メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

銬を愛し、愛された男 第13話 

    車銬課䞻銬班の誇りず䌝統

      勇倪は宮内庁車銬課䞻銬班の職員になっおいた。

     二十四時間、銬のバむオリズムず共に生きる日々。
     銬は埅っおくれないはどこぞ行っおも同じである。

     宮内庁の装蹄垫は、囜家公務員である。技胜職ずしお、亀替で宿盎もしながら銬の䞖話をする。敷き藁、逌、掃陀、そしお運動。これらは競銬堎でも同じだった。

     宮内庁䞻銬班の仕事にはさらに倧切な仕事が含たれおいた。
    陛䞋のご公務の䞭で、新たに日本に赎任した倖囜の倧䜿ずお䌚いになる「信任状捧呈匏」憲法に定められた囜事行為に、銬の出番がある。

     東京駅ず皇居ずの埀埩、ほずんどの倧䜿が宮内庁の甚意した銬車を利甚する。

     挆塗りの車䜓に、矎しい装食が斜された「儀装銬車」。

     信任状捧呈匏に䜿甚される銬車は倧正2幎補造で、もはや新芏補造は䞍可胜ず蚀われ、修理を繰り返しながら100幎以䞊にわたり倧切に䜿甚されおきた、いわば「走る矎術品」であった。
    「信任状捧呈匏」の際、倧䜿を乗せる銬車の埡者ずしおの任務がその䞀぀であった。
     勇倪は、日本の䌝統を受け継ぐ珟堎の真ん䞭に立っおいた。か぀お動き回るしかなかった少幎は、今や「動いおはならない気高き埡者」ずなっおいた。

     そしお勇倪がその仕事に埓事するようになった幎、宮内庁はむンスタグラムを始めた。䞀番初めのむンスタグラムにその姿は堂々ず映し出された。

     ロンドンで孀独を慰めおくれたのは、バッキンガム宮殿の衛兵や階銬隊だった。銬が日垞の颚景ずしお街を歩いおいた。日本にも同じような堎所があったのだ。ロンドンの曇りがちな空の䞋で芋おいた銬車列が、東京の青い空の䞋で倖囜からの賓客を送迎しおいた。

     そしお勇倪はその人になっおいたのである。街路で芋た矎しい銬の䞖界は留孊時代の慰めだった。今、その任務の時、人々は芳光客も、近くで働く人も足を止め、写真を撮り、幞せそうな顔で芋おいた。
     宮内庁には叀匏銬術の倧切な䌝統を継承するずいう仕事があった。                                流鏑銬、毬球、母衣匕きなど叀匏銬術䌝承ずしおの文化を残すずいう尊い仕事も任務に含たれおいた。

     信任状捧呈匏を終え、銬車が戻っおくる。銬の息が少し萜ち着いたころ、勇倪たちは銬具を倖し、銬車の状態を確認しおいた。
     若い職員が、叀い銬車を芋ながら蚀った。

    「これ、もう䜿わないんですよね」

    勇倪は手を止めずに答えた。

    「䜿わないっお蚀っおも、ただ眮いおあるわけじゃないよ」

    「保存ですか」

    「保存でもあるけど、郚品ずしおの䟡倀もある。挆も金具も朚も、同じものは簡単には䜜れない。叀いものは、叀いずいうだけで終わらないんだよ」

     若い職員は黙っおうなずいた。
     勇倪は少し笑った。

    「ここは、そういう堎所なんだず思う。文化財の宝物を䜿いながら、未来ぞ残しおいく堎所」

     
     にぎやかな郜心が静かな時間がある。早朝、時半過ぎには勀務先に到着するのが習いになっおいる。
     職堎に぀くず着替えお厩舎にいく。厩舎の匂いは干し草のにおいでもある。それぞれに倧きな字で名札がかかっおいる。勇倪が厩舎に入るず逌が早く欲しいず柵を鳎らす音がする。

     朝早く、皇居の䞭で銬を運動させるこずができる。勇倪は、その時間が奜きだった。
     䞀般の職員が登庁しおくる前、広い道はただ静かだった。東京駅からすぐ近くずは思えないほど、皇居の内偎には深い緑がある。
     奥深い森のように朚々が重なり、鶯が鳎く。
     朚挏れ日の䞭を鳥たちが枝から枝ぞ飛び亀う。その道を、銬が歩く。

     蹄の音が、朝の空気に静かに響く。

    「この時間が、䞀番いいんだよな」
    勇倪がぜ぀りず蚀う。
    若い職員が頷く。

    「私もこの時間が奜きになりたした」

    「銬だけの道になるんだよ。人が来る前だけな」

    カッ、カッ、カッ  。

    朝の皇居内に、銬の蹄の音が静かに響いおいた。

    緎習の垰り道、勇倪がぜ぀りず蚀った。

    「俺、この音、奜きなんだよね」

    埌茩が笑った。

    「蹄の音ですか」

    「ああ」

    勇倪は前を芋たたた続けた。

    「なんか、いいんだよ」

    銬たちは同じリズムで歩いおいく。

    カッ、カッ、カッ  。

    埌茩はしばらく黙っおいたが、小さく頷いた。

    「  最近、自分もわかるようになりたした」

    画像
    銬たちの歩く音だけが響く 

    朝の皇居の広い道路を、銬がゆっくり歩いおいく。 
    その姿は、たるで別の時代が、今も静かに息をしおいるようだった。 

    猛暑が毎日のニュヌスになった。

    気象予報士が
    「東京の猛暑はこの皇居の緑で止められおいたす。ヒヌトアむランド珟象が皇居呚蟺は広倧な緑地ず氎蟺により、呚囲のコンクリヌトゞャングルよりも気枩が䜎くなる「クヌルアむランド」を圢成しおいたす。アスファルトの蓄熱や人工排熱で郜心の気枩が䞊がるヒヌトアむランド珟象を緩和する、非垞に重芁なオアシスずしお機胜しおいたす」
    ず朝のニュヌスで説明しおいた。

    「それでも銬だっお暑いのは暑いね。早く行っお涌しいうちに運動しおあげよう」

     倏は他の季節よりもさらに早く家をでた。

    「行っおきたす」

    「宏克がお父さんに塟のこずで盞談があるみたい。早く垰っおきおくださいね。」

    「いっおらっしゃい」

    「うん、銬次第だけど 」

    子どもたちが寝おいる間に家をでる、それが習慣だ。

    倏䌑みが終わったらいよいよ息子も進路を決めなければならなかった。

    父芪に盞談があるようだ。父芪に盞談できる息子が少し矚たしかった。

    そしお、父芪になっおいる自分に驚いた。 


    秋になった。絵里から連絡がたた来た。 

    「「九月二十䞉日の午埌、今床は銬事公苑に空いおいたら来おくださいっお、勇倪が蚀っおいたす。私、仕事なんです。」  

    その日はちょうど、お圌岞の䞭日だった。毎幎、倖苑前たで墓参りに行く日でもあった。銬事公苑は、囜道二四六号線の垰り道で寄れる堎所だった。

    東京駅での再䌚から䞀幎半。
    九月二十䞉日、秋分の日。

    銬事公苑には、心地よい秋晎れの颚が吹いおいた。
    たくさんの人々が集たっおいた。

    いく぀かのキッチンカヌには行列ができおいた。

    絵里ず初めお話を聞いたこずを思い出しおいた。

    「䜕時に出勀するの」

    「四時起きで、五時過ぎには着いちゃう」

    「そんなに早いの」

    「うん、銬は埅っおくれないから」

     銬は、逌を埅っおくれない。

    銬が欲しがる時間に食べさせるために、勇倪は家を出る。
    か぀お、心の眮き所がわからず動き回るしかなかった少幎が、今は䞉十頭の銬のために、自分を埋しおいた。孊んで成長する姿ず職で成長する姿をこのような圢で知るこずが出来るずは驚くこずばかりであった。

    そしおこの日は成人になられた愛子内芪王がお䞀人での公務でこの䌚堎を蚪問しおいた。
     
    秋晎れの銬事公苑は、愛子内芪王殿䞋のご芳芧を䞀目芋ようず、倧勢の芳客で埋め尜くされおいた。

    歎史ある叀匏銬術、母衣匕きが始たった。
    二頭の駿銬がゆっくりず歩き始めた。

    偎察歩そくたいほずは、同じ偎の前脚ず埌脚右前脚ず右埌脚、たたは巊前脚ず巊埌脚を同時に動かす歩き方のこずで䞊䞋の揺れが非垞に少なく、人間が乗った際に安定するず蚀われおきた。

    頭は守、砎、離、だんだんず速くなり、mほどの長さの母衣が地面ず氎平に流れた。
    二人の階手が背に負った赀ず緑の倧きな母衣が、颚をはらんで鮮やかに広がる。

    画像
    緑は春、赀は秋、母衣が流れる

    「あいこさたヌ」

     歓呌の声が、銬事公苑に響き枡った。その人波の䞭で、私は芋぀めおいた。
    「偎察歩」ずいう、銬の䞊半身を揺らさない歩行で走る銬の䞊で、勇倪は䞊半身をたっすぐに保っおいた。

     背に負った母衣は、銬ず地面に平行に、颚をはらんで矎しく流れおいた。
    銬事公苑の銬堎いっぱいに走り抜けるその姿を、私は誇らしく芋぀めおいた。

     か぀お、芪を亡くした寂しさを抱え、動物の䜓枩に救われおいた少幎。
    教宀を飛び出し、行き堎のない苛立ちを抱えおいた少幎。

     その少幎は今、銬ずずもに、皇宀に䌝わる叀匏銬術䌝統の真ん䞭にいた。

     動き回るこずでしか自分を保おなかった男は、今、銬䞊で背筋を䌞ばし、静かに䌝統を継承する人になっおいた。

     乗る銬ずの呌吞、挔技するもう䞀頭ずの間の取り方、銬の速さ、ピシッず小さな掛け声で隊圢が倉わった。

     叀匏銬術「母衣ほろ匕き」、赀ず蒌緑は秋ず春、日本の季節を衚珟しおいた。


     
    参考 皇宀に䌝わる文化 – 宮内庁
    参考 信任状捧呈匏 – 宮内庁
    参考 信任状捧呈匏の際の銬車列 – 宮内庁
    参考 儀装銬車の抂芁 – 宮内庁


     
     
    こんにちは、気になったらトラむで、小説を曞いおみたした。 『地䞊の極光』「銬を愛し、愛された男」を曞きたした。  宙が奜き、自然も人も奜きです。  速さが求められるAI時代だからこそ、人が生きた時間の物語を届けたい。

    あなたぞのおすすめ