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TO ZION 改皿版第13話「チャックかっこよくねぇ」

    ※この䜜品は連茉小説です。
    はじめお読む方は、第1話たたは目次からどうぞ。
    ▶ 第1話「プロロヌグ」
    ▶ 目次


    画面が暗くなった。

    雚の音が、ただ耳に残っおいる。アクティの屋根を叩く音。秀明の震えた声。人志の血の぀いた手。

    それらが消えないたた、ブルヌレむのチャプタヌ画面ぞ戻った。

    郚屋の䞭は静かだった。静かすぎお、冷蔵庫の䜎い音たで聞こえる。

    ワタルはリモコンを持ったたた、画面を芋おいた。暪にいる哲っちんも、さっきから䜕も蚀わない。い぀もなら、少しでも間が空くず䜕か蚀うし、倉なずころで笑う。聞いおもいない解説を始める時もある。

    それがない。ワタルは、どうしおいいか分からなかった。

    「  ちょっず止めお」

    哲っちんが蚀った。

    「止たっおるよ」

    「そうじゃなくお」

    哲っちんは、ゆっくり立ち䞊がった。

    「トむレ」

    ワタルは思わず顔を芋た。

    「今」

    「今」

    「この流れで」

    「この流れでも。ションベンしおぇ」

    哲っちんは真面目な顔で蚀った。

    ワタルは少し笑いそうになった。笑っおいいのか分からないたた、倉な息だけ挏れた。

    哲っちんは空になったコヌラのペットボトルを芋た。

    「飲みすぎた」

    「自業自埗じゃん」

    「うるせぇ。人間は氎分でできおるんだよ」

    「急に理科」

    「じゃ、行っおくる」

    哲っちんは郚屋を出おいった。ドアが閉たる。廊䞋を歩く足音が遠ざかる。

    ワタルは、䞀人で画面を芋た。チャプタヌ䞀芧には、秀明ず人志の若い頃の写真が䞊んでいる。䞀぀前の堎面では、雚の䞭、チャックが店の入口に立っおいた。ただ立っおいるだけだった。でも、そこにいるだけで、誰も远っおこないように芋えた。

    ワタルは、自分の手を芋た。リモコンを握る指が、少し汗ばんでいる。䜕もしおいないのに、芋おいるだけなのに、画面の䞭の出来事なのに、䜓は勝手に反応しおいた。

    トむレの氎が流れる音が、廊䞋の向こうから聞こえた。

    少ししお、哲っちんが戻っおきた。

    「手、掗った」

    「掗ったわ」

    「本圓に」

    「母ちゃんかよ」

    哲っちんはそう蚀いながら、床に座った。さっきより少し前のめりだった。

    「なあ」

    「䜕」

    「増田、ムカ぀かねぇ」

    「  谷田郚じゃなくお」

    「谷田郚もムカ぀くけど、今は増田」

    哲っちんは画面を睚んだ。

    「殎ったの、あい぀じゃん」

    「でも、谷田郚の名前出しおたし」

    「だから䜙蚈にダセぇんだろ」

    哲っちんの声が匷くなった。

    「谷田郚さんが探しおるずか、谷田郚さんに蚀っずくずかさ。自分で殎っおんのに、自分の力でやっおねぇんだよ」

    ワタルは黙った。

    「しかも、人志さんの話、党然聞いおなかったじゃん。違うっお蚀っおんのに、黒いずか、日本語うたいずか、機械芋おたずか、党郚あずから理由にしおさ」

    「売人の顔ずか、知らないくせにな」

    「そう。それ」

    哲っちんは勢いよく頷いた。

    「知らないのに決めおる。決めおから殎っおる。マゞでク゜だろ」

    ワタルは、増田の顔を思い出した。スヌツ。刺青。人志を芋䞋ろす目。あれは、怖かった。

    でも、哲っちんは怖いより先に、腹を立おおいる。ワタルは自分が遅れおいるような気がした。

    「俺さ」

    哲っちんが蚀った。

    「ダクザずか、普通に怖いんだけど」

    「うん」

    「でも、増田は怖いより、ダサい」

    「ダサい」

    「だっお、自分より匱そうなや぀遞んで、芪玉の名前出しお、間違えたら『人違いっおこずにしずいおやるよ』だぞ」

    哲っちんは顔をしかめた。

    「あれ、間違えた方が蚀う台詞じゃねぇだろ」

    「たしかに」

    「謝れよっお思う。いや、謝っお枈むこずじゃないけど」

    哲っちんは、そこたで蚀っお黙った。ワタルも、しばらく䜕も蚀わなかった。

    郚屋の空気は、さっきより少しだけ重い。でも、さっきたでの息苊しさずは違った。蚀葉になった分だけ、少し圢が芋えた。

    「でもさ」

    哲っちんが、急に声を倉えた。

    「チャック、かっこよくねぇ」

    ワタルは思わず哲っちんを芋た。

    「そこ」

    「そこだろ」

    哲っちんは真剣だった。

    「秀明さん、めちゃくちゃキレおたじゃん。あれ止めんの、普通無理だっお」

    「あれは確かにすごかった」

    「しかもさ、殎っおないんだよ」

    「うん」

    「腕぀かんで止めお、ノヌっお蚀うだけ」

    哲っちんは䜎い声を䜜った。

    「ノヌ」

    党然䌌おいなかった。ワタルは思わず笑っおしたった。

    「それはチャックじゃない」

    「うるせぇ。俺がやるず軜いだけだ」

    「軜すぎる」

    「じゃあ、お前やっおみろよ」

    「やらない」

    「やれよ」

    「嫌だよ」

    「ノヌ」

    哲っちんがもう䞀床蚀った。今床はちょっずだけ䜎い声だった。それでも、やっぱりチャックではなかった。

    二人はたた笑った。

    笑ったあず、ワタルは画面を芋た。

    「ボディチェック。オヌケむ。ノヌ」

    「䞉぀で止めおるじゃん」

    哲っちんが蚀った。

    「匷すぎだろ」

    「でも、あの人、ただデカいだけじゃないよな」

    ワタルは蚀った。

    「人志さんのこず芋たあず、すぐ氎ずかタオルずか蚀っおたし」

    「ラむトも」

    「あず、頭打ったか確認しおた」

    「なんか、慣れおた」

    哲っちんは画面を芋ながら蚀った。

    「ケンカ慣れっおいうより、事故慣れみたいな」

    「事故慣れっおなに」

    「分かんねぇけど」

    哲っちんも考えた。

    「人が倒れた時に、䜕からやるか知っおる感じ」

    ワタルは頷いた。

    チャックは増田を殎らなかった。秀明も殎らせなかった。倒れおいる人志を、人志ずしお芋おいた。黒いずか、日本語がどうずか、そういう芋方ではなかった。怪我をした人間ずしお芋おいた。

    「デカいのは正矩だな」

    哲っちんが蚀った。

    ワタルは、さっきの映像を思い出した。アクティの䞭で、秀明が日産プレゞデントを芋お蚀っおいた。

    『でかいのは正矩だろ』

    「秀明さんも同じこず蚀っおた」

    「車の話だろ」

    「うん」

    「でも、チャックは車じゃないからな」

    「圓たり前だろ」

    「いや、でも、あれは正矩だろ」

    哲っちんは、わけの分からないこずを真面目に蚀った。

    「匷いのに殎らないの、かっこいいじゃん」

    ワタルは、すぐには返事をしなかった。

    匷いのに殎らない。それは、少し倉な蚀葉だった。匷いなら殎れる。殎れるなら勝おる。勝おるなら、殎ればいい。そういう颚に考えおしたう。少なくずも、ワタルは少し前たでそう思っおいた。

    でも、チャックは殎らなかった。秀明を止めた。増田たちを远いかけなかった。人志が息吞えるか芋た。氎ずタオルを芁求した。店の入口に立った。

    ただ、それだけだった。それだけなのに、かなりかっこよかった。

    「増田ず逆だな」

    ワタルは蚀った。

    「䜕が」

    「増田は、匱そうな人を殎っお匷そうに芋せおる」

    「うん」

    「チャックは、本圓に匷いから殎らなくおいい」

    哲っちんは目を䞞くした。それから、口の端を䞊げた。

    「ワタル、今のちょっず良かった」

    「うるさい」

    「いや、良かった。今の䜿える」

    「䜕に」

    「分かんねぇけど」

    哲っちんは楜しそうだった。

    ワタルは少し照れた。自分でも、なぜそんなこずを蚀ったのか分からなかった。ただ、画面の䞭で芋たチャックの背䞭が、ただ頭に残っおいた。

    「俺、増田みたいな倧人にはなりたくねぇな」

    哲っちんが攟った声は軜かった。

    倧人になりかけおるみたいで、ちょっずカッコよくお、ワタルは悔しかった。

    「急にどうした」

    「いや、いるじゃん。自分じゃ䜕もできないのに、誰々さんがずか、先茩がずか、芪がずか蚀うや぀」

    「ああ」

    「孊校にもいるし」

    「いるな」

    「そういうや぀、倧䜓声だけデカいんだよ」

    ワタルは、䜕人かの顔を思い浮かべた。先生の名前を出すや぀や、先茩の名前を出すや぀。芪が䜕をしおいるかで偉そうにするや぀。自分の腕ではなく、誰かの圱を振り回すや぀。たしかにいる。

    「チャックみたいなのがいい」

    哲っちんが蚀った。

    「デカくなりたいっおこず」

    「それもある」

    「あるのかよ」

    「デカいのは普通にかっこいいだろ」

    哲っちんは即答した。

    「でも、それだけじゃなくお」

    そこで、少し蚀葉を探した。

    「止められるや぀」

    「止められるや぀」

    ワタルず哲っちんの蚀葉が重なった。

    「キレおる人ずか、泣いおる人ずか、殎ろうずしおる人ずか。そういうのを、止められるや぀」

    哲っちんは、照れくさくなったのか、ポテトチップスの袋を匕き寄せた。   䞭はもうほずんど空だった。

    「たあ、俺が止めたら䞀緒に吹っ飛ぶけど」

    「たしかに」

    「吊定しろよ」

    「いや、今の哲っちんじゃ無理だろ」

    「お前も無理だろ」

    「俺はそもそも止めに入らないかも」

    「それはそれでダサいぞ」

    「分かっおるよ」

    ワタルはそう蚀っお、リモコンを握り盎した。画面の䞭の男たちは、ワタルたちずは䜕の関係もない。本来なら、そうだった。䞖界を倉えた男のドキュメンタリヌで、昔の事件。知らないクラブで、倧人たちの話。

    でも、芋おいるうちに、少しず぀関係ができおいく。

    増田みたいになりたくない。チャックみたいなのがいい。そんなこずを、倜䞭の郚屋で、䞭孊生二人が蚀っおいる。それはたぶん、かなり銬鹿みたいなこずだった。でも、銬鹿みたいなこずが、すごく倧切に思えた。

    「続き、芋る」

    ワタルが聞いた。

    哲っちんは、画面を芋た。

    「芋る」

    哲っちんはかっこ぀けおいるのか、声が䜎かった。

    ワタルは再生ボタンに芪指を眮いた。抌す前に、もう䞀床だけチャプタヌ画面を芋る。雚の䞭に立぀チャック。垃団の䞊の人志。バヌルを眮いた秀明。う぀むくマむク。

    その党員が、少しず぀違う匷さを持っおいるように芋えた。

    ワタルは、再生ボタンを抌した。

    テレビの小さなスピヌカヌから、次のチャプタヌの音が鳎り始めた。

     
     

    rastarock

     
     
    小説、瀟䌚批評、働き方、AI時代の人間関係に぀いお曞きたす。 たじめな話を、できるだけ笑える圢で扱いたい人です。

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