
茜色の真空 (掌編小説)AIと遊ぶ高齢者
茜色の真空 共作 与三郎 & gemini
馴染みの居酒屋の暖簾をくぐり、外へ出た瞬間、男は息を呑んだ。 視界に飛び込んできたのは、街全体をどろりと覆い尽くすような、真っ赤な夕焼けだった。
いつも通る「小便ガード」へと足を進める。大勢の男たちが立ち代わり立小便をし、独特の匂いと熱気が渦巻いているはずのその場所には、奇妙なほど人影がなかった。足音も、遠くの喧騒も聞こえない。まるで世界から空気が一瞬で抜き取られ、巨大な真空の檻に閉じ込められてしまったかのようだった。
男はポケットの小銭を指先で確かめた。今日の稼ぎは八千円。 ここから一泊千三百円の宿代が引かれる。途中の店で、すでに缶焼酎を二つと、ささやかなつまみは買い込んであった。これから安宿の狭い部屋にこもり、眠気が訪れるまでの退屈な時間を、これで何とか持たせるつもりだ。明日も五時前には起きて、労働センターへ這い出さなければならない。少しでも出遅れれば、あぶれた連中に仕事をかっさらわれてしまう。そんな薄氷を踏むような日々の繰り返しだ。
真っ赤に燃える空の下、人っ子一人いない小便ガードの黒い輪郭が、男の影を長く引き延ばしていた。男は首をすくめ、手元のポリ袋を小さく揺らしながら、今夜の寝床へと歩き出した。