「詩探しの旅」四元康祐
詩人の四元康祐氏が、世界の詩人たちと出会う旅。
旅先は、ユーゴ内戦終結直後のセルビア、民主化運動最中の香港、紛争の耐えないイスラエル、オランダ、ニカラグア、インド、アメリカ……。
「詩を浮世離れした言の葉の芸と捉えがちな国」
自分はそんな国の人間であると、四元氏は云う。それはまさに、これまで私が詩に抱いてきたイメージそのものだ。
ニカラグアのエルネスト・カルデナル。
中南米で圧倒的支持を集める伝説的詩人。カトリック司祭にして革命運動家として「復讐なき革命運動」を主導してきた。
彼は云う。
「政治、経済、社会、宗教そして神秘をひと塊の現実として表現するのが私の詩だ」
ロシアのマリア・ステパノヴァ。
国内外で数々の文学賞を授与されてきた。
彼女はロシアのウクライナ侵攻直後、「プーチンの想像の産物としての戦争」と題するエッセイを発表。
今はドイツに住み、帰国の目途はないという。
香港の洛楓。
四元氏と彼女は、国家安全法が施行される直前、民主化運動の最中の香港で出会う。洛楓が「文字通り命を賭けて詩を書いている」という事実に、四元氏は圧倒される。
彼女は云う。
「私たちはみな、苦しみや痛みに怯える弱々しい存在です。けれど書くことで、立ち上がり、戦う勇気を手に入れることが出来るのです」
四元氏が彼らから受けた衝撃が、私の魂をも震わせた。
一方で、個性豊かな詩人たちとの出会いの数々は興味深く、楽しく読んだ。
全財産を処分し、スーツケース2つ分の詩集だけを持って放浪の旅に出て、世界中で「詩歌移動図書館」という詩的パフォーマンスをする英国のサラ・ウィンゲート・グレイ。
イランの詩人、アボール・フロウシャンはコンピューター科学者でもあり、ロンドンで国際的なITプロジェクトを統括している。
彼は云う。
「いや、(AIで詩は)書けるよ」
四元氏は、世界各国の様々なバックグラウンドを持つ人々と対話し、ときにはお互いに詩を訳し合ったり、共に連詩を創作したりして、繋がり合っていく。
特に印象的だったのは、スロベニアでの相互翻訳ワークショップだ。
2010年5月、ぼくら7人の詩人は幸福な囚人としてスロベニアの片田舎に幽閉され、朝から晩まで相互翻訳に勤しんでいた。たまに主催者ブラネの恩赦で海辺の街に連れて行ってもらうほかは、3度の食事もホテルの食堂だった。メニューも乏しいしょぼい食堂だったが、なぜかいつもABBAの曲がかかっていた。
そこで1963年生まれの中国の詩人、西川がABBAを知らないと言い、四元氏は、冷戦時代の東西の断絶を思い知らされる。
そのワークショップには、1972年生まれのロシアの詩人、スタニスラフもいた。
ある晩この2人が学生時代、どうやって西側の文学にアクセスしたかという苦労話で盛り上がっていた。その点では中ロの事情は酷似していて、翻訳叢書の装幀まで同じだったとか。そういう話を聞くと、ふたりの詩に共通するものが感じられるのだった。
インド、マルタ、中国、スペイン、ロシア、スロベニア、日本。
7つの国から集った「幸福な囚人たち」。
彼らの日々は眩しくて、私は読んでいて泣けてきた。
言語の壁を超えて、詩が繋いでいくものに思いを馳せた。
