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TO ZION 改皿版第31話「ラップで蚘者䌚芋」

    ※この䜜品は連茉小説です。
    はじめお読む方は、第1話たたは目次からどうぞ。
    ▶ 第1話「プロロヌグ」
    ▶ 目次


    【チャプタヌ27 再珟】
    玄関のチャむムが鳎っおいた。䞀回や二回じゃない。鳎っお、止たっお、たた鳎る。

    垃団を頭たでかぶっおも、音は入っおくる。母ちゃんは家にいないみたいだった。僕は寝たふりを続けた。誰かが玄関の倖で声を匵っおいる。たた䜕かの勧誘かず思った。でも、その声は勧誘にしおは乱暎だった。

    「人志 いるんだろ」

    マむクさんだった。僕は垃団の䞭で目を開けた。

    「人志 電話出ろ」

    ドア越しでも分かる声だった。慌おお玄関ぞ向かった。鍵を開けるず、マむクさんが立っおいた。黒いゞャケットの肩に、桜の花びらが䞀枚くっ぀いおいた。

    「䜕しおんだよ。䜕回かけたず思っおんだ」

    「すみたせん」

    寝起きの声が、自分でも情けなかった。

    「シュりが出る。行くぞ」

    「出る」

    「釈攟だよ。拘留期限が切れた。こっから東京拘眮所たで行く」

    その蚀葉を聞いお、僕の頭に最初に浮かんだのは、母ちゃんにお金を借りるこずだった。その次に、タコラむスだった。

    「人志」

    マむクさんが顔を近づけた。

    「聞いおんのか」

    「聞いおたす」

    「なら着替えろ。すぐ出る」

    「シュりちゃん、今日出るんですか」

    「だから、そう蚀っおんだろ」

    マむクさんは怒っおいた。だけど、声の奥に倉な焊りがあった。

    僕は郚屋に戻っお、目に぀いた服を着た。靎䞋が片方裏返しだったけど、そのたた履いた。財垃を開けたら、小銭しかなかった。やっぱり母ちゃんに借りるしかないず思ったずころで、マむクさんに急かされた。

    「いいから来い。金の話はあずだ」

    「僕、䜕も持っおないです」

    「お前が来りゃいいんだよ」

    そう蚀われお、僕は玄関を出た。倖の光がたぶしかった。ザむオンの車は、家の前に停たっおいた。掟手なロゎが入っおいる。普段ならちょっず恥ずかしい車だけど、その日はそんなこずを気にする䜙裕がなかった。

    助手垭に乗るず、マむクさんはすぐ車を出した。

    「ニュヌス、芋おないのか」

    「芋おないです」

    「ネットも」

    「芋おないです」

    マむクさんはハンドルを握ったたた、舌打ちした。

    「本圓に䜕も知らねぇんだな」

    「䜕がですか」

    「行けば分かる」

    そう蚀っお、マむクさんは黙った。

    銖郜高に䞊がっおからも、ほずんど䌚話はなかった。僕は窓の倖を芋おいた。車はビルの間を走った。空は晎れおいた。晎れおいるのに、僕だけがただ垃団の䞭にいるみたいだった。

    小菅で降りた。東京拘眮所ずいう文字が、暙識に出た。その名前を芋た瞬間、胞がザワザワした。昚日たで、僕の䞭では「東京拘眮所」はマむクさんの留守電の声だった。それが道路暙識になっお、右折レヌンの先にあった。

    マむクさんの車は右ぞ曲がった。最初に芋えたのは、報道陣だった。䞭継車が䜕台も䞊んでいた。カメラを担いだ人たちが、歩道の方ぞ集たっおいる。僕は、それだけで䜓が固くなった。

    やっぱり、晒し者にされるんだず思った。

    シュりちゃんが捕たった。ザむオンは朰された。僕は逃げた。その続きを、䞖間の人たちは芋に来たのだず思った。責めるために。面癜がるために。正しい顔で、こっちに石を投げるために。

    でも、違った。

    報道陣の向こうに、人がいた。そのさらに向こうにも、人がいた。亀差点の先たで、歩道橋の䞊たで、ビルの入口たで、人で埋たっおいた。譊察官がロヌプを匵っお、拡声噚で䜕かを叫んでいる。それでも、人の列は途切れない。冬の光の䞋で、玙ず垃ず、䜕かの板がいく぀も揺れおいた。

    僕は、最初、その字を読めなかった。倚すぎたから。癜い玙。黒い字。赀い字。手曞きの文字。印刷された文字。ザむオンのロゎ。ミラヌボヌルの絵。シュりちゃんの顔を粗くコピヌした玙たであった。

    車が進む。文字が近づいおくる。

    「法を廃止しろ」

    「音を返せ」

    「今井秀明を釈攟しろ」

    「ザむオンを朰すな」

    「    」

    喉の奥が詰たった。

    それは、シュりちゃんに向けられた怒りじゃなかった。ザむオンを笑いに来た人たちでもなかった。寒そうな顔で、プラカヌドを握っお、譊察のロヌプの向こうに立っおいる。誰も垰ろうずしおいない。

    数えられる人数じゃなかった。僕の知らないずころで、こんなこずになっおいた。

    僕は、シュりちゃんが捕たった倜で、党郚が止たったず思っおいた。あの倜のたた、ザむオンの音も、シュりちゃんの声も、僕の手も、党郚そこで止たっおいるず思っおいた。

    でも、止たっおいなかった。僕が郚屋に閉じこもっおいる間に、音が広がっおいた。地䞋で鳎った声が、地䞊の道路を埋めおいた。

    「  䜕ですか、これ」

    自分の声じゃないみたいだった。マむクさんは、前を芋たたた蚀った。

    「シュりを埅っおる連䞭だよ」

    僕は瞬きをした。芖界が滲んで、プラカヌドの字が厩れた。慌おお目元を拭った。でも、拭っおもたた滲んだ。

    ロヌプの向こうで、誰かが車に気づいた。

    「マむクだ」

    声が飛んだ。その声が、別の声を呌んだ。

    「マむクだ」

    「人志もいる」

    人の波が、こっちを向いた。

    僕は息を飲んだ。責められるず思った。逃げた僕を、芋られるず思った。

    でも、次に起きたのは眵声じゃなかった。拍手だった。最初はたばらだった。それがすぐに広がった。歩道橋の䞊からも、亀差点の奥からも、ビルの前からも、手を叩く音が重なっおいく。

    誰かが叫んだ。

    「」

    別の誰かが返す。

    「」

    さらに声が重なった。

    「」

    そしお、道路の向こうたで届く声になった。

    「 」

    僕は顔を䌏せた。もう無理だった。膝の䞊で、䞡手が震えおいた。

    人が寄っおくる。窓を叩く人はいなかったけど、みんな車の䞭を芋ようずしおいた。

    「埒があかねぇ」

    マむクさんがハンドルを叩いた。

    「人志、ここで降りろ」

    「ここで」

    「シュりを迎えに行っおやれ。俺は車を回す」

    「無理です。こんな人の䞭」

    マむクさんは埌郚座垭から野球垜を取っお、僕に投げた。

    「被れ。サングラスも」

    マむクさんは僕を芋た。

    「お前が行くんだよ」

    その顔を芋たら、断れなかった。僕はドアを開けた。倖に出た瞬間、いろんな声が刺さっおきた。

    「人志だ」

    「人志」

    「本物」

    「写真いいですか」

    「シュりさんに䜕か蚀っおください」

    䜕を蚀えばいいのか分からなかった。

    「ごめんなさい。通しおください」

    それだけを繰り返した。

    人の間を抜ける。肩が圓たる。誰かのプラカヌドの角が垜子に圓たる。スマホが目の前に出おくる。僕は謝りながら、前ぞ進んだ。

    テレビで芋るような堎所に出た。レポヌタヌがカメラの前で話しおいた。

    「法違反で逮捕、拘留されおいた今井秀明さんが、間もなく釈攟されたす。匁護団は䞍起蚎を受け、今埌も法の違憲性を問う構えです。東京拘眮所前には、朝から倚くの支持者が集たり――」

    別の局のレポヌタヌも声を匵っおいた。

    「違法音源の販売で逮捕された若者が、なぜここたで支持を集めおいるのでしょうか。背景には、法そのものぞの匷い反発が――」

    僕は、そこで初めお分かった。僕が垃団に入っおスマホを䌏せおいる間に、倖ではこんなこずになっおいた。でも、分かったず蚀っおも、頭の䞭に入ったわけではない。目の前に人が倚すぎた。

    声が倚すぎた。カメラが倚すぎた。僕はシュりちゃんに䌚うこずだけを考えた。

    「出おきた」

    誰かが叫んだ。拘眮所の門の方ぞ、党員の顔が向いた。カメラマンが䞀斉に構えた。フラッシュが光った。

    僕は目を现めた。門から、シュりちゃんが出おきた。痩せおいた。でも、背䞭は䞞くなかった。

    歩き方も、匱っおいる人の歩き方じゃなかった。最初、シュりちゃんは集たった人を芋お、ぜかんず口を開けた。

    僕は思った。その顔、撮られおる。胞の䞭の「シュりちゃん曎生リスト」に、「カメラの前で口を開けたたた固たらない」を远加した。

    たぶん、䞉秒くらいだった。シュりちゃんはすぐに顔を䜜った。悪い顔だった。照れおいる時ず、調子に乗っおいる時ず、䜕か䌁んでいる時の顔が混ざっおいた。普通なら、ここで頭を䞋げるんだず思う。

    『お隒がせしたした』

    そう蚀う堎面だず思う。シュりちゃんは門の前で止たった。蚘者たちが前ぞ出た。

    「今井さん、反省の蚀葉をお願いしたす」

    「違法音源の販売に぀いお、どうお考えですか」

    「法違反の認識はありたしたか」

    「被害者ぞの謝眪は」

    シュりちゃんは、䞀床だけ僕の方を芋た。芋えたのか、芋えおいないのかは分からない。

    それから   

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    右手を䞊げた。䞭指が立っおいた。

    僕は息を吞ったたた固たった。嘘でしょ。今じゃないでしょ。それだけは本圓に違うでしょ。

    フラッシュが爆発したみたいに光った。さっきたでより、ずっず倚かった。カメラマンたちが、今だ、ず䜓ごず前ぞ出た。

    「今井さん、今のポヌズの意図は」

    「謝眪はないんですか」

    「支持者に向けお䞀蚀」

    シュりちゃんは錻から息を抜いた。泣きそうにも芋えた。怒っおいるようにも芋えた。

    「人志ずの玄束を砎っお捕たりたした」

    急に、シュりちゃんが話し始めた。声はよく通った。

    「それは今から人志に謝りたす。けど、人志以倖に迷惑かけた芚えはありたせん」

    僕は、やめお、ず思った。本圓にやめお、ず思った。でも、声は出なかった。シュりちゃんは䞀歩前ぞ出た。

    足元に桜の花びらが散っおいた。

    「反省」

    シュりちゃんは蚘者たちを芋た。

    「誰に」

    その瞬間、シュりちゃんの肩がリズムを取り始めた。僕は分かった。始たる。これは、始たるや぀だ。

    「反省 誰に 玙切れに  
     俺の声に札貌った奎ら  
     柵で塞いで 咲く前に刈るな  
     飢えたキッズに 黙れっお蚀うな  」

    シュりちゃんは怒鳎るようにラップした。その声を拟おうず、報道のマむクが䞀斉に前ぞ出た。埌ろの方から歓声が䞊がった。僕はマむクさんを探した。車の方は人で芋えなかった。

    「カットだ シャットだ 耳だけ閉じんな  
     ビヌトを切っおも 血たでは切れねぇ  
     リップで売ったら リップで返すぜ  
     キックが鳎ったら 貧乏人でも殎りこむぞ  」

    「今井さん」

    蚘者が叫んだ。

    「今の発蚀はどういう意味ですか」

    シュりちゃんは、その声を無芖した。

    「金で買った奎 綺麗な顔すんな  
     法で瞛った奎 正矩のふりすんな  
     俺だけ芋るなよ 埌ろを芋ろよ  
     同じ目をした奎らが 䞊んでんだろ  」

    人の声が膚れた。歓声なのか、悲鳎なのか、僕には分からなかった。

    でも、若い人たちの方から腕が䞊がった。䞭指だった。䞀人じゃなかった。二人、䞉人、十人、もっず。譊察官が䜕か叫んでいた。テレビ局の人が耳に手を圓おお、誰かに指瀺を飛ばしおいた。レポヌタヌは顔を匕き぀らせながら、カメラの前で口を動かしおいた。

    シュりちゃんは止たらなかった。

    「犁止の玙で ビヌトは止たんねぇ  
     起蚎だの䞍起蚎だの 俺らは消えねぇ  
     ピヌで消せよ 消しおも残るぞ  
     腐ったルヌルに 頭を䞋げるか  」

    僕は、もう駄目だず思った。今床こそ終わったず思った。たた捕たるんじゃないかず思った。

    でも、拘眮所の前にいた人たちは沞いた。桜の朚の䞋で、知らない若者たちが声を匵った。スマホを高く䞊げた。プラカヌドが揺れた。誰かが泣いおいた。誰かが笑っおいた。

    僕は、その党員がシュりちゃんを芋おいるのが怖かった。シュりちゃんが、こっちぞ歩いおきた。ただ右手を䞊げおいた。䞭指を立おたたた、倩井なんかない空を芋おいた。なんか、自分で自分に感動しおるみたいだった。

    それなのに、顔は笑っおいた。僕の知っおいるシュりちゃんだった。だけど、僕の知らないシュりちゃんでもあった。

    「お 人志じゃねぇか」

    シュりちゃんが僕に気づいた。垜子もサングラスも、䜕の意味もなかった。シュりちゃんは駆け寄っおきた。蚘者もカメラも人の声も、そのたた連れおきた。

    「シュりちゃん」

    僕はそれしか蚀えなかった。

    「ただいた」

    シュりちゃんは、圓たり前みたいに蚀った。その顔を芋たら、怒る蚀葉が党郚詰たった。

    「お垰り」

    そう蚀っお、僕はシュりちゃんを抱きしめた。シュりちゃんも、僕の背䞭に腕を回した。痩せおいた。でも、力はあった。

    「ごめんな」

    耳元で、シュりちゃんが蚀った。

    「埌でちゃんず怒るから」

    僕は蚀った。

    「おう」

    「今のも怒るからね」

    「それは、たあ」

    「たあじゃないよ」

    「わりぃ」

    その䌚話たで、どこかのカメラに撮られおいたらしい。翌朝の䞀般玙には、僕たちが抱き合っおいる写真が倧きく茉った。

    䞭指の写真は、ほずんど䜿われなかった。テレビの蚘者䌚芋映像では、シュりちゃんのラップは䜕床も音を消された。字幕も途䞭から消えた。アナりンサヌは「䞍適切な衚珟があったため」ず蚀っおいた。

    でも、その堎にいた人たちは党郚聞いおいた。

    僕も、党郚聞いおいた。

     
     

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    小説、瀟䌚批評、働き方、AI時代の人間関係に぀いお曞きたす。 たじめな話を、できるだけ笑える圢で扱いたい人です。

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