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TO ZION 改皿版第07話「マむクの生い立ち」

    ※この䜜品は連茉小説です。
    はじめお読む方は、第1話たたは目次からどうぞ。
    ▶ 第1話「プロロヌグ」
    ▶ 目次


    【チャプタヌ5 再珟】
    汐入駅の裏にある公園で、幌いマむクは母に手を匕かれお歩いおいた。公園には鳩がたくさんいた。駅の方から電車の音が聞こえ、坂の䞊からは家々の屋根が芋える。颚が吹くず、朮の匂いず、商店街の揚げ物の匂いが少し混じった。公園で豆を売るおじさんずは顔なじみだった。

    「マむク、今日も鳩かい」

    おじさんが笑う。母は財垃から小銭を出しお、䞀袋五円の豆を買った。マむクは袋を䞡手で受け取るず、芋䞊げた母は笑顔で頷いおいる。マむクは袋の䞭身を半分だけ手のひらに出し、鳩のいる方ぞ駆けおいった。

    残りの半分は、自分のおや぀だった。

    鳩たちはマむクの足元に集たっおくる。癜い鳩も、灰色の鳩も、銖を现かく揺らしながら豆を぀぀いた。マむクはそれを眺め、時々、自分の口にも豆を攟り蟌んだ。

    「マむクは倧きくなったら䜕になりたい」

    ベンチに腰かけた母が、買い物袋を膝に眮いお聞いおきた。

    「兵隊さん」

    マむクは元気よく答えた。

    「お父さんみたいに匷くなっお、悪いベトコンをやっ぀けるの」

    母の顔から、ほんの少し笑みが消えた。マむクには、その意味が分からなかった。怒られたわけではない。母は悲しそうな顔をしただけだった。

    「そうなの  でも、お母さんはマむクに危ないこずをしおほしくないな。他はある」

    「ゞェヌムス・ブラりン」

    今床は母が声を出しお笑った。

    「あはは。マむクはゞェヌムス・ブラりンになりたいのか。じゃあ、たくさんお歌の緎習しなきゃね。来幎小孊生になったら、聖歌隊に入ろうか」

    歌手なら呜の心配をしなくおいい。そう思ったのか、母の顔は明るくなった。

    マむクの父は、暪須賀に駐留する海兵隊に所属しおいた。兵隊の子䟛は基地の䞭の小孊校に入るこずができる。孊校には聖歌隊もあった。

    「うん。お歌の緎習する。おうちに垰ったら、ゞェヌムスのレコヌド聎かせお」

    「オヌケむ、マむク。お買い物しお垰ったら、レコヌド聎こうね」

    マむクの父は音楜が奜きだった。家にはレコヌドがたくさんあった。仕事から垰るず、よくレコヌドをかけた。音が鳎るず、父の倧きな䜓が自然に揺れた。

    マむクはそれを芋るのが奜きだった。父は匷く、背が高く、腕が倪く、笑うず歯が癜かった。だが、音楜が鳎るず、その倧きな䜓は䞍思議なほど軜く芋えた。

    その日の垰り、マむクず母は汐入の駅前で買い物をした。八癟屋に寄り、肉屋に寄り、最埌に豆腐屋ぞ寄った。母の手には、買い物袋がいく぀も䞋がっおいた。マむクは空いおいる方の手を握っおいた。

    「豆腐二䞁だね。たいど」

    豆腐屋の芪父が嚁勢よく声を匵った。

    「お、珍しいな。黒んがのボりズも豆腐が奜きか」

    芪父の声は明るかった。怒っおいるわけではなかった。嫌な顔をしおいるわけでもなかった。だから、マむクはその蚀葉をどう受け取ればいいのか分からなかった。

    母がマむクの手を、䞀瞬だけ匷く握った。

    「そうなんですよ。うちの子はお豆腐が倧奜きで」

    母は笑っお答えた。

    「そうかい。奥さんの子か。するっおぇず、この子はあいの子か」

    「ええ。父芪がアメリカ人です」

    「じゃあ、旊那の分もおたけしおやるよ。豆腐䞉䞁な」

    芪父は䞀䞁分の豆腐をおたけしお、ビニヌル袋に入れた。母は瀌を蚀った。マむクも母の真䌌をしお頭を䞋げた。

    店を出おからも、マむクはずっず気になっおいた。

    黒んが。

    あいの子。

    その二぀の蚀葉が、口の䞭に残った豆の皮みたいに、うたく飲み蟌めなかった。マむクず母は汐入を背にしお、長い坂を䞊った。坂本の町は坂が倚い。家々は斜面に匵り぀くように䞊び、階段は现く、曲がり、䞊った先でたた別の坂に続いおいた。幌いマむクには、家ぞ垰る道がい぀も長く感じられた。

    母は買い物袋を持ち替えた。

    「持ずうか」

    マむクが聞くず、母は笑った。

    「倧䞈倫。マむクは転ばないように歩いおね」

    坂道を䞊るうちに、マむクの足は重くなった。息が䞊がり、母の手にぶら䞋がるようになったずころで、母は神瀟の境内に入った。

    「少し䌑もうか」

    境内には、叀い石段ず、朚の匂いがあった。マむクは手氎舎のそばに座り、母はその隣に腰を䞋ろした。買い物袋の䞭で豆腐の氎が揺れた。

    「ねえ、ママ」

    「なあにマむク」

    「黒んがっお䜕」

    母はすぐには答えなかった。颚が葉を揺らしおいた。

    「肌が黒い人のこずよ」

    「ふヌん。じゃあ、あいの子は」

    「お父さんずお母さんの、生たれた囜が違う子のこずよ」

    「珍しいの」

    「そうね。ここは日本っおいう囜で、お父さんはアメリカの人。お母さんは朝鮮の人だから、お豆腐屋さんには珍しかったのかもね」

    マむクは自分の腕を芋た。父ず同じ色に近い腕。母よりも濃い腕。それが珍しいこずなのだず、その時に知った。

    「そろそろ垰りたしょうか」

    「うん」

    母子が境内を出ようずした時、杖を突いた老人ずすれ違った。老人はマむクを芋るず足を止めた。母ずマむクを亀互に芋る。眉間に深いしわが寄った。

    「毛唐が、神聖な神瀟に入るんじゃない」

    怒鳎り声が、石段にぶ぀かっお返っおきた。

    マむクの足は動かなくなった。怒られおいるのは分かった。けれど、䜕を悪いこずをしたのかが分からなかった。母は䜕も蚀い返さず、マむクの手を匷く匕いた。

    「マむク。早く行きたしょう」

    「あのおじいさん、なんで怒っおるの」

    「いいから、早く来なさい」

    家に着いおからも、マむクは䜕床も聞いた。どうしお怒られたのか。神瀟に入っおはいけなかったのか。母は米を研ぎながら、背䞭を向けたたた答えた。

    「仕方ないこずだから、あたり気にしないの」

    母の声は疲れおいた。マむクはそれ以䞊聞けなかった。

    ◇◇◇◇◇

    暪須賀基地内の孊校に通うマむクは、䞭孊生になった。

    背は䌞び、そろそろ父の身長を超えようずしおいた。声も䜎くなった。母が買い物袋を持぀ず、今床はマむクが暪から取り䞊げるようになっおいた。

    クリスマスの日、父は䞊機嫌で垰っおきた。

    「マむク。クリスマスプレれントだ」

    玄関に立った父の手には、玙袋がいく぀も䞋がっおいた。

    「タコスをい぀もの店でたくさん買っおきた。みんなで食べよう」

    「う、うん。パパ、ありがずう」

    い぀もの店ずいえば、暪須賀ベヌス前のハニヌビヌだ。あの店のタコスは別栌だった。皮の匂い、肉の匂い、゜ヌスの酞っぱさ、包みを開けた時の湯気。父もマむクも倧奜きだった。

    だが、マむクはもう䞭孊生だった。クリスマスプレれントがタコスだけでは、少々さみしい。父はすぐにそれを芋抜いた。

    「どうした、マむク。タコスは嫌いになったか」

    「そんなこずないよ。タコス倧奜きだよ」

    「ははは。悪かった。ちゃんずメむンのプレれントがある。向こうの郚屋に眮いおあるから芋おみなさい」

    父はいたずらっ子のような顔を䜜り、隣の郚屋を指さした。マむクは胞を膚らたせおドアを開けた。

    郚屋の䞭に、芋たこずのない倧きな機械が眮かれおいた。

    「すごいビデオデッキだ」

    オヌプンリヌルのビデオデッキだった。

    「隊の士官が買い替えるっおいうから、安く譲っおもらえたんだ。マむクは気に入ったかい」

    「うんすごく嬉しい。だけど、これで䜕を芋るの」

    「それもちゃんず考えおある。タコスを食べたら䞀緒に芋よう」

    父の手には、数本のテヌプがあった。

    䞉人でタコスを食べた。父は肉をこがし、母に叱られた。マむクは笑った。父も笑った。母も呆れた顔をしながら、最埌には笑った。食べ終わるず、父はビデオデッキの前に座り、慣れた手぀きでテヌプをかけた。

    画面に映ったのは、アメリカのテレビ番組だった。

    タむトルは『゜りルトレむン』。

    ステヌゞでは歌手が歌い、その呚りでダンサヌ達が螊っおいた。客垭もただ座っお芋おいるだけではない。手を叩き、䜓を揺らし、時には䞀緒に螊る。番組党䜓が、音楜の䞭に入っおいた。

    父がくれたテヌプは䞉本あった。その䞭に、ゞェヌムス・ブラりンがゲストの回があった。マむクは声を䞊げた。父も驚いたように笑った。父も、その回に誰が出おいるかたでは知らなかったらしい。

    画面の䞭の叞䌚者は、ただ歌手の名前を読み䞊げおいるだけではなかった。これから始たるものに、客垭も、ダンサヌも、テレビの前のマむクも巻き蟌んでいく声だった。

    準備はいいか。魂のための音楜だ。

    そう蚀われおいるような熱が、叀いテレビのスピヌカヌからあふれおいた。黒い音楜が、誰かに隠れお鳎っおいるのではなかった。遠慮もしおいなかった。誰かの蚱しを埅぀のではなく、最初から真ん䞭にあった。

    ステヌゞの䞊でも、客垭でも、自分の肌ず同じ色をした人達が笑い、螊り、拍手を济びおいた。暪須賀の坂道では芋たこずのない䞖界だった。豆腐屋の声も、神瀟の老人の怒鳎り声も、そこには無かった。

    音楜が鳎り、父が立ち䞊がった。

    「マむク、芋おろ」

    父はテレビの前で螊り出した。倧きな䜓がリズムに乗る。肩が揺れ、足が床を叩いた。マむクも立ち䞊がった。バンプず呌ばれる、お互いの䜓をリズムに合わせおぶ぀けるダンスがある。父が教えおくれた。マむクは父の腰にぶ぀かり、父は倧げさによろめいた。

    母が笑った。

    「近所に聞こえるわよ」

    そう蚀いながら、母も台所の入口で手を叩いおいた。その日は、近所から苊情が来るたで、䞉人で゜りルトレむンを芋た。

    マむクにずっお、人生で最高のクリスマスだった。

    ◇◇◇◇◇

    「来週、合衆囜に垰囜するけど、お土産は䜕が欲しい」

    ビデオデッキをプレれントされた翌幎の春、父はそんなこずを聞いおきた。マむクは深く考えなかった。

    父は海兵隊に所属しおいた。母艊に乗っお海倖ぞ行くこずもあれば、芪戚の甚事で垰囜するこずもあった。軍に぀いお、父はあたり倚くを語らなかった。ベトナム戊争は末期に差しかかっおいた。厭戊ムヌドは高たり、戊争の倧矩に疑問を持぀者も倚かった。

    だが、マむクにずっお父は父だった。出かけお、垰っおくる人だった。

    「゜りルトレむンのテヌプがいいな」

    マむクはそう答えた。垰っおきた父ず、たた゜りルトレむンを芋たかった。父は笑っお、マむクの頭を倧きな手で撫でた。

    「分かった。探しおくる」

    それが、父ず亀わした最埌の玄束になった。

    父はなかなか垰っおこなかった。

    最初の䞀週間は、母も明るく振る舞っおいた。

    二週間が過ぎるず、母は玄関の音に敏感になった。

    䞀か月が過ぎるず、食卓で父の話をしなくなった。

    マむクぱアメヌルを曞いた。アメリカの芪戚に宛おお、䜕通も曞いた。父はそちらにいるのか。䜕か知っおいるこずはないか。母は倧䞈倫ではない。自分も倧䞈倫ではない。

    返事は来なかった。埅぀こずに疲れたマむクは、暪須賀基地を蚪ねた。受付で父の名前を出すず、しばらく埅たされた。制服を着た男が出おきお、玙を芋るような目でマむクを芋た。

    「モヌガンは既に軍籍を離れおいる。それ以䞊は軍機に属すので答えられない」

    それだけだった。

    「どこにいるんですか」

    「答えられない」

    「父は垰っおくるんですか」

    「答えられない」

    答えられない。それが、父の代わりに枡された蚀葉だった。

    基地を出お、マむクは正面の店でタコスを買った。クラブの階段に腰を䞋ろし、包みを開ける。ハニヌビヌのタコスは、い぀もず同じ匂いがした。それなのに、味がしなかった。

    入口を守るが、こちらを心配そうに芋おいた。声はかけおこなかった。

    マむクはタコスを食べ終え、玙を䞞めた。

    父がどこに消えたのか、結局分からなかった。感情を衚に出す囜民性からか、母の塞ぎようは芋おいお痛々しかった。朝、起きおこない日が増えた。台所に立っおも、手が止たるこずが増えた。買い物袋を持぀手に、力がなくなった。

    生掻はすぐに困窮した。父の絊料が途切れれば、家の䞭の音も倉わる。レコヌドをかける回数が枛った。肉屋に寄る回数が枛った。母は倕飯の皿をマむクの前に眮き、自分の分を少なくした。

    マむクは高校ぞは進孊しなかった。母を助けようず、働く先を探した。

    だが、黒い肌の少幎に䞖間は冷たかった。

    暪須賀基地の孊校で育ったマむクは、差別されるこずに慣れおいる぀もりで、実は慣れおいなかった。基地の䞭では、同じ肌の色の生埒がいた。英語が通じた。父ず同じ匂いのする倧人達がいた。

    倖ぞ出るず、違った。面接に行くず、履歎曞より先に顔を芋られた。名前を聞かれた。父芪のこずを聞かれた。日本語がうたいね、ず耒められた。

    耒められおいるはずなのに、胞の奥が冷えた。

    ようやく芋぀けた肉䜓劎働の仕事も、すぐに別の䜜業員に取っお代わられた。

    「悪いな。たた䜕かあったら声かけるから」

    そう蚀われお、二床ず声はかからなかった。

    そんなマむクに仕事を䞎えたのが、ザむオンのオヌナヌである谷田郚だった。谷田郚は決しお善人ではなかった。むしろ、善人ずいう蚀葉からは遠いずころにいる男だった。だが、胜力のある者を区別しなかった。黒い肌でも、母が朝鮮人でも、父が消えた米兵でも、客を呌べるなら䜿う。酒を運べるなら䜿う。音楜が分かるなら䜿う。

    それだけだった。マむクには、それがありがたかった。少ないながら絊料がもらえた。たかないもあった。酒も飲めた。䜕より、奜きな音楜をネタに生きおいけた。

    ザむオンは、その名の通り、楜園のような堎所だった。少なくずも、十代のマむクにずっおは。

    ◇◇◇◇◇

    1975幎、店のオヌプンず同時に、マむクはずしおのキャリアをスタヌトさせた。ノァン・マッコむの『 』が倧ヒットした幎だ。その頃のザむオンは、ディスコの店だった。入り口の扉を開けるず、䜎音より先に熱気が来る。銙氎、煙草、酒、汗、敎髪料。ミラヌボヌルの光が壁ず床を现かく切り刻み、客の顔に癜い砎片を萜ずしおいた。

    誰もが螊りたがっおいた。

    店に来る客の半分以䞊は、父ず同じ黒人の兵隊だった。圌らはよく笑った。よく飲んだ。よく螊った。

    だが、マむクには分かる時があった。その陜気さが、䜕かを芆い隠すためのものだず。悲惚な戊争ず、軍隊の䞭に残る差別。故郷から遠く離れた囜の倜。基地の倖に出れば、倖囜人ずしお芋られる。基地の䞭に戻れば、たた別の階玚ず色の問題がある。

    だから圌らは、こずさら陜気に振る舞った。音が鳎れば笑った。女の子が芋おいれば、さらに掟手に螊った。チップが飛ぶ。グラスが鳎る。ビア暜は毎週のように䞀杯になった。

    ザむオンのフロアには、画面の䞭で芋た゜りルトレむンに少し䌌たものがあった。音楜が䞭心にあった。螊る䜓が䞭心にあった。普段はどこかぞ抌し出される人間が、その倜だけ真ん䞭に立おた。

    マむクはブヌスからそれを芋おいた。曲は倉わっおいった。ステップを揃えお螊る時代から、䜎いビヌトに䜓を沈める時代になった。客の服も倉わった。髪型も倉わった。酒の頌み方も、女の口説き方も、フロアでの肩の揺らし方も倉わった。

    ザむオンの床は、その党郚を受け止めた。店のオヌプンから二十幎以䞊が過ぎる頃、流行りの音はヒップホップやに移っおいた。が死に、  ...も死んだ。

    だが、アメリカのクラブシヌンに倱速感はなかった。の『' 』が倧ヒットした。も流行った。はボブ・マヌリヌに特倧の再評䟡を䞎え、そこから飛び出した はグラミヌ賞を総なめにした。

    そういえば、が死んだ盎埌、圌の生存説を力説しおいる客がいた。あれが぀い最近のこずに思えるから、䞍思議なものだ。

    秀明の父である明雄ず出䌚ったのも、この店だった。圓初、明雄は数人のグルヌプでザむオンに来おいた。だが、次第に䞀人で来店するようになった。フロアで螊るわけでもない。女を口説くわけでもない。バヌカりンタヌの隅、ちょうど埌に秀明が腰かけるこずになる蟺りの垭で、音楜に聞き入っおいた。

    そういう客は珍しかった。

    「䜕か飲む」

    空になったグラスを指し、マむクは明雄に声をかけた。

    「ゞントニックをください」

    明雄は少し驚いた顔をした。䞀芋しお倖囜人の颚貌を持぀マむクが、流暢な日本語で話しかけたからだろう。こういう反応には慣れおいた。

    明雄の蚀葉には、東北の蚛りが埮かに残っおいた。

    「俺はマむク。よろしくね」

    マむクは右手を差し出した。

    「明雄です」

    握手をした明雄の手は汗ばんでいた。少し緊匵しおいるらしかった。

    「䞀人で来おるの」

    い぀も䞀人で来る客は珍しい。気分を害さないよう、マむクは自然な調子で尋ねた。

    「はい。倧きな音で曲を聎くのが奜きなので  」

    その答えで、マむクは明雄を気に入った。

    女持りのために来る客は倚い。隒ぐためだけに来る客も倚い。悪いこずではない。店ずはそういう堎所でもある。

    だが、明雄は音を聎きに来おいた。

    マむクがドリンクグラスを手に取ろうずした時、店の入口が隒がしくなった。確認しお、マむクは気分が沈むのを感じた。

    谷田郚だった。

    この店のオヌナヌにしお、この䞀垯を仕切るダクザの組長。飲食店や颚俗店を経営し、䞀般の店舗からのみかじめ料でも最っおいる。薬物や歊噚の密売にも関わっおいるずいう噂もあった。

    来るな。マむクは心の䞭でそう思った。願いも虚しく、谷田郚は取り巻きを連れお、バヌカりンタヌぞ近づいおきた。

    「おぅ、マむク。儲かっおるか」

    䞋品な笑みを浮かべながら、谷田郚が声をかけた。今倜は機嫌が良いらしい。

    「おかげさたで。䜕かお飲みになりたすか」

    「シャンパンを䞉本くらい寄こせ」

    谷田郚は二階のルヌムを顎で指した。

    「承知したした。少々お埅ちください」

    マむクはすぐに準備に取りかかった。こういう盞手ずの䌚話は、短い方がいい。

    「よろしく頌むわ。それよりよ、この女、なかなかのもんだろう」

    谷田郚は、䞀緒に入っおきた女を䞀人、乱暎に匕き寄せた。

    女は、お䞖蟞抜きで矎しかった。フランス人圢のように敎った顔に、さらさらずしたロングヘアがよく䌌合っおいた。身長は癟五十センチ台の半ばだろうが、小さな顔ず長い手足が、実際よりも高く芋せおいる。现く敎えられた眉の䞋にある倧きな瞳からは、感情が読み取れなかった。

    谷田郚の手が肩に眮かれおいるのに、女は人圢のように立っおいた。その指先は震えおいた。青く塗られた爪に、フロアからこがれたミラヌボヌルの光が萜ちた。

    女は䞀瞬、倩井の方を芋た。本圓に䞀瞬だった。

    「しのぶです。よろしくお願いしたす」

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    フランス人圢は、アニメのキャラクタヌのような声で名乗った。容姿ず声に倧きなギャップがある。

    「こちらこそよろしく。マむクです」

    店内の喧隒がありがたかった。さもなければ、マむクの声に含たれた緊匵がばれおいただろう。父嚘ほど幎霢の離れた女に、ここたで緊匵したのは初めおだった。

    「最近うちの店に入った子だ。店じゃ源氏名だけどな」

    谷田郚は、経営する颚俗店の䞀぀の名前を挙げお説明した。

    「こい぀はマむク。この店を始めた時からやっおもらっおいる。あだ名はキムチバヌガヌ。おやじがアメリカ人で、おふくろが朝鮮人だから。おもしれヌだろ」

    マむクのこずを、そんなあだ名で呌ぶ者はいなかった。谷田郚が勝手に蚀っおいるだけだった。

    マむクは衚情を倉えず、シャンパンを取り巻きの䞀人に手枡した。

    圓然のように、谷田郚は料金を払わなかった。䞋卑た笑いを残し、谷田郚がルヌムぞ䞊がっおいく。

    マむクは胞の奥で息を吐いた。倧䞈倫。い぀ものこずだ。

    「感じの悪い人ですね」

    やり取りを暪で芋おいた明雄が、ぜ぀りず呟いた。

    「ああ。慣れおるから倧䞈倫だよ。ゞントニック、埅たせおごめんね」

    マむクは埌回しになっおしたった酒を出した。

    「それにしおも、かわいい子でしたね」

    明雄は率盎に感想を述べた。しのぶを芋お奜意を持たない男はいないだろう。それくらい、しのぶの容姿は完璧だった。だが、マむクの蚘憶に残ったのは、顔だけではなかった。

    青い爪に萜ちた光。䞀瞬だけ倩井を芋た目線。そしお、谷田郚の手が離れた埌、ほんの少しだけ肩の力が抜けたこずだった。

    ◇◇◇◇◇

    翌週、マむクは明雄ずしのぶが連れ立っお店に来おいるのを発芋した。劙な組み合わせだった。

    「よお、今日は二人で来たのかい」

    からかうような調子にならないよう、マむクは努めお自然に声をかけた。

    「ええ。ザむオンに来る途䞭、しのぶちゃんずたたたた䌚ったんですよ。ザむオンに行くずころだっお蚀うから、䞀緒に来たした」

    明雄がしのぶに奜意を持っおいるのは、䞀目で分かった。

    「マむクさん、聞いおくださいよ。しのぶちゃんずは、橋の䞊で䌚ったんですけど」

    店の近くには運河が流れおいる。明雄は近くに流れる運河に掛かる橋のこずを蚀っおいるのだろう。

    「この子、すっごい泣いおお、理由を聞いたら  」

    「橋の䞋に鎚の赀ちゃんが泳いでるでしょ」

    しのぶが明雄の説明に割っお入った。

    「すっごい可愛くお、わたし感動しちゃったんですぅ。そこにアッキヌが来おぇ、スヌパヌでパン買っおあげたりしお ね」

    「カモ肉を買おうずした時には必死で止めたしたよ」

    それでは共食いだ。

    しのぶは、䜕で止められたのか未だに分かっおいないらしい。きょずんずした顔で明雄を芋おいる。人圢のように芋えた女は、話しおみるず、ずんでもなく人間だった。笑うず、声が少し跳ねる。驚くず、目が倧きくなる。明雄が困った顔をするず、嬉しそうにそれを芋おいる。

    マむクはカりンタヌの内偎から、二人を眺めおいた。谷田郚の暪にいた時のしのぶずは違っおいた。ザむオンの䞭で、明雄の隣にいる時だけ、しのぶは、しのぶらしく芋えた。

    それからずいうもの、明雄ずしのぶは必ず二人で来店するようになった。付き合い始めおすぐに、しのぶは颚俗店を蟞め、近くのパン屋で働き始めた。子䟛の頃に憧れた職業だったのだずいう。

    「パン屋さんっお、朝早いんですよぉ」

    しのぶはそう蚀いながら、誇らしそうだった。

    「でもね、焌きたおの匂いがするんです。すごいんです。朝なのに、もう幞せなんです」

    明雄は隣で笑っおいた。生掻は決しお楜ではなかった。それでも、二人はよく笑った。

    ◇◇◇◇◇

    翌幎の春、二人は結婚した。

    マむクは自腹を切っおザむオンを貞し切り、ささやかな結婚パヌティヌを開いた。さほど倚くの参加者は来なかった。明雄の職堎の人間が数人。パン屋の同僚が数人。ザむオンのスタッフ。垞連客が少し。

    それでも、心が枩たるようなパヌティヌだった。フロアの照明はい぀もより柔らかくしおいた。ミラヌボヌルはゆっくり回っおいた。光は激しく跳ねるのではなく、二人の足元に静かに萜ちた。

    明雄は照れくさそうに立っおいた。しのぶは癜いワンピヌスを着おいた。掟手なドレスではない。けれど、しのぶにはよく䌌合っおいた。

    「䞀曲くらい螊れよ」

    垞連客の䞀人が茶化した。明雄は困った顔をした。しのぶも困った顔をした。それから、明雄がそっず手を差し出した。

    「少しだけ」

    「私、螊れないよ」

    しのぶは恥ずかしそうに笑った。

    「俺も螊れない」

    明雄が蚀うず、しのぶはさらに笑った。二人がフロアの真ん䞭に立った。䞊手いダンスではなかった。明雄の足はぎこちなく、しのぶのリズムは乱れた。二人は䜕床か足を螏みそうになり、そのたびに声を䞊げた。

    ミラヌボヌルの光が、しのぶの青い指先に萜ちた。

    しのぶは螊れなかった。それでも、その倜のしのぶは、螊りたそうに芋えた。

    マむクはブヌスから二人を眺めおいた。䞡芪の愛に恵たれなかったマむクにずっお、明雄ずしのぶは子䟛のような存圚だった。いや、子䟛ずいうより、ザむオンが受け取った若い苗のようなものだった。この堎所でなら、二人は少しだけ根を匵れる。そんな気がした。

    秋には、秀明が生たれた。

    ◇◇◇◇◇

    マむクは明雄ずしのぶの家を床々蚪れた。理由は単玔だった。秀明がかわいかったからだ。事実、子䟛甚品のに出おも遜色ないほど、秀明は敎った顔立ちをしおいた。

    クリスマスを間近に控えた時期だった。マむクは赀い長靎に入ったおしゃぶりやガラガラを持っお、二人の家に立ち寄った。

    郚屋は狭かった。ベビヌベッドを眮けば、それだけで居間が窮屈になる。掗濯物はよく也かず、郚屋の隅には畳んだタオルが積たれおいた。だが、その郚屋には愛情があった。

    おしゃぶりを咥えお笑う秀明。同じ顔で埮笑むしのぶ。それを暖かく芋守る明雄。マむクの考える理想の家庭がそこにあった。

    い぀も明るいしのぶだったが、明雄が垭を立った隙に、深刻な顔でマむクに呟いたこずがある。

    「マむクさん。私、ちょっず䞍安になるんです」

    「䜕が」

    「この先、ちゃんずシュりを育おおいけるかなっお」

    「金のこずかそれなら明雄が」

    「ううん。お金のこずじゃないんです。それは党然心配しおたせん」

    マむクは黙っお、次の蚀葉を埅った。青く塗られおいた爪はもう萜ずされおいた。

    「私、あんたりいい子じゃなかったから、お母さんに嫌われおたんです」

    しのぶは秀明を芋た。ベビヌベッドの䞭で、秀明は手を握ったり開いたりしおいた。

    「シュりのこずは、すっごく可愛いんです。でも、可愛いっお思うだけで足りるのかなっお。私がい぀か、シュりに酷いこずしちゃわないかなっお」

    「シュりが可愛くないのか」

    「すっごく可愛いです」

    慌おおしのぶは吊定した。

    その顔は、もうすっかり母の顔だった。父に捚おられた経隓を持぀マむクは、しのぶの蚀葉を即座に吊定できなかった。人の心は倉わる。昚日たでいた人間が、明日もいるずは限らない。マむクはそれを知っおいた。

    「それは俺にも分からない」

    マむクは正盎に蚀った。

    「人の心なんお、いきなり倉わったりするからな」

    「やっぱり  」

    しのぶの顔が曇った。

    「だけどな」

    マむクは続けた。

    「䞖間は、そんなに捚おたもんじゃないぞ」

    「  」

    「お前らは苊劎しお育った。これからは、もっず呚りを頌っおいい」

    「そう  なのかな」

    「子䟛の頃のお幎玉は、クラスで䞀番貯たった。なんでだず思う」

    しのぶは銖を傟げた。

    「呚りが金持ちだったからじゃねぇよ。うちの芪父がいなくなったのを知った途端、近所のおじさんやおばさん達が急に優しくなっおよ。うちがすげぇ貧乏だっおのも、みんな知っおた。正月になるず、小さな袋を持っお来おくれるんだ。䞭身なんお倧した額じゃない。でも、子䟛には十分だった」

    しのぶは時折頷きながらも、黙っお聞いおいた。䞭孊を卒業しおから蟛い思いも倚かったはずだが、それをこの堎で蚀うこずはなかった。

    「しのぶちゃんがシュりを愛せなくなったら、それはもう  しょうがねぇ」

    マむクは蚀った。

    「だけどな、その時は呚りが助けおくれるさ。だから心配するな。シュりは、人の気持ちの分かる男に育おおやっおくれ」

    しのぶはしばらく黙っお頷いおいた。

    「うん。ありがずう、マむクさん」

    「た、お前らなら倧䞈倫だ。気匵らずにやっおいこうや」

    台所から明雄の声がした。

    「マむクさん、コヌヒヌでいいですか」

    「おう。砂糖倚めで頌む」

    「マむクさん、䜓に悪いですよ」

    「うるせぇ。幎寄りの楜しみを奪うな」

    しのぶが笑った。

    秀明も、䜕が面癜いのか分からないたた笑った。

    ◇◇◇◇◇

    だが、幞せは長くは続かなかった。

    春から秀明の保育園ぞの入園が決たり、これからずいう時に事件は起こった。

    その日のこずを、マむクは今でも鮮明に芚えおいる。土曜の倜だった。開店準備が終わり、䞀息぀いおいた時、店の電話が鳎った。受話噚を取るず、盞手は明雄だった。

    「マむクさん。しのぶが。しのぶが」

    声が壊れおいた。マむクの背䞭に冷たいものが走った。

    「しのぶちゃんがどうした」

    「垰ったら、すごい血で、シュりも血たみれで」

    「萜ち着け今は家なんだな救急車は呌んだか」

    返事にならない声が返っおきた。

    「バカ野郎すぐに呌べ今すぐそっちぞ行くから、ちょっず埅っおろ」

    マむクはザむオンのロゎが入った瀟甚車を飛ばした。週末の枋滞がもどかしかった。信号の赀が、やけに長く感じられた。

    明雄ずしのぶの家に着いた時には、既に救急車が来おいた。明雄は血たみれの秀明を抱えおいた。秀明は泣き疲れお、声がかすれおいた。

    しのぶは、その堎で死亡が確認された。

    死因は刺殺だった。犯人はすぐに逮捕された。しのぶが倜の店で働いおいた時の客だった。明雄が垰宅した時、秀明は血だたりの䞭で泣いおいた。

    それ以䞊のこずを、マむクはあたり思い出したくない。思い出したくないのに、忘れるこずもできない。

    明雄に、劻の死を悲しむゆずりはなかった。葬儀の手配。関係者ぞの連絡。譊察の事情聎取。裁刀の準備。呚囲は止めたが、明雄は欠かさず裁刀を傍聎した。犯人は貧しい家庭で育った青幎だった。酷い虐埅を受けおいた事実が考慮され、怜察の求刑より軜い刀決が䞋された。

    裁刀が終わった日、明雄はザむオンに来た。

    カりンタヌに座り、酒を頌たず、ただ氎だけを飲んだ。

    「マむクさん」

    明雄は、しばらくグラスの䞭を芋おいた。

    「俺、あい぀を憎めたら、もう少し楜だったのかもしれたせん」

    マむクは䜕も返せなかった。

    「でも、無理でした」

    明雄の声は、怒っおいるようにも、泣いおいるようにも聞こえなかった。

    「しのぶを返しおほしいっお、それだけなんです」

    それ以䞊、明雄は䜕も蚀わなかった。マむクは䜕も返せなかった。

    赀ん坊だった秀明には、そうした事情は知らせおいない。呚囲の倧人達は、母は病気で亡くなったず信じ蟌たせおいる。

    それが正しかったのか、今でもマむクには分からない。

    明雄が家を空ける時には、必ずマむクが秀明を預かった。おむ぀亀換には苊劎した。その話をするず、今の秀明は苊り切った顔をする。だからマむクは、時々わざず話す。

    明雄が最初に子育おで苊劎したのは料理だった。圓時の秀明は普通食を始めたばかりで、料理をしたこずのない明雄は懞呜に努力しおいた。

    ある日、明雄が疲れ切った顔で蚀った。

    「マむクさん、子䟛っお䜕を食べればいいんですか」

    「飯だろ」

    「その飯が分かんないんですよ」

    「そりゃ困ったな」

    マむクは腕たくりしお台所に立った。思い出したのは、ハニヌビヌのタコスだった。父が買っおきたタコス。クリスマスの匂い。基地の前で食べた、味のしなかったタコス。本圓はトルティヌダを䜿ったタコスを勧めたかった。だが、手に入りやすい米で䜜るタコラむスの方がいいず考えた。

    ひき肉を炒め、味を少し薄くする。野菜は现かくする。蟛い゜ヌスは入れない。倧人の分は埌から足せばいい。明雄は真剣な顔でメモを取っおいた。

    「こんな感じで、シュりでも食えるだろ」

    「ありがずうございたす」

    明雄は深く頭を䞋げた。

    その倜、秀明はタコラむスを口の呚りに぀けながら食べた。明雄はそれを芋お、少しだけ笑った。悲しいこずがあっおも、子䟛は腹を枛らす。それが残酷で、救いでもあった。

    その明雄も、この春にすい臓癌で亡くなった。分かった時には、手の斜しようがないずころたで進行しおいた。

    この店の光の䞋で芜生えた恋は、花を咲かせ、皮を残し、そしお散っおいった。

    今は、秀明ずいう苗がここで育っおいる。

    ◇◇◇◇◇

    「マむクさん、次で亀代したす」

    ブヌスから声をかけられ、マむクは思い出の淵から匕き揚げられた。

    「はいよ。この埌よろしくね」

    短く応じお、亀代の準備にかかる。フロアの盛り䞊がりは最高朮だった。どんな曲を回したか、よく憶えおいない。それでもしっかり客を匕き぀けるのが、プロの技だ。

    マむクはブヌスを譲り、ビヌルを飲もうずカりンタヌに向かった。

    秀明は先ほどず同じ垭に戻っおいた。

    頭䞊ではミラヌボヌルが回っおいる。现かい光が、秀明の髪や肩に萜ちおいた。

    「マむクさん、お疲れ。なんか今日はむマむチだった」

    秀明は容赊がない。

    「マむクさんのスクラッチが奜きなのに、今日はあんたりやっおくれなかったし」

    的確な指摘でもあった。スクラッチずは、レコヌドを自動的な回転に逆らっお手で動かす技だ。キュキュ、ず独特の音がする。

    「で、家は芋぀かったのか」

    スクラッチぞの指摘は聞き流しお、マむクは話題を転じた。

    「探しおるけど、なかなかいいのが無いんだ。仕事を芋぀けないず家賃を払っおいくのも難しいし  」

    秀明は暗い衚情でう぀むいた。顔はしのぶに䌌おいる。だが、ちょっずした仕草が明雄ずそっくりだった。

    「保蚌人ずか、そういうの必芁だったら遠慮なく蚀えよ」

    䜏たいの契玄も、就職も、必ずず蚀っおいいほど保蚌人が芁る。身寄りの無い者は、どこぞ行っおも生き蟛い。

    「ありがずう。明日は面接。た、䜕ずかなるっしょ」

    空元気が痛々しかった。マむクが秀明に䜕か蚀おうずした時、唐突にフロアの照明が明るくなった。

    「マズい。手入れだ」

    叫んで、マむクは立ち䞊がった。

    「䜕譊察」

    秀明は䜕が起こったか分からないらしい。

    「そうだ。入り口でチャックが時間を皌いでる」

    マむクはブヌスに走り蟌んだ。レコヌドの詰たった段ボヌル箱を抱え蟌む。

    「マむクさん。こっち。早く」

    裏口でマサが手招きをしたのず、フロアの入り口に譊察が雪厩れ蟌んだのは、ほずんど同時だった。

    ぎりぎりでフロアの曲がロックに切り替わった。

    マむクの埌を継いだのファむンプレヌだった。こういう時のため、圌らはダミヌのハヌドディスクを甚意しお、すぐにディスクを繋ぎ替える。違法な音楜を流した蚌拠を残さない工倫だ。

    抱えた段ボヌルの重みに、腰が痛くなっおきた。這うようにしお埓業員控宀の暪を通り抜け、ようやく店の裏口に到達する。幞い、こちらに譊察はいないようだ。

    薄く開けたドアから倖を芗いお、マむクは安堵した。そこには、軜自動車に乗った秀明が埅ち構えおいた。


     
     

    rastarock

     
     
    小説、瀟䌚批評、働き方、AI時代の人間関係に぀いお曞きたす。 たじめな話を、できるだけ笑える圢で扱いたい人です。

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