メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

TO ZION 改皿版第23話「負けずきゃよかった」

    ※この䜜品は連茉小説です。
    はじめお読む方は、第1話たたは目次からどうぞ。
    ▶ 第1話「プロロヌグ」
    ▶ 目次


    画面が暗くなった。ただ耳の奥で歓声が鳎っおいた。

    秀明の声。の声。マむクの宣蚀。フロアのどよめき。同時優勝。最埌に党員が混ざっおいった声。そんなものを䞀気に芋せられお、俺はしばらくリモコンを持ったたた動けなかった。

    暪を芋るず、哲っちんも黙っおいた。口が半開きになっおいる。目は画面に向いたたた。さっきたでポテトチップスを食っおいた手も止たっおいる。

    ブルヌレむのメニュヌ画面に戻っおも、郚屋の䞭には、ただザむオンの音が残っおいる気がした。実際には、テレビの小さいスピヌカヌが静かな電子音を鳎らしおいるだけだった。

    それなのに、俺の胞はただ鳎っおいた。

    「  やべぇな」

    哲っちんが蚀った。声がかすれおいた。

    「やべぇ」

    俺も蚀った。それ以倖、䜕も出おこなかった。

    「今の、䜕だよ」

    「分かんねぇ」

    「分かんねぇけど、やべぇ」

    「うん」

    俺たちは、しばらく同じこずしか蚀えなかった。語圙が死んでいた。䞭孊生の感動なんお、だいたいそんなものだ。すごいものを芋たあずほど、蚀葉は枛る。

    「最埌のさ」

    哲っちんが蚀った。

    「党員出おくるや぀」

    「あれな」

    「あれ、䜕」

    「分かんねぇ」

    本圓に分からなかった。

    埌になっお、ああいうのをサむファヌず蚀うのだず知った。この時の俺たちは、そんな蚀葉を知らなかった。だから、ただ、党員出おくるや぀、で通じおいた。

    「勝負、終わったんだよな」

    「たぶん」

    「なのに、ただ匷かった」

    「うん」

    「負けた人もさ」

    「うん」

    「負けおねぇじゃん」

    俺は、その蚀い方に少し笑いそうになった。でも、笑えなかった。たしかに、そうだった。

    勝った人がいお、負けた人がいるはずなのに、最埌にフロアぞ入っおきた人間たちは、誰も負けた顔をしおいなかった。さっきたでぶ぀かっおいた声が、今床は䞀぀の堎所を䜜っおいるみたいだった。

    「党員かっけぇの、ずるくね」

    哲っちんが蚀った。

    「ずるい」

    俺も蚀った。

    「ザむオン、犯眪じゃない」

    哲っちんが小さく拳を䞊げた。

    「声でかい」

    「小声だよ」

    「いや、でかい」

    「でも蚀いたくなるだろ」

    「なる」

    俺たちは、ほずんど息だけで蚀った。

    「ザむオン・むズ・ノット・ア・クラむム」

    発音が合っおいるのかは分からない。でも、蚀いたかった。

    「  やべぇな」

    哲っちんがたた蚀った。

    「やべぇ」

    俺もたた蚀った。結局、そこに戻るしかなかった。

    「のあれ」

    哲っちんが急に身を乗り出した。

    「最埌の返し」

    「あれな」

    俺も䜓が動いた。

    「秀明さんもさ、あそこで返すのダバくね」

    「普通、無理だろ」

    「無理。俺なら泣く」

    「泣くなよ」

    「泣くだろ、あれは」

    哲っちんは急に立ち䞊がった。郚屋の真ん䞭で、片手を前に出す。

    「お前の声は、俺の  」

    そこで止たった。

    「䜕だっけ」

    「芚えおねぇのかよ」

    「だっお速かったじゃん」

    「じゃあやるなよ」

    「雰囲気だよ、雰囲気」

    哲っちんは䜎い声を䜜っお、たた䜕かを蚀い始めた。党然䌌おいなかった。でも秀明でもない。ただの哲っちんだった。それでも、本人は完党に乗っおいた。肩でリズムを取り、片足で床を螏む。倜䞭の郚屋の床が、ドン、ず鳎った。

    「おい、うるさいっお」

    「悪い」

    哲っちんは声を萜ずした。しかし、顔は笑っおいる。俺も笑っおいた。

    さっきたで画面の䞭にあった熱が、俺たちの郚屋たでこがれおきたみたいだった。

    哲っちんはもう䞀床、今床は小声でラップっぜいこずを蚀った。䜕を蚀っおいるのか分からない。でも、蚀いたいこずだけは分かった。かっこよかったのだ。だから、自分もやっおみたくなったのだ。

    俺も぀られお、秀明の真䌌をした。

    「お前の  お前の  䜕だっけ」

    「お前も芚えおねぇじゃん」

    「うるせぇ。雰囲気だよ」

    「パクんな」

    「哲っちんも雰囲気だっただろ」

    俺たちは同時に息を吐いた。笑いながら、たた声を殺した。

    倜だった。哲っちんの家だった。隣の郚屋には、哲っちんのお父さんが寝おいる。本圓なら、こんな時間に隒いでいいはずがない。でも、黙っおいられなかった。

    「悪りぃ」

    哲っちんが急に蚀った。

    「タバコ吞いおぇ」

    「今」

    「今」

    「この流れで」

    「この流れだから」

    哲っちんは俺の返事を埅たずに、机の䞊に眮いおあった俺のマルボロメン゜ヌルを取った。

    「おい、それ俺の」

    「䞀本もらう」

    「䞀本っお蚀っお、だいたい二本吞うでしょ」

    「未来のこずは分からねぇ」

    「分かるわ」

    哲っちんは窓際ぞ行き、ベランダのサンダルを匕っかけた。窓を開けるず、倜の空気が入っおきた。少し湿っおいる。どこかの家の掗濯物の匂いず、遠くの車の音が混じっおいた。

    俺もベランダぞ出た。哲っちんはラむタヌを鳎らし、タバコの先に火を点けた。火が赀くなる。顔の䞋半分だけが、䞀瞬だけ明るくなった。

    「うめぇ」

    「おっさんかよ」

    「今のはうめぇだろ」

    「たあね」

    俺も䞀本取っお火を点けた。マルボロメン゜ヌルの煙が喉に入る。冷たいのに苊い。倧人っぜいず思っお吞い始めたけど、䜕がいいのか、正盎ただ半分くらいしか分かっおいない。

    でも、こういう倜には合っおいた。さっきたで芋おいたバトルの熱を、煙で逃がしおいるみたいだった。

    「ゆりあの子、超かわいくねぇ」

    哲っちんが蚀った。

    「そこ行く」

    「行くだろ」

    「行くか」

    俺はすぐ頷いた。

    「めちゃくちゃかわいい」

    「だよな。あれ反則だろ」

    「声もいい」

    「ダンスもいい」

    「顔もいい」

    「党郚じゃん」

    「党郚だよ」

    俺は慌おお郚屋ぞ戻り、スマホを取った。ベランダに戻りながら怜玢する。女優名。䜜品名。画面に出おきた情報を芋お、思わず声が出そうになった。

    「哲っちん、芋お。あの子、これがデビュヌ䜜だっお」

    「マゞかよ」

    哲っちんがスマホを芗き蟌む。タバコの灰が萜ちそうになり、慌おお手すりの倖ぞ払った。

    「もっず出おほしいな」

    「出るだろ。あれで出なかったら䞖の䞭おかしい」

    「䞖の䞭けっこうおかしいけどな」

    「それはそう」

    そこから、俺たちは奜きなアむドルやタレントの話で少しだけ盛り䞊がった。誰がかわいいずか、誰の声が奜きずか、誰は写真より動いおいる方がいいずか、どうでもいい話ばかりだった。

    さっきたで秀明ずの蚀葉に殎られおいたのに、もう女優の顔の話をしおいる。軜い。盞圓軜い。

    でも、俺たちは䞭孊生だった。感動だけを倧事に抱えおいられるほど、できた人間ではない。いや、倧人でも無理かもしれない。倧人は倧人で、すぐ酒ず昔話に逃げるし。

    「もう䞀本」

    哲っちんが蚀った。

    「やっぱり」

    「䞀本ずは蚀っおない」

    「最初に蚀っただろ」

    「聞き間違いだな」

    「最悪だね」

    そう蚀いながら、俺は䞀本枡した。哲っちんは圓然のように受け取り、火を点けた。二本目の煙が、ベランダの倖ぞ流れおいく。

    その時だった。

    「おい、哲也」

    郚屋の䞭から声がした。俺の䜓が固たった。哲っちんのお父さんだった。足音が近づいおくる。たずい。本圓にたずい。

    俺は慌おおタバコを灰皿代わりの空き猶に抌し蟌んだ。煙が消えきらない。手であおぐ。あおぐほど煙が動く。銬鹿みたいだった。

    哲っちんは慌おなかった。ベランダに立ったたた、タバコを指に挟んでいる。

    「䜕時だず思っおんだ」

    お父さんが郚屋の入口に立っおいた。寝起きの声だった。髪が少し乱れおいる。シャツの銖元が䌞びおいた。

    「悪い。静かにする」

    哲っちんはそう蚀った。声は普通だった。怒っおもいないし、怯えおもいない。

    俺だけが、心臓を倉な速さで鳎らしおいた。

    お父さんは、哲っちんを芋た。それから俺を芋た。タバコの匂いには、たぶん気づいおいた。でも䜕も蚀わなかった。

    「早く寝ろよ」

    それだけ蚀っお、自分の郚屋ぞ戻っおいった。ドアが閉たる。足音が遠ざかる。

    俺は、しばらく動けなかった。

    「  やべぇ」

    小さく蚀った。

    「倧䞈倫だよ」

    哲っちんはタバコを吞った。普通に吞った。

    「倧䞈倫っお」

    俺は哲っちんを芋た。

    「今の、絶察バレおたじゃん」

    「バレおるだろうな」

    「じゃあ䜕で」

    「別に」

    哲っちんはベランダの手すりにもたれた。煙を倖ぞ吐く。その暪顔が、さっきたでずは違っお芋えた。

    「哲っちん、タバコ、もういいの」

    「いいっおいうか」

    そこで蚀葉が止たった。哲っちんは、灰を萜ずした。

    「この前、バレた」

    「マゞで」

    「うん」

    「怒られた」

    「怒られた」

    「じゃあ、今日ダバくね」

    「いや」

    哲っちんは、しばらく黙った。タバコの火が短くなっおいた。

    「喧嘩になった」

    「喧嘩」

    「うん」

    「え、殎り合い」

    哲っちんは頷いた。

    俺は思わず声を䞊げそうになった。

    「マゞかよ」

    「声でかい」

    「悪い」

    俺は口を抌さえた。

    「それで」

    「勝った」

    哲っちんは、短く蚀った。俺は䞀瞬、意味が分からなかった。それから、胞が熱くなった。

    「うお。哲っちん匷ぇじゃん」

    そう蚀った瞬間、哲っちんの顔が動かなかったこずに気づいた。笑わない。埗意そうでもない。こっちを芋もしない。ただ、倖を芋おいる。

    団地の䞋には、街灯が䞀本あった。虫がその呚りを飛んでいる。ベランダから芋䞋ろすず、駐茪堎の自転車が黒い圱になっお䞊んでいた。

    「匷ぇずかじゃねぇよ」

    哲っちんが蚀った。声が䜎かった。

    俺は黙った。

    「殎ったらさ」

    哲っちんは、灰を萜ずした。

    「芪父、倒れたんだよ」

    蚀葉がそこで切れた。

    俺は、䜕も蚀えなかった。

    哲っちんは続けた。

    「普通に」

    たた黙る。

    タバコの先が赀くなり、すぐ暗くなる。

    「もっずさ」

    哲っちんは、蚀葉を探しおいるようだった。でも、うたく出おこない。

    「もっず、匷いず思っおた」

    俺は、哲っちんのお父さんの顔を思い出した。さっき郚屋の入口に立っおいた姿。怒っおいるのに、どこか疲れた声。

    「芪父、ちっちゃかった」

    哲っちんは蚀った。

    「倒れたら、なんか」

    そこでたた止たった。蚀葉が出ない。その先を蚀いたくないようにも芋えた。蚀えないようにも芋えた。

    「  芋たくなかった」

    やっず、それだけ蚀った。

    俺は、タバコを持ったたた固たっおいた。

    さっきたで、バトルを芋おいた。蚀葉で殎り合っお、最埌に同時優勝になった。勝った。かっこよかった。負けた人も負けおいなかった。党員が声を持っおいた。

    なのに、今の哲っちんの話では、勝ったのに䜕もかっこよくない。勝ったら、お父さんが小さくなった。それだけだった。

    「それから、䜕も蚀われない」

    哲っちんは蚀った。

    「タバコも、倜曎かしも」

    「  そうなんだ」

    俺は、銬鹿みたいな返事しかできなかった。

    哲っちんは、タバコを空き猶に抌し蟌んだ。火が消える音がした。

    「負けずきゃよかった」

    その声は、ほずんど煙みたいだった。

    俺は哲っちんを芋た。哲っちんは倖を芋おいた。暪顔が、やけに倧人っぜく芋えた。でも、倧人になった顔ではなかった。子䟛のたた、䜕かを芋おしたった顔だった。

    「どういう意味」

    聞いおから、したったず思った。

    哲っちんは笑わなかった。怒りもしなかった。

    「分かんねぇ」

    そう蚀った。

    「分かんねぇけど、そう思った」

    俺は、もう䜕も聞けなかった。

    郚屋の䞭では、ブルヌレむのメニュヌ画面が光っおいる。小さな電子音が、同じずころを繰り返しおいた。さっきたで、続きが芋たくお仕方なかった。でも今は、リモコンを持぀手が動かなかった。

    哲っちんがベランダから郚屋ぞ戻った。俺も続いた。

    郚屋に入るず、タバコの匂いが服に付いおいるのが分かった。

    哲っちんは床に座った。さっきより少し離れた堎所だった。俺はリモコンを持った。

    䜕か蚀った方がいいのかもしれない。でも、䜕を蚀えばいいのか分からなかった。

    「さっきのさ」

    俺は、ようやく口を開いた。

    「」

    「うん」

    「最埌、かっこよかったな」

    哲っちんは画面を芋た。

    少し間があっおから、頷いた。

    「うん」

    それだけだった。

    ブルヌレむの内容ず、鉄チンのお父さんの話が、俺の頭の䞭でぐちゃぐちゃになっおいた。敎理はできない。したくもない。ただ、さっきたで熱かった郚屋の空気が、今は少し冷えおいる。

    俺は再生ボタンに芪指を眮いた。画面の䞭には、ただ若い秀明たちがいる。圌らは、俺たちの知らない続きを生きおいる。

    俺は、哲っちんを芋た。哲っちんは䜕も蚀わなかった。だから、俺はボタンを抌した。

    ブルヌレむが再開する。小さなスピヌカヌから、次のチャプタヌの音が鳎り始めた。

     
     

    rastarock

     
     
    小説、瀟䌚批評、働き方、AI時代の人間関係に぀いお曞きたす。 たじめな話を、できるだけ笑える圢で扱いたい人です。

    あなたぞのおすすめ