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【 Re:write ―俺は異世界を科学でハックする― 】第41話「二番目の器と、賢者の探求」

―絶望を、書き換えろ。


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(……ったく。いつから俺の仕事場は、こんな怪しげな儀式の実験場になっちまったんだか)
工房の隅で、ドレイクは使い込んだ戦鎚を磨いていた。

鉄の古い傷に布が引っかかる。同じ場所をもう一度こすりながら、作業台へ目を向けた。
(やってるこたぁ、結局、俺が一生続けてきた『鍛冶』とそう変わりゃしねえ。)

作業台では、カイとアリアが定着の準備を進めている。
エラーラは事象記録盤を抱え、丸眼鏡を押し上げた。水晶板には数式が流れ続けている。

定着を始めようとしたところで、エラーラがカイとアリアに詰め寄った。「一つ、実験的な提案がある!」

手には、銀色の粉末が入った小瓶。親指が蓋にかかっている。

「今回は、媒体となる水に、触媒としてミスリル銀の粉末を極微量だけ混ぜてみないかい!? 銀の持つ高い魔力伝導率が、魂の定着速度にどう影響するのか、データを取りたいんだ!」

「却下だ」
カイが即答した。

エラーラの足が止まる。

「やめろ、眼鏡!」
ドレイクの怒声が石壁に響いた。
「てめえは、これから生まれようってガキを、実験台にする気か! 少しは神聖な気持ちってモンがねえのか!」

「神聖だろう!? これは、生命の神秘を解き明かす、人類で最も神聖な実験じゃないか!」
エラーラが胸を張る。

「まあまあ、エラーラさん……」
アリアが間に入ろうとしたところで、カイが口を開いた。

「エラーラ。お前の知的好奇心は尊重する。だが、制御不能な変数の追加は、現時点ではリスクがリターンを上回る」

エラーラの手の中で、小瓶がわずかに傾く。

「まずは、ウンディーネの時と全く同じ条件下で、魂の再現性を確保する。それが、最も合理的な手順だ」

「……ちぇっ」
エラーラは唇を尖らせ、小瓶を作業台の端へ戻した。
「分かったよ! まずは、基本に忠実に、だね! その代わり、定着プロセスは、一から十まで、瞬きもせずに観測させてもらうからな!」

カイの合図で、アリアが竪琴を構えた。

最初の和音が工房に広がると、器の上に浮かんでいた第二の灯火が、歌声に引かれるようにゆっくりと水晶の器へ沈んでいった。

灯火が水面に触れた瞬間、器の内部から光が広がる。熱を持たない水が沸騰したように跳ね、周囲の空気まで引き込まれた。耳の奥が詰まり、鼓膜が内側へ引かれる。

光の粒が螺旋を描いて立ち上がり、水飛沫の間を抜けていく。

エラーラのペン先が紙を引っかいた。インクが一箇所だけ滲んだが、手は止まらない。

アリアの歌が続くにつれ、水は少しずつ形を失っていった。飛び散った雫が霧へ変わり、器の中で渦を巻きながら広がっていく。

一度は少女の輪郭を作りかける。

だが、形は定まらない。

集まりかけた霧がほどけ、薄く広がったあと、また中心へ戻ってくる。その動きを何度か繰り返すうちに、光も水飛沫も少しずつ収まっていった。

やがて、水晶の器の中には、小さな霧の渦だけが残った。

輪郭は薄い。中心だけが、わずかに濃い。

アリアがそっと手を伸ばす。

「ミストちゃん……?」

霧の渦が器の縁を越え、アリアの掌へ移った。


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