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自作落語台本「一人だけの卒業式」

    私は立命館大学落語研究会出身で、現在は社会人落語団体「午後の小噺」に所属し、趣味で地域の皆さんに向けて落語をしております。高座名は「立命亭 雷都(らいと)」と申します。

    本作は2024年12月開催の第16回社会人落語日本一決定戦(大阪府池田市)で市長賞をいただいた自作落語「呼名騒動」を原点として膨らませたものです。また、2026年2月開催の第4回アマチュア蝦夷落語大会(北海道幕別町)では、10分間の短縮バージョンで準大賞を受賞しました。

    卒業式の朝、教室には生徒がたった一人だけ。定年を迎える担任の、最後の「呼名」は無事成功するのか。

    まずは台本としてお楽しみください。
    実際の高座の映像も文末に載せています。

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    『一人だけの卒業式(2026年版)』

    学校では、独特な、学校用語とでもいうのでしょうか、そういう言葉があります。

    例えば、学校現場では、「 見取る」という言葉があります。皆様の前で「看取る」という言葉を使いますと……、縁起でもないことを言うなよと思われるかもしれませんが、学校現場での「見取る」といいますと、子どものことを観察し、理解する、ということをそう言ったりします。

    それから今あまり使われない表現に「閻魔帖」という言葉がございます。ご年配の方はご存知ですかね。……あぁ、見事に、ご年配の方だけが頷いておられますけども、

    それでは、「呼名」って聴いたことありますか? これねぇ、あんまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが。教師にとって非常に重要なお仕事なんですよ。卒業証書授与の時に、担任が生徒ひとりひとりの名前を呼ぶ、アレを我々の業界では「呼名」と申します。

    勉強になりますでしょ?。

    この呼名が、担任にとっての卒業式の一番大事な仕事なんです。私も、高校3年生の担任として、今まで4回、卒業生を送り出してきました。教師冥利に尽きるのが、この呼名なんですね。生徒の名前を読み上げる担任の先生の心の中には、ある強い思いがわきあがってくるんです。それはどういう思いかと申しますと、

    「あぁ〜よかった、……噛まずに言えて。」

    そういった安堵感だけでなく、巣立っていく生徒を見送る喜びや、寂しさがあるわけですが、

    【先生】起立、気をつけ、礼! おはようございます。着席。いよいよ、今日という日が来たな。卒業式だ。定年を迎える私にとっても、最後の卒業式になる。 どうだ、みんな、眠れたか? そうか。先生はなかなか寝付けなかった。緊張してるのかな。 しかし、清々しい朝じゃないか。 今日でこのイチマルハチ教室ともお別れだ。なぁ、誰だったか、108教室って、煩悩の数ですねなんて言ってたやつもいたが、今となってはいい思い出だ。 校庭の桜を見てみろ、さすがにまだ咲いて無いがな。覚えてるかー? お前たちの入学式の時は、それはそれは満開だった。4月になれば、あの満開の桜が、新入生を迎えてくれるんだろうな……。あぁ、すまない、年をとると感傷的になっちまう。 よし、それじゃあ、そろそろ出欠をとるぞ。いつも通りに。 青木! 伊藤! 内山! 榎本! 織部! (見回す)

    【和田】先生!先生〜!

    【先生】どうした、和田。君の番はまだ先だぞ。

    【和田】あのー、先生。何してるんですか? 
    この教室  僕 一 人 だ け で す よ 。

    【先生】……わかってる。現実逃避をしてるんだ(大仰に) おい、和田。教えてくれ。なんで君一人だけなんだ。何で君以外の39人がこの場にいないんだ。……どうして誰も連絡をよこさない。先生と、先生と、卒業式を迎えたくないのか!?

    【和田】先生、心配しないでください。みんなそれぞれ理由があるんです。 というのも、今朝、僕のところに連絡がきまして。

    【先生】なんで君のところに連絡がくるんだ。 じゃあ、青木はどうした。

    【和田】欠席です!

    【先生】理由は!?

    【和田】宿題がまだ終わってないそうです。

    【先生】いったい何の話をしてるんだ。授業もとっくにおわってるのに、宿題もなにもないだろう。

    【和田】なんでも、夏休みの宿題もまだ終わってないみたいで。

    【先生】いったいいつの話をしてるんだ。もう三月だぞ。

    【和田】ケジメをつけたいと。

    【先生】何のためのケジメなんだ。優先順位が間違ってるだろ。次は、伊藤だ! 伊藤はどうした。

    【和田】遅刻です!

    【先生】遅 刻 だ とぉ 。あいつは遅刻を、何遍すれば気が済むんだ。なんで遅刻するんだ!

    【和田】なんでも、駅で迷っている外国の方を、親切にも道案内しているみたいで。

    【先生】道 案 内 だ とぉ!? あいつは道案内を、何遍すれば気が済むんだ。 昨日だってそうだ。予行の日。遅れてきたから、どうしたって尋ねたら、 「道案内で、新幹線に乗って九州へ」って。 そんなことできるわけないだろ。いったい、どこにいったんだ。

    【和田】今朝の便で、北海道へ。

    【先生】今度は飛行機乗りやがった!それじゃあ、内山は?

    【和田】早退です。

    【先生】まだ始まってもないのに!? なんで帰るんだ。

    【和田】内山、皆勤だったじゃないですか。なんかぁ、「早退してみたくなった」って、そう言ってました。

    【先生】意味がわからない。 よりによってなんで今日なんだ! それじゃあ、榎本は?

    【和田】忌引きです。

    【先生】き、忌引きだと!

    【和田】はい、なんでも、彼のお父さんの妹さん。つまり、彼のおばさんが亡くなったそうでして。

    【先生】……何度目だ。

    【和田】はい?

    【先生】何度目だと思ってる。榎本の、父親の、妹が亡くなるのは、これで、10 人目だぞ。

    【和田】大家族なんですね!

    【先生】そういう問題じゃない! それじゃあ、織部は!?

    【和田】織部さんは、子供が産まれます。

    【先生】こ、こ、こ、子供!?

    【和田】落ち着いてください。正しくは、織部さんの「お母さん」の子供が生まれそうなんです。 織部さんはその付き添いに。

    【先生】それじゃあ、加藤は!?

    【和田】教習です。

    【先生】あいつは卒業式に来ないで、 自動車学校に行ってるのか。

    【和田】卒業検定があるそうです。

    【先生】こっち卒業してからにしろ!!! それじゃあ、木村は?

    【和田】お弁当が間に合わないそうで。

    【先生】卒業式は昼までだろ。我慢できないのか。紅白饅頭だって出るんだぞ!

    【和田】そうじゃないんです。木村ん家がお弁当屋をやってまして、今朝、大量の注文が入ったそうで、家族総出で拵えてるそうなんです。

    【先生】それじゃあ久保田は?

    【和田】仮病です。

    【先生】は?

    【和田】だ か ら、仮病です!!!

    【先生】わるびれろ!! それじゃあ、

    【和田】先生! 小坂は自分探しの旅に出て、佐伯は真実の愛を見つけに行きました。塩谷は四十肩、鈴木は五十肩、瀬川は六十肩で、欠席です。 園田と仁川は二人仲良くお馬さんを見に行きました。 徳川は埋蔵金を探し、ニトリは家具を組み立て、船越 は 今 まさに 真犯人を追い詰めて、東尋坊へとむかっています!  それから……

    【先生】待て待て待て、待ってくれ。 おい、和田。逆に聞こう。どうしてお前はここにいる?

    【和田】卒業式……来るでしょ。

    【先生】そうだよな! 来るよな! 先生、間違ってないよな!! ……おい、和田、呼名はどうなる。

    【和田】え?

    【先生】呼名だ。呼名だよ!

    【和田】備蓄米?

    【先生】古米だ。 私が言っているのは 呼名 だ。呼ぶ、名前と書いて、呼名だよ。 卒業証書授与の時に、担任は生徒一人一人の名前を呼ぶ。名前を呼ばれた生徒は「はい」と大きな声で返事をしてその場に立つ。予行練習でやったじゃないか!?  いや、たしかに、事情があって卒業式を欠席する者もいる、だけどね、40人中39人欠席……。

    【和田】先生! ……学級閉鎖ですか。

    【先生】できないんだよ! 保護者も来てるんだ。うちのクラスだけの問題じゃないんだ。 それにな、和田。私は今年定年だ。定年を迎える最後の卒業式で、クラスみんなに向けて私は……尾崎豊の『卒業』を歌いたかったんだ。2番まで歌いたかったんだ!!! あぁ、目眩がしてきた。

    【和田】大丈夫ですか?

    【先生】大丈夫だ。いいか。和田。一人だけの卒業式でも、先生は必ずやり遂げてみせる。忘れられない卒業式にしてみせる。だがな……、 一旦、職員室に戻らせてくれ。

    【和田】本当に大丈夫ですか!? すぐ式始まりますから、すぐに戻ってきてくださいね〜〜〜。…………みんな、いいぞ。入ってくれ。

    【青木】(扉を開けて)おぉい!!! 和田。先生、顔面蒼白で、職員室の方へ駆けてったぞ、大丈夫か。

    【織部】そうよ、和田くん。やりすぎじゃないの?

    【船越】そうだぞ、和田。人を勝手に東尋坊へ送りやがって。

    【和田】おぉ、青木に、織部に、船越〜。クラスみんな揃ってんな。 おぉい、みんな、聞いてくれ! 計画通りだ。 先生俺一人だけだって信じたよ。 これから卒業式が始まんだろ。 卒業証書授与ってことんなる。 欠席してても、先生はクラス一人一人の名前を呼ぶことになってんだよ。 先生が俺らの名前を呼ぶよ。 名前を呼ばれたら、入り口から大きな声で「はい」と返事をしてくれ。 先生、みんながいないと思いこんでっから、ぞろぞろぞろ入ってきたらきっと喜ぶよ。 いや、寒いのはわかってんだよ! だから、みんなに、一人一枚貼らないカイロ配ったじゃんかよ。 教師生活の最後にさ、みんなで先生喜ばせてやろうやぁ。 サプライズサプライズ!……ん? あぁ、そうだな。先生まじめだから。 おいみんな、もしかしたらさ、先生一人ずつ、色々と聞いてくるかもしんない。 そん時はな、 適 当 に誤魔化してくれ。
    3年1組、がんばるぞ!おー!

     ぱんぱらぱんぱらぱんぱらららら

    【教頭】「卒業証書を授与される者」…… 先生、先生のクラスです。呼名、お願いします。

    【先生】はぁー。……3年1組。青木 学。

    【青木】(どこからか)はぁぁいい!

    【先生】あぁ(目で探し、見つけ)青木、学!!!!

    【青木】はあああああい!!!

    【先生】青木ぃいいい!青木ぃ、青木ぃ、お前。……宿題は!?

    【青木】先生! 最後の宿題。終わらせにきましたよ!

    【先生】あおきぃいい! 
        そ、それじゃあ。伊藤 裕太!

    【伊藤】はい!

    【先生】道案内で北海道に行ったんじゃ。

    【伊藤】それなんですけど。道案内した外国の方が、アラブの大富豪で。 自家用ジェットで、学校の屋上まで送ってくれました!

    【先生】ほんとかおい!?  
        次は、内山 たかし。

    【内山】はい!!

    【先生】内山!お前、早退したんじゃ。

    【内山】それが先生、俺、考えてみたら、遅 刻 も し た こ と な か っ た ん で す 。

    【先生】それで遅刻してきたのか! 大人物になるよお前は。
        それじゃあ、榎本レン!

    【榎本】はい!

    【先生】お前、なくなったおばさんは?

    【榎本】いや、俺、駆けつけたんすよ。そしたらおばさん、息吹き返しまして〜。 参列してくれてます。

    【先生】すんごい回復力だ!!
        次は、織部 花!

    【織部】はい!

    【先生】織部! お母さんの出産は!

    【織部】うちの猫、「お母さん」ってゆうんです。

    【先生】お母さんって猫か!?
        次は、加藤 賢太郎!

    【加藤】はい!

    【先生】教習に行ったんじゃ。

    【加藤】はい、教習車で駆けつけました。(ハンドルの仕草)

    【先生】よく許してもらえたなぁ! 
        それじゃあ、木村 浩一!!

    【木村】はい!

    【先生】木村! お前!! お弁当の注文は!

    【木村】それが突然、キャンセルになりまして。

    【先生】大変だったな。たくさん作ったお弁当はどうなった!

    【木村】え。  いやー、それなんですけどね。  アラブの大富豪が突然、自家用ジェットでやってきて、買い占めてくれました!!

    【先生】木村ぁ。伊藤に礼言っとけ〜。 それじゃあ、久保田に、小坂に、おいおいおい。そして、最後。和田。

    【和田】はい!

    【先生】どうなってるんだ。クラス40人。みんないるじゃないか。

    【和田】先生ごめんなさい。先生びっくりさせようと思ってサプライズしかけたんです!

    【先生】サプライズ。そんなことをして、先生方にご迷惑を……えー、知ってたんですかぁ! それじゃなにか、おい。みんなで、私の教師人生最後の卒業式を、忘れられないものにしようと、こんなサプライズを!?……刺激が強すぎるよ。でも、ありがとうな。

    【和田】先生。……実は、渡したいものがあるんです。

    【先生】これ以上は心臓がもたない。

    【和田】身構えないでくださいよ。 (隣から何かを受け取り)ありがとう。 先生! これ、僕らからです。

    【先生】……和田、それは。

    【和田】卒業証書! 3年1組 担任 岡本 守 殿。 右のものは、40年間の長きにわたり高校教師としての職務を全うし、多くの生徒を教え導いてきたことをここに証します。令和八年三月十四日。先生の教え子一同より

    そうだ、先生、裏がね、寄せ書きになってるんです。 みんなで書いたんですよ。クラスだけじゃなくて、3個上の先輩とか、もっと前の先輩とか、 クラスみんなで手分けしてOB・OGみんなに声かけたら、びっしりなっちゃって、ほらみてください。まっくろ!

    ちょっと読みますね。

    先生、三年間担任してくれてありがとう。

    先生、文化祭、一緒に焼きそば焼いて、暑かったけど〜、楽しかった〜。

    先生が教えてくれた駅前のラーメン屋、めっちゃうまかったです。替え玉しました、バリカタで。

    先生、リレーの時、すごいおっきな声で応援してくれてありがとう。おれ、すげぇ、がんばれた。

    先生!合唱コンクールの時、歌う前から泣いてましたよね。笑っちゃいそうだったじゃないですか。あの時の金賞。嬉しかったです

    没収された「なめ猫」の免許証、返してください!

    俺、あの頃の先生の年齢に追いつきました。今では結婚して子供もできて、……先生の言葉の意味が今になってようやくわかる気がします。

    反抗してばかりでごめんな!先生が本気で叱ってくれたから、俺変わることができました。

    私が推薦入試落ちた時、「見る目がないのは大学の方だ」と言ってくれた先生。あの言葉があったから、諦めずに一般で、第一志望、合格しました!本当に感謝しています。

    先生!いつまでもお元気で!

    先生!また会おうね!

    また遊びに来るよ先生!

    先生、長生きしてくれよ!

    先生、今までありがとう。

    先生!・・・あ、ごめんなさい先生。これ 40年分あるんで。後でじっくり読んでください。   先生。おめでとうございます。
    ……おめでとうございます。……おめでとうございます!

    【青木】おい、みてみろ。感極まって、先生うずくまっちゃったよ。

    【伊藤】ほんとだ。 おい、先生!らしくないぞ!

    【織部】ねぇ、先生、顔あげてください。

    【内山】先生!俺たちの気持ちうけとってよ!!!

    【生徒たち】先生!先生!先生!先生!先生!

    【和田】先生、僕たちからの気持ち受け取ってください!ねぇ、先生!
        ……三年一組、岡本 守!!!

    【先生】・・・はぁい。


    【和田】先生! おめでとうございます。

    【先生】ありがとう。 お前たち。ありがとう。ありがとうなぁ。

     (和田、おもむろに拍手をしだす。)

    【和田】ご参列の皆様もお願いします!!!

    (会場が拍手に包まれる)

    【先生】みなさんすみません。……催促したみたいで……本来は先生が送るべきはずの立場なのに、みんなありがとう。……和田。忘れられない卒業式になったよ。


    【和田】そうだ先生。僕たち、卒業式が終わったら、カラオケ行こうと思ってるんです。ねぇ、先生。一緒にいきましょうよ。

    【先生】えぇ、生徒と一緒に、カラオケぇ? そんなことができるわけないだろ。

    【和田】先生、なにいってるんですか。尾崎豊の『卒業』。聞かせてくれるんでしょ〜。

    【先生】……二番まで歌ってもいいのかい?

    【和田】三番でも、何番でも歌ってくださいよ!

    【先生】いやー、でもそんな、えー。若いもんにまぎれてそんなことできるわけがないだろ。だって、私が歌う歌だってそんな、君たちにはわからないだろうし。お前たち、若いもんの歌なんて知らないよ。……ミセスなんて知らないよ。……”あっちのけんと”だか”こっちのけんと”だか……どっちのけんとでもいいんだけどさぁ。  とにかく、私は、そんな、えぇ? 一緒にいくだなんて、えぇ、そんなぁ…………ぜひご一緒させてください。

    【和田】そしたら、先生、駅前のカラオケ屋とってますんで来てください。僕、幹事なんで、先に一人で入って待ってますから。えーと、部屋番号がイチマルハチ。奇遇ですね、先生。煩悩の数とおんなじです。

    【先生】なに!? 部屋番号が108でぇ、和田が先に入ってるぅ。……おいみんな! ちゃんと来てくれよ。 また、一人だけはこりごりだ。

    でんでん

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    実際の口演はこちらです。

    台本と実演には相違がある箇所もございます。

    また、動画ではピアノの生演奏によるちょっと変わったハメものにも取り組んでおります。

    全てひっくるめてお楽しみいただければ幸いです。

    https://youtu.be/pDqb0XyaVmQ

    お読みいただきありがとうございました。

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