倜を 売りにするなら
    私は朝たで 街を知るフロヌ

    腹枛り話に 拍手は来る
    でも同情祚なら すぐに散る
    かわいい顔した 迷子の
    垰り道なら 教えおあげるし」

    客が沞いた。

    䞀回戊を芋たうえで、その堎で組んでいる。速さを倉えおも蚀葉が朰れない。

    秀明の番が来た。

    「迷子っお蚀うなら 地図をくれよ
    ただし垰り道なら 砎っお捚およう
    同情祚 それならいらねぇ
    腹枛りすら歊噚に 倉えおくゲヌム

    姉さんのフロヌは マゞで綺麗
    俺も正盎 少しビビっおる
    でもビビったたたでも 声は出せる
    迷子が道ごず ここで倉える」

    悪くはない。だが、最初の応酬はに取られた。

    次のタヌンで、はさらに速床を䞊げた。现かい蚀葉がベヌスの隙間ぞ䞀぀ず぀入る。客垭の芖線も声も、完党に圌女ぞ向いた。

    秀明は悔しさより先に、うたいず思った。ゆりあが螊る時ず同じで、次にどこぞ動くのか分からないのに、止たる堎所だけは倖さない。

    最終タヌンを前に、負けが頭をよぎった。

    意味は転んでた。倧事なずころで逃げた。もっず乗っお、でも萜ちないで。

    無理に匷い蚀葉を探すのをやめた。

    「正盎蚀う 今ちょっず負けおる
    姉さんのフロヌに 俺は芋惚れおる
    でも認めた䞊で ただ立っおる
    負けそうなハヌトでも 音に乗っける

    俺はただ荒い それも分かっおる
    だけど今日ここで 少し倉わっおる
    あんたの流れを 今盗んで
    次の䞀歩を ここで螏んでく」

    䞀぀の語尟を䌞ばし、次の蚀葉を詰めた。ゆりあの肩ず腰が、少しずれお動く時の間を思い出す。

    客垭の反応が倉わった。

    刀定は僅差で、秀明だった。

    は䞍満を芋せず、口元だけ少し䞊げおステヌゞを降りた。

    控宀ぞ戻った途端、足が重くなった。喉も熱い。次が決勝だず思うず、座っおいおも呌吞が浅くなる。

    ステヌゞではの準決勝が続いおいた。その埌に小䌑憩が入る。

    負けたたちは、もう盞手ず笑っおいた。先ほどたで互いの匱点を探しおいた口で、飲み物を勧め合っおいる。

    が䜕か蚀いたそうにこちらを芋おいたが、今は受け止める䜙裕がない。秀明はゆりあを探しにフロアを出た。

    ◇◇◇◇◇

    ゆりあは、ザむオンの倖にいた。

    地䞋ぞ降りる階段の脇で、瞁石の䞊を歩いおいる。䞡腕を広げ、片足ず぀前ぞ出しおいた。

    「こんなずこにいたのかよ」

    「シュり君こそ、勝っおるじゃん。すごいじゃん」

    「芋おた」

    「芋おたよ。さん、すごかったね」

    「やっぱそう思う」

    「思う。きれいだった。でもシュり君も良かった」

    「どこが」

    「負けそうっお蚀ったずころ」

    「そこかよ」

    「だっお、本圓に負けそうだったもん」

    「正盎すぎんだろ」

    「でも逃げなかった」

    ゆりあは瞁石から飛び降りた。

    「シュり君、前より声が前に出おる」

    「先生のおかげか」

    「もっず偉い人のおかげです」

    「はいはい」

    「はいは䞀回」

    「母ちゃんかよ」

    ゆりあの目が、ほんの䞀瞬だけ止たった。

    「そんなに老けおたせんヌ」

    すぐに笑ったが、秀明の胞には小さな匕っかかりが残った。䜕を聞けばいいのか分からないうちに、ゆりあが目の前たで来る。

    「決勝、怖い」

    「怖くねぇよ」

    「嘘」

    「怖いけど、怖くねぇ」

    「どっち」

    「どっちも」

    「じゃあ、倧䞈倫」

    ゆりあは秀明の胞を拳で軜く叩いた。

    「あず、シュり君は栌奜぀けすぎるず駄目」

    「俺は栌奜いいだろ」

    「顔はね」

    「顔は、っお䜕だよ」

    「ラップは、栌奜぀けすぎるず転ぶ」

    「たた転ぶ話か」

    「本圓のこずを蚀う時の方が、ちゃんず立っおる」

    ゆりあは今床は笑わなかった。

    「貧乏だったこずも、車で寝おたこずも、人志君が倧事なこずも、ムカ぀く法埋も、党郚蚀えばいいじゃん」

    「党郚」

    「党郚」

    「党方䜍に喧嘩売る感じか」

    「そうそう」

    「お前、けっこう物隒だな」

    「応揎です」

    「応揎っお䜕だっけ」

    ゆりあは爪先で地面を鳎らした。

    「もう。シュり君は、そういうのいらないからぁ」

    「䜕が」

    「今、私に栌奜いいこず蚀おうずしたでしょ」

    「蚀っおねぇよ」

    「顔が蚀っおた」

    「顔は関係ねぇだろ」

    「顔はけっこう喋るよ」

    「ゆりあぁ。ふざけんなよ」

    秀明が向き盎るず、ゆりあはシャツの胞元を青い指で぀たんだ。そのたた䞀歩入り、少し背䌞びをする。

    唇が重なった。

    秀明は目を芋開いたたた動けなかった。遅れお、宙に浮いおいた手をゆりあの肩ぞ眮く。指先に髪が觊れたずころで、ゆりあは先に離れた。

    画像

    「  お前」

    声が出るたでに時間がかかった。

    ゆりあは歩道ぞ飛び降り、䜕もしおいない顔で䞀回転した。スカヌトの裟は、本人より正盎に揺れおいる。

    「そうだ、忘れおた これ、お守り。プレれントだよぉ」

    小さな垃のお守りを、秀明の手ぞ抌し蟌む。知らない神瀟の名前が曞かれおいた。裏返す。

    『安産祈願』

    「お前、これ安産祈願じゃねぇか」

    「え 違うの」

    「違うだろ。俺、䜕を産むんだよ」

    「優勝」

    「産むもんじゃねぇよ」

    「じゃあ、いいラップ」

    「それもちょっず嫌だな」

    笑うず、さっき唇に觊れた感觊たで䞀緒に戻っおきた。

    「お、おう。ありがずな」

    「ちゃんず持っおおね」

    「持っおるよ」

    秀明はお守りをポケットぞ入れ、垃の䞊から䞀床抌さえた。

    優勝しお名前を売る。ゆりあを䞖界䞀幞せにする。頭の䞭で蚀う分には、いくらでも栌奜を぀けられた。

    入口ぞ戻るず、チャックがい぀もの䜍眮に立っおいた。

    「オヌケむ  グッドラック」

    チャックの口から応揎が出たこずに驚き、秀明は少し笑った。

    「今の子、かわいいだろ」

    チャックは眉を寄せる。

    「ガヌル」

    「今そこにいただろ。黒い服の」

    チャックは入口の呚蟺を芋回した。

    「ノヌ」

    「え」

    「ナヌ、アロヌン」

    秀明も振り返った。人の列は動いおいるが、ゆりあの黒い服は芋えない。もう䞭ぞ戻ったのだず思うこずにした。

    「そろそろ行っおくる。絶察に勝぀から」

    返事はなかった。

    「埌でな」

    秀明は、人混みのどこかぞ声を残しお扉をくぐった。

    ◇◇◇◇◇

    䌑憩䞭のフロアでは、別のが客の熱を切らさないよう曲を繋いでいた。音量が䞋がり、マむクがステヌゞぞ出る。

    「いよいよ決勝戊だ みんな、ただ元気は残っおるか!?」

    残っおいるこずを、客垭が倧声で蚌明した。

    マむクに呌ばれ、秀明はステヌゞ䞭倮ぞ出た。は先に埅っおいる。互いに顔を寄せ、額が觊れそうな距離で睚み合った。

    じゃんけんは。埌攻が有利ず分かっおいながら、先攻を取った。秀明を芋るず、䞭指を立おる。

    秀明も笑った。

    人志がスクラッチを入れる。その短い音で、秀明の呌吞が敎った。人志の䞡手は、もう迷っおいない。

    「最埌の勝負だ レディヌヌヌヌヌヌヌヌゎヌ」

    は軜く笑いながら、现かく声を跳ねさせた。

    「決勝たで来たか 盞手は車䞊
    貧乏話で 沞かせる䌚堎
    腹枛りラップを 実力ず勘違い
    同情の音量 やたらずデカい

    埌ろの 黒いだけの食り
    お前が転ばぬための手すり
    二人の傷を 矎談に倉えお
    舐め合う姿で 拍手を皌いで」

    前半四小節で笑いが起き、五小節目で歓声が䞀段倧きくなった。スピヌカヌ脇にいた赀いキャップの男が、人志ぞ向かっお拳を突き䞊げる。

    秀明の番になった。

    貧乏を笑われたこずなら返せた。車で寝たこずも、借りた服も、自分の口でいくらでも蚀い盎せる。

    だが、人志の肌を勝぀ための道具にされた瞬間、甚意しおいた蚀葉が党郚消えた。

    口を開いたたた、最初の䞀小節が過ぎる。

    を殎りたい。人志を芋お笑った客にも、同じ拳を向けたかった。それでも殎れば、人志が回しおきた音も、マむクず瀧柀がここたで通したむベントも、その堎で終わる。

    人志は秀明を芋ずにルヌプを回しおいた。助けるために音を戻せば、それ自䜓がの材料になる。

    四小節目で秀明は䞀床息を吞ったが、声は出なかった。

    八小節が終わるず、歓声ではなくざわめきが来た。

    は声を立おずに笑い、秀明の沈黙たで材料にしお二タヌン目ぞ入る。

    「どうした秀明 蚀葉が迷子
    守りたいなら 出せよ態床
    借り物のシャツで 気取った王子
    返す借りより 欲しがる勝利

    友情語っお 䜕も蚀えねぇ
    その皋床なら 看板は重い
    ザむオン背負うにゃ お前は軜い
    お前の八小節 腹より薄い」

    客が沞いた。

    は䞀タヌン目で人志を螏み、二タヌン目では、䜕も返せなかった秀明だけを切った。悔しいほど筋が通っおいる。

    怒りは消えおいない。だが、今床はの蚀葉を聞けた。残り八小節。ただ借りは返せる。

    人志を芋る。

    人志はようやく顔を䞊げた。泣いおはいなかった。秀明ぞ短く頷き、レコヌドの瞁を抌さえる。

    荒いスクラッチがフロアを切った。

    秀明はマむクを握り盎した。

    「悪ぃな人志 䞀発止たった
    あい぀の䞀蚀 たずもに食らった」

    歓声は䞊がらなかった。

    先ほどたでのざわめきが少し匕き、客が続きを埅぀。は笑ったたた、顎を䞊げおいた。

    「黒いだけの食り よく蚀えたな
    今お前が乗るビヌト 誰が回した」

    前列が匟けた。

    䜕人もの客がブヌスぞ顔を向ける。が乗り、客が䜓を揺らしおいるルヌプは、今も人志の手元から流れおいた。

    の口元から笑いが消えた。

    「黒い音を朰す囜 それが法
    黒いを螏んで 䜕が反抗」

    歓声がもう䞀床䞊がったが、今床は最埌たで続かなかった。拳を䞊げた者の暪で、腕を䞋ろす者がいる。赀いキャップの男も、ブヌスずを芋比べおいた。

    秀明は客垭ぞ䜓を向けた。

    「沞いたお前らも 他人じゃねぇぞ
    正矩の鉄パむプ 今握っおるぞ」

    歓声が切れた。

    ビヌトだけが流れおいる。

    䞊げかけた拳がいく぀も止たり、赀いキャップの男は腕を䞋ろした。壁際から「その通りだ」ず声が䞊がり、すぐ別の堎所から「ふざけんな」ず返る。

    秀明は客垭から目を逞らさなかった。

    人志はスクラッチを入れず、八小節の終わりたでルヌプを流した。

    マむクが二人の間ぞ入った。

    「刀定いくぞ」

    フロアぞ向かっお腕を䞊げる。

    「が取ったず思う奎」

    倧きな歓声が䞊がった。

    二タヌンを通しお声も韻も厩さず、秀明の䞀タヌンを䞞ごず朰した。技術ず詊合運びなら、だず思う客が倚いのは圓然だった。

    だが、その歓声ぞ別の声がぶ぀かった。

    「ブラックをディスっお勝ちかよ」

    「ここにいるオマワリず䞀緒じゃねぇか」

    「バトルだろ 䜕でもありだ」

    「ブラック、ディスるなよ」

    入口近くに立぀制服譊官ぞ、䜕人もの顔が向いた。譊官たちは腕を組んだたた䜕も蚀わない。

    マむクが反察偎ぞ腕を振る。

    「秀明が取ったず思う奎」

    床が揺れた。

    森林公園の連䞭が䞡手を䞊げ、前列から壁際たで秀明の名が走る。その䞭ぞ、今床はを支持する声が割っお入った。

    「䞀タヌン䞞ごず黙っおただろ」

    「説教で勝ちにすんな バトルだぞ」

    「八小節でひっくり返しただろうが」

    「技術はだ」

    秀明の名ずの名だけでなく、互いの刀定ぞ蚀い返す声たで飛び亀った。どちらが倧きいのか、もう枬れない。

    マむクは二人ではなく、客垭を芋枡した。

    「お前ら、声のデカさより蚀い分が増えおんじゃねぇか」

    笑いは少しだけ起きたが、すぐ別の怒鳎り声に消えた。

    マむクは人志ぞ向き盎る。

    「こい぀は、もう䞀回やるしかねぇな」

    人志がレコヌドぞ手を眮いた。

    「延長戊だヌ」

    䌚堎の声が䞀぀に戻ったのは、その瞬間だけだった。

    「延長は十六小節䞀本。先攻、。埌攻、秀明。、頌むぞ」

    人志が決勝のルヌプを頭ぞ戻した。

    は客垭を䞀床芋枡し、次に人志を芋た。頭は䞋げない。マむクを口元ぞ寄せ、秀明から目を倖さずに入った。

    「勝ちを急いで 黒を歊噚にした
    螏んだその足 法ず同じ
    沞いた歓声に 俺たで酔った
    黒い音の䞊で 黒いを切った

    俺を育おた ベヌスずスネア
    その黒がなけりゃ この俺もいねぇ
    ディスは歊噚でも 根っこは売らねぇ
    勝ちに飢えおも 音たでは恚たねぇ」

    客は静かに聞いおいた。

    さっきの名を叫んだ者も、ブラックをディスるなず怒鳎った者も、今は声を挟たない。人志は衚情を倉えずにレコヌドを回しおいる。

    「俺を戻した お前の八小節
    客たで刺した たっすぐな声
    だが詫びお終わりの むベントじゃねぇ
    リスペクトするから 無甚だぜ手加枛」

    が秀明を指した。

    歓声が䞊がる。先ほどを眵った客からも拳が出た。

    「ラップが奜きなら 最埌たで前向け
    俺も奜きだから 党力で噛み぀くぜ
    勝っおも負けおも 針は止めんな
    法に聞かせろ これが俺らだ」

    最埌の䞀行で、客垭が爆発した。

    「」

    「人志」

    別々の名前が、同じ歓声の䞭から䞊がった。

    はマむクを䞋ろさず、秀明ぞ顎を䞊げた。肩は萜ちおいない。さっきより䜎く腰を萜ずし、次の䞀発を埅っおいた。

    人志が短いスクラッチを入れ、秀明の番を告げる。

    秀明はポケットの䞊から、お守りぞ䞀床觊れた。最前列で青い指先が䞊がったように芋える。

    を芋る。

    は䞀歩も䞋がらず、マむクを握ったたた秀明を埅っおいた。さっきより厄介な盞手に芋えた。

    秀明は息を吞った。

    「謝っおなお噛み぀く 犬の県は死んでねぇ
    間違い背負っお立぀なら 俺も逃げる気はねぇ
    お前のディスで停止 お前のノァヌスで点火
    リスペクトなら手加枛すんな 殺す気で来い」

    が口の端を䞊げた。

    秀明は客垭ぞ向き盎る。

    「さっき笑った奎が 今「違う」ず怒鳎る
    䞋げた拳を䞊げ盎し 同じビヌトに乗る
    ブラック切り捚おるなら 俺らも法だ
    戻っお来た奎たで鳎らす だからここがザむオンだ」

    赀いキャップの男が、䞋ろしおいた拳をもう䞀床䞊げた。今床は笑っおいなかった。

    その隣では、の名を叫んでいた男が、同じ拍で䜓を揺らしおいる。

    「芪父の 人志の針
    ゆりあのステップ お前の怒鳎り
    味方の飯も 敵の刃も 残さず食っおる
    食わせおもらった党郚で 俺はここに立っおる」

    森林公園の連䞭が秀明の名を叫び、の仲間も拳を䞊げた。人志の肩から、さっきたで入っおいた力が少し抜ける。

    最前列のゆりあは、胞の前で䞡手を握り、足だけでビヌトを取っおいた。

    「黒い音が眪なら 俺らたずめお珟行犯
    この喉に手錠かけろ 針たで抌収しおみな
    勝者は決めろ だが鳎る暩利たで裁くな
    ザむオンを消すなら 俺ら党員黙らせおみろ」

    人志が最埌の蚀葉ぞスクラッチを重ねた。

    䞀拍遅れお、フロア党䜓が跳ねた。

    秀明の名だけではない。、人志、ザむオンずいう声が、同じ堎所から䞊がる。入口の譊官たちたで、抌し寄せた客に半歩䞋がった。

    音が切れた埌も、秀明ずは向かい合ったたた動かなかった。

    先にが拳を出す。

    秀明は自分の拳をぶ぀けた。

    マむクが二人の間ぞ戻る。

    「今床こそ決めるぞ」

    客垭が応えた。

    「」

    倧きな歓声が返る。

    先ほど「ブラック、ディスるなよ」ず叫んだ声が、今床は誰より倧きくの名を呌んでいた。

    「秀明」

    同じだけの声が返った。

    の仲間が秀明ぞ拳を䞊げ、赀いキャップの男も喉を枯らしおいる。

    どちらの声も匕かなかった。

    やがおフロアのどこかから、二人の名前が続けお䞊がった。

    「 秀明」

    別の堎所からも同じ声が返る。

    「 秀明」

    森林公園の連䞭たでの名前を叫び、の仲間が秀明の名を返した。

    マむクは二人を芋比べ、笑った。

    「分かった。今日はもう、無理に割らなくおいいな」

    歓声が答えた。

    「秀明、。䞡者同時優勝」

    が片手を出した。秀明は握り返す。すぐに腕を匕かれ、肩がぶ぀かった。そのたた互いの背䞭を䞀床匷く叩く。

    人志はタヌンテヌブルの前で口元を抌さえおいた。マむクが隣ぞ行き、乱暎に肩を抱く。

    瀧柀はビデオカメラを構えたたた、顔を赀くしおいた。録画ランプは点いおいる。

    「もう䞀回」

    客垭から声が飛んだ。

    「もう䞀回」

    すぐにフロア党䜓ぞ広がる。

    マむクは䞡手を䞊げた。

    「倧䌚は終わりだっお」

    それでも止たらない。

    秀明もも、喉は限界だった。肩で息をしおいる二人を芋お、マむクが困った顔をする。

    が、その手からマむクを取った。

    「今日出た奎、党員䞊がれよ」

    客垭がざわ぀く。

    「勝った奎も、負けた奎も、途䞭で飛んだ奎も、噛んだ奎もだ。こっからは勝敗じゃねぇ」

    最初に䞊がったのは、準決勝でに負けた男だった。秀明の䞀回戊の盞手が続き、も髪をかき䞊げながらステヌゞぞ出る。

    八人が䞊ぶず、人志は決勝の匵り぀めたルヌプを切った。次に入れたのは、䜓を揺らしやすい、䜙癜のあるビヌトだった。

    たちは誰に蚀われるでもなく半円を䜜る。

    さっき刀定を巡っお怒鳎り合った客たちも、互いの顔ではなくステヌゞを芋おいた。赀いキャップの男の隣では、「説教で勝ちにすんな」ず叫んだ男が同じビヌトで肩を揺らしおいる。

    が最初に入った。

    「勝ち負け眮いおけ こっから蚌蚀
    鉄パむプじゃ止たらねぇ 地䞋の䜎音
    黙れず蚀われた口から回せ
    今倜のザむオン ただ終わらせんな」

    マむクが暪から叫ぶ。

    「次」

    䞀回戊で秀明ず圓たったが受け取った。

    「刀定終わっおも ただ声が出る
    先攻取られた俺にも 音は残る
    消された棚から 拟った䞀枚
    玙で犁じおも 耳は捚おない」

    がマむクを奪う。

    「退廃っお札 女に貌るな
    倧抂にしろよ 女をなめるな
    スカヌトの䞈より ビヌトを芋な
    説教オマワリ たず拍を取りな」

    笑いず歓声が䞀緒に䞊がった。

    次のが続く。

    「垰り道だけ やたら長ぇ
    むダホンひず぀で たた止められる
    『䞭身芋せろ』っお 誰の耳だよ
    錓膜の裏なら 什状持っお来い」

    私服譊官の顔が固くなる。だが、止める理由はない。

    「朝は校則 倜には法埋
    違う制服で 同じ取り締たり
    髪も音も螊りも 俺らのもんだ
    知らねぇ倧人が 先に決めんな」

    次のは、最初の蚀葉で少し声を震わせた。

    「芪に隠れお 垃団で聎いた
    小さいスピヌカヌ 耳元に眮いた
    悪い曲だず ニュヌスが蚀った
    でもあのベヌスで やっず眠れた」

    誰かが倧声を出すのではなく、フロアのあちこちで拳が䞊がった。

    マむクが秀明ぞ差し出される。

    人志は䞀拍だけ空けた。

    最前列で、ゆりあが䞡手を握っおいる。森林公園の連䞭は、泣くのを笑っお誀魔化しおいた。瀧柀はカメラを構え、譊官たちもこちらを芋おいる。

    秀明は口の端を䞊げた。

    「䌚議宀で貌った 退廃の札
    俺らの倜を 芋たこずあんのか
    聞こえねぇなら 補聎噚を買え
    この䜎音にたで 刀子を抌すな

    青少幎保護 笑わせんな
    守るふりしお 奪っおんな
    音を隠した囜の方が病気
    ここはザむオン 俺らの正気

    譊察も政治家も 今日は芋ずけ
    蚌拠が欲しけりゃ 党郚撮っずけ
    だけど曞いずけ 逮捕状の前に
    ここで誰かが 息できたっお」

    が秀明の肩を叩き、マむクを取った。

    「いいねぇ 汚ねぇ正論だ
    でも䞀人で燃えりゃ すぐ灰になる
    だったら回せ 次の口ぞ
    声が小せぇ奎にも マむクを枡せ」

    ステヌゞの端にいたぞ枡す。

    「」

    「」

    「」

    「」

    「」

    「」

    最埌に秀明が取った。

    「 」

    「 」

    誰が繋げたのか分からないたた、客垭から䞀぀の蚀葉になっお返っおきた。

    「    」

    人志はフェヌダヌを切り、スクラッチを入れ、たた戻す。声が匱たりかけるたび、短い音で抌し返した。

    「    」

    譊官の䞀人がむダホンぞ手を圓お、誰かぞ報告しおいる。マむクは止めも煜りもせず、ステヌゞの端から芋おいた。

    ミラヌボヌルの光は、秀明ずだけを遞ばなかった。人志の手、の頬、負けたの汗、客垭の拳、譊官の顎、瀧柀のカメラ、マむクの癜髪混じりのドレッドぞ、同じ回転で萜ちおいく。

    最前列のゆりあが倩井を芋䞊げた。青い爪の䞊で、光が䞀床砕けた。

    秀明は、残っおいた声を党郚䜿った。

    「音は死なねぇぞ」

    フロアが返す。

    「死なねぇぞ」

    人志が最埌のスクラッチを切った。

    音が止たった埌も、客の声だけは残った。叀い建物の壁ず床が、その声をしばらく返し続けた。

    マむクがからマむクロフォンを取り戻す。

    「はい、そこたで」

    誰も聞いおいない。

    「そこたでだっお」

    二床目も歓声に消えた。マむクは諊めお笑う。

    「最高だったよ」

    その声は、ステヌゞの䞊にだけ届いた。

    秀明が振り返るず、人志は泣きそうな顔で笑っおいた。

    近づいお肩を叩く。

    「お前、最高」

    「シュりちゃんこそ」

    「いや、今のはお前だろ」

    人志は銖を暪に振った。

    「みんなだよ」

    フロアでは、ただ声が続いおいる。

    「    」

    看板に曞かれた店名が、初めお䜕癟人もの口から同じ蚀葉ずしお返っおきた。

    ◇◇◇◇◇

    控宀ぞ戻るず、出挔者たちが秀明を囲んだ。

    「む゚ヌ 秀明 あんた、すごいじゃん」

    が䞡手を䞊げる。秀明もハむタッチで返した。

    「マゞで負けそうでした。運が良かったです」

    「あんた、耒めようずしたら消えたから、嫌われたかず思ったよ」

    「党然そんなこずないっす。ちょっず怖かっただけで」

    に尻を蹎られた。

    䞀回戊の盞手も握手を求めおくる。

    「先攻遞ぶなんお男気あるじゃねぇか」

    「あざっす。埌攻が有利っお知りたせんでした」

    「マゞかよ。俺が惚めになるから、それは黙っずけ」

    開挔前にあった壁は、もうどこにもなかった。

    は人志の前たで行き、目を合わせないたた頭を少し䞋げた。

    「さっきは悪かった。あれは、お前に蚀うこずじゃなかった」

    「次に蚀ったら、途䞭で曲を止めたす」

    人志が返すず、は䞀床だけ笑った。

    「それは困る」

    「今井君、こっちに芖線を」

    瀧柀がビデオカメラを構えおいる。顔は赀く、目も少し最んでいた。

    「よ チャンピオン 䜕か䞀蚀」

    秀明はレンズぞ向かっお叫んだ。

    「ゆりあ 勝ったぞ 愛しおるぞ」

    出挔者たちに匕き倒され、頭ず背䞭を乱暎に叩かれた。

    「この埌はパヌティヌだ みんな、お疲れ」

    マむクの声で、出挔者たちはフロアぞ散っおいく。

    秀明もゆりあを探しに出た。

    さっきたで敵だったたちが肩を組み、森林公園の連䞭が勝手に秀明の名前を叫んでいる。人志は知らない客に囲たれ、機材のこずを聞かれおいた。マむクはバヌカりンタヌで笑い、瀧柀はただカメラを回しおいる。

    ザむオンの真ん䞭に立った倜だった。

    そこに、ゆりあだけがいない。

    人の肩越しに、黒い服ず掟手なスニヌカヌを探した。青い爪が光るたびに振り向いたが、どれも別の女だった。

    入口ぞ戻る。

    「黒い服の女の子、芋なかったか さっき倖で話しおた子」

    チャックは銖を暪に振る。

    「ノヌ」

    「さっきいたじゃん。俺ず話しおた」

    「ナヌ、アロヌン」

    今床は笑っお流せなかった。

    にも、森林公園の連䞭にも、マむクにも聞いた。服、髪、スニヌカヌ、青い爪。誰も知らないず蚀う。

    「お前、疲れおるんじゃないのか」

    疲れおいる。喉も脚も限界だった。だからずいっお、キスたで思い違えるはずがない。

    秀明はポケットぞ手を入れた。

    安産祈願のお守りがある。垃の角を指で確かめる。ゆりあが胞元を぀たんだ青い指も、離れた埌に揺れたスカヌトも、ただ目の前に残っおいる。

    アフタヌパヌティヌは朝たで続いた。

    秀明は䜕床もフロアず入口を埀埩し、控宀の扉を開け、倖の列が消えた埌たで呚囲を歩いた。

    ミラヌボヌルだけが、最埌たで回っおいた。

    光が客の顔から壁ぞ移り、濡れた床を滑り、秀明が握ったお守りの端ぞ䞀床だけ萜ちた。

    朝になっおも、ゆりあは戻らなかった。

     
     

    rastarock

     
     
    小説、瀟䌚批評、働き方、AI時代の人間関係に぀いお曞きたす。 たじめな話を、できるだけ笑える圢で扱いたい人です。

    あなたぞのおすすめ