【 Re:write ―俺は異世界を科学でハックする― 】第25話「問いのあと」
―絶望を、書き換えろ。
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「レオンを殺した『あれ』を滅ぼせるなら、どんなリスクだろうと、俺は取る」
カイの言葉が消えたあとも、工房にはその重さだけが残っていた。
天井から吊り下げられた惑星模型が、重い音を立てながら回っている。床に散った羊皮紙の上を影がゆっくり横切り、壁際では止まった蒸留装置の中に紫色の液体が澱んでいた。
その中心にある作業台では、『名もなき神々の書』が生命のように淡く脈打っている。
光に照らされた四つの影のうち、誰も動かなかった。
ドレイクは腕を組み、眉間に深い谷を刻んでいる。カイの瞳はもうエラーラを映しておらず、古文書から漏れる光だけを追っていた。
指先が、作業台を一定の間隔で叩いている。
向かいに立つエラーラは浅い呼吸を繰り返し、わずかに後ずさった位置で止まっていた。古文書へ伸びかけた手も、そのまま宙に残っている。
指先が微かに震えていた。
アリアは二人を交互に見つめる。
カイの横顔に、あの日、目の前で崩れ落ちた兄の最期の背中が重なった。
冷え切った指先を強く組むと、一度ほどけ、また絡んだ。何か言おうとして唇が動いたが、言葉にはならない。
アリアはそのまま、足元のミミを抱き寄せた。
頭上で惑星模型が軋み、その影がカイの肩から作業台を渡り、エラーラの足元まで流れていく。
カイの指は同じ間隔で台を叩き続けていた。エラーラの手も下がらない。
ドレイクも、二人の間へ踏み込まなかった。
誰も次の言葉を選べないまま、古文書だけが淡く光り続けていた。
「……そのほん」
か細い声がした。
アリアの腕の中で、ミミが顔を上げている。
カイを見て、次にエラーラを見る。それから二人の間に置かれた古文書へ視線を移し、小さな指を伸ばした。
「……よむと、けんかするの?」
作業台を叩いていた音が止まった。
カイの指が動かない。
エラーラの唇から力が抜け、宙に残った自分の手へ視線を落とした。震えはまだ指先に残っている。
アリアが長く息を吐く。
組んでいた指から、ゆっくり力が抜けていった。
誰も、すぐには答えなかった。
ミミもそれ以上は訊かない。
しばらくすると、それまで声に隠れていた惑星模型の軋みが、また耳に届き始めた。
エラーラの手がゆっくり下がる。
カイは何も言わず、古文書を見たままだった。
ドレイクも腕を組んだ姿勢を崩さない。
二人は、まだ古文書から目を離さない。
けれど、さっきまで工房を押し縮めていた圧だけが、わずかに抜けていた。
2026/9/10改稿
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