
(掌編小説)サンフラワー号に乗って
サンフラワー号に乗って yosaburou (760 文字)
部屋の窓から差し込む光がおおよその時間を教えてくれる。 ベッドの上で過ごす時間がすっかり長くなった。
私の世界はほとんどこの小さな部屋の中に収まっている。病状は年々進み、車椅子に移るだけでも大仕事になった。滅多に外へ出かけることもなくなった。
けれど、目を閉じれば、今でも鮮やかに蘇る旅がある。 二十歳の頃、グループのみんなと一緒に乗り込んだ「サンフラワー号」の船上だ。
あの日、空も海もどこまでも青かった。
車椅子の上で浅い眠りから目覚めると、視界いっぱいに眩しい光が飛び込んできた。太陽の光を浴びてキラキラと輝く水平線。息をのむほど綺麗で、私は膝の上で固くなっていた指先をそっと緩めた。
(夕焼けも、見られたらいいな……)
そんなことを思いながら、胸を躍らせていた。
昼食の時間、船内のレストランには軽快なジャズが流れていた。 車椅子の仲間たちと顔を見合わせ、美味しい料理に舌鼓を打つ。賑やかな笑い声と音楽が混ざり合い、お腹も心もいっぱいの、最高に満ち足りたひとときだった。
食後、甲板に出て潮風を頬に受けた。
車椅子に座ったままでも、船の大きなエンジンの振動が、車輪と背もたれを通じて身体の奥まで重低音となって伝わってくる。 ドン、ドンと響くそのリズムは、まるで力強いドラムのようだった。 それがなんだか心地よくて——同時に、大海原へ向かって進んでいく船の力強さに、少しだけ怖かった。
あのエンジンの鼓動は、私の生きてきた証そのもののよう。身体に刻まれている。ふと浅い眠りから目を覚ます。 窓越しの柔らかな光が、私の頬を撫でていた。
身体は思うように動かなくなってしまったけれど、あの日のサンフラワー号は、今も私の中で波をかき分けて進み続けている。 瞼の裏を開けばいつでも、太陽のあたるあの美しい水平線が、私を待ってくれているのだから。