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Photo byelectric_rex08

髭は恋をする。【ショートショート#62】【430字】

     その髭は恋をしていた。初めての美容院で担当になった女性にひとめぼれをしていた。

     洗髪中に主の目を盗んで、こっそり話しかけてみた。

     彼女は髭に笑いかけてくれた。またここで逢いたい、と髭は切に願った。

     だが、主の一言がその願いを砕いた。

    「美容師さん、この髭を全部剃ってくれ」

     髭の主は漫画家で、髭は作家のトレードマークであった。

    「僕の連載の打ち切りが今日決まってね。気分を変えたいんだ」

    「『恋するビアードパパ』終わっちゃうんですか!? 私、小学生の頃からファンでした……」

    (なぁ君、助けてくれ。剃られたくないんだ)

     髭はヒソヒソと声をかけた。

    (ダメよ、仕事だもの)

    (髭をそのままにするよう説得してくれ)

    (でも……。わかった、やってみるわ)

    「お客様。そのお髭、本当に剃ってしまうんですか。私、先生のあの姿が好きだったのに」

    「すまんな」

    「私、ファンやめてしまうかも……」

    「……わかった。今日はこのままにしておこう」

     髭は胸を撫でおろした。

     

    「……変な店だったな。あとで永久脱毛の予約しとこう」






    【ご報告】

    ナレーター・朗読家の吉史あん様に拙作を動画にしていただきました。ぜひ、こちらの記事もご覧ください!


     
     
     
    短い小説を書いています。楽しむことを忘れずに、をモットーに創作を続けています。花澤薫さま主催の「一枚の写真から文芸賞」で佳作を、「第二回失われる者たち文芸賞」で期待賞を頂きました。

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