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【 Re:write ―俺は異世界を科学でハックする― 】第28話「始動と、腹ごしらえ」

―絶望を、書き換えろ。


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アリアの言葉が途切れたあとも、工房にはしばらく誰の声もなかった。

巨大な蒸留装置の影が床に長く伸び、止まった歯車の向こうでは、『名もなき神々の書』が淡い明滅を繰り返している。その光を挟んで、カイとエラーラが作業台の両側に立っていた。

少し離れた場所で腕を組んでいたドレイクが、アリアからカイとエラーラへ視線を移した。

「……フン」

短く鼻を鳴らして一度だけ頷くと、親指で戦鎚の柄に巻かれた革を撫でる。

「嬢ちゃんの言う通りだ。まず『鉱石』を調べる。次にそれを『叩く』。順序が逆転してりゃ、まともな剣なんざ打てねえ。……当たり前の『工程』じゃねえか」

ドレイクの口元がわずかに歪んだ。もう一度アリアを見る。
「俺たちはただの職人だが、嬢ちゃんは違うな。バラバラの素材を見て、それが組み上がった姿を描き出す……生まれついての『棟梁』だ」

その言葉を受け、カイの視線がアリアへ向いた。しばらく見つめたあと、短く答える。
「……合理的だ。その工程表を、承認する」

エラーラの肩から力が抜けた。古文書へ目を戻しながら、小さく息を吐く。
「……私も、異論は、ない。第一段階が純粋な解析なら……私にも、できる」

次の瞬間、カイとエラーラが同時に作業台へ向かった。
羊皮紙を広げ、羽ペンを取る。二人の手が動き始めると、数式と記号が次々に紙面を埋めていった。

「待て。解析にはまず、このルーンが内包する『概念質量』を定義する必要がある」
「違う! 質量の前に、この光が放つ『魔力波長の特異点』を特定しないと、全ての術式が崩壊する!」

カイの羽ペンが止まる。
「優先順位が間違っている」

エラーラも顔を上げた。
「君の頭が固いだけだ!」

カイとエラーラの声が、作業台の上を行き来する。羊皮紙には数式が増え続け、二人とも手を止める気配がない。

そのやり取りを聞いていたミミが、工房の隅で首を傾げた。
「……あのね。『こうていひょう』って、なあに? おいしいの?」

二人の手が止まり、工房に一拍だけ静けさが落ちた。

やがて、ドレイクの笑い声が響く。
「がはははっ! そうだな、ミミ! まずは、腹ごしらえだ!」

腹を叩きながら笑い、その勢いのまま続けた。
「腹が減っては、戦も研究もできねえからな!」

エラーラの顔から、さっきまでの険が薄れる。カイの口元も、わずかに緩んだ。

乾いた音を立てて干し肉が宙を舞い、カイが受け取る。そのまま噛みちぎると、硬い肉に顎の筋肉が軋み、強い塩気と鉄の味が口の中へ広がった。
隣では、エラーラが干し肉と格闘しながらも羊皮紙を睨んでいる。アリアはその傍らで、ミミの口元を拭っていた。

さっきまで作業台を挟んで飛び交っていた声は途切れ、代わりに干し肉を噛む音が工房へ重なっていく。

窓から差し込む月明かりと、『名もなき神々の書』が放つ異質な光が、散らかった作業台の上で混じり合っていた。


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2026/9/11改稿


お読みいただきありがとうございます。
アリアの提案とドレイクの是認。
そして、ミミの一言が、ついに一行を一つの「家族」にしました。
ここから、彼らの本当の意味での共同作業が始まります。

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