
集塵トイレ【ショートショート#53】【422字】
目覚めると、そこは床の上だった。すきま風がひんやりと冷たい。そして、辺りは真っ暗だった。時間がやってきた。ルンバは充電スペースを離れて、清掃を開始する。
ここはトイレの床なのだろうか。とても汚い。バンパーがあちこちにぶつかる。やれやれ。苦労しながら仕事を続けていると、ふわりと冷たい風がルンバを撫でた。そして、何者かに持ち上げられた。
「私を吸い込むつもり?」
それがトイレの花子さんとの出会いだった。花子さんは白いシャツに赤い吊りスカートという古めかしい出で立ち。この家の便所に半世紀前から住んでいるという。
「やめてったら」
仕事をしようとするたび、彼女に持ち上げられてしまう。参ったな。
「……なにこれ。不良品じゃない!!」
数週間が経ったある日、家の主人らしき中年女性が、ルンバをつまみ出した。粗大ごみのシールを貼られて、ゴミ捨て場で雨に濡れていると、ぼんやりとした人影が見えた。
「行きましょ? 掃除もロクにできない人間に、愛想が尽きたの」