
戦闘員Aさんの義務は生き残ることです 第1話 「戦闘員Aさん、会議前に死亡フラグが立つ」
【注意】 この作品に登場する人物・団体・思想・価値観はフィクションであり、 現実のいかなる人物・団体・主義とも関係ありません。
また、特定の思想や行動を推奨する意図はありません。 物語世界の内部OSに基づき自律的に動作しています。
テーマソング+予告 戦闘員Aさんの義務は生き残ることです|観察者AiMe
ディスプレイの明かりだけが部屋を支配していた。 その薄暗い空間で、戦闘員Aはまだ集まらない幹部たちを待っている。
幹部の皆様です。
……いや、なんで僕がこんな冷や汗かいてるんでしょうね。
幹部様の反感を買えば明日はない。戦闘員たちの鉄の掟だ。
僕は誰に向かって弁明しているんだろう── そんなことを考えた瞬間、 会議室の扉が派手に開いた。
「お待ちしておりました。皇帝様。どうぞこちらの席へ」
時代にそぐわないほど高貴な装いの幹部様が入ってこられた。 僕は慌てて席を引き、恭しく案内する。
……手順を一つでも間違えたら終わる。 いや、終わるっていうか消える。跡形もなく。
「ふむ……待たせたのかな?」
ゾクッと背筋に冷たい刃がつきたてられたかのように体が硬直する。
「いえ、決して待ってなどは……」
……まずい。まずいまずいまずい。
皇帝様は何かを理解したかのように深く頷き、僕を初めて視界に入れて告げた。
「エアコンの温度低すぎないか?もうちょっと気を遣うのが、従者の務めだ」
「は、はいっ」
返事より先に体が動いていた。 温度を28度に上げ、慌てて元の位置に戻る。
……そりゃ背筋も凍るわけだ。18度……。
誰だ……設定したの……。
温度を見たら余計寒くなった気がする……。
轟音とともに扉が吹き飛び、 破片が僕の頬をかすめていった。
……えっ!? 襲撃!?
いや違う。 戦闘員二人に担がれた女帝様だった。
「この部屋、寒すぎじゃないかしら?私末端冷え性だからこういうのだめなのよね。もうちょっと気を使いなさい。そこの下っ端」
反応する間もなく、次の幹部様が入ってきた。
「少し……ひんやりしてるのね。
……深い深い眠りにつけそうなのね」
僕は頭を下げ、覆面の下で必死に愛想笑いを作る。 ……いや、誰にも見えないんだけど。
「うわ……幻想……またそんな気持ち悪いの持ってきてるの……」
幻想様はなぜか、購買に売っている最低人気の戦闘員等身大抱き枕を抱えている。
「博士はいつもうるさいの。このダサダサな格好がめでる対象として最高なの。
これを抱えてると、夢の中で大量の戦闘員さんが出てきて、遊べるの」
博士様は、あからさまに引いた顔をして一歩後ろに下がる。
「僕には、理解できない……。
頭のねじ外れてんでしょ、あんた」
幻想様は不機嫌そうな目で博士を見る。
僕には、その動きと連動して抱き枕に描かれた戦闘員が博士の方を向いた気がした。
……気のせいに違いない
「博士の方が気持ち悪いの。いつもいつも変な色した薬混ぜて、ニヤニヤしてるのは、女の子としてどうかと思うの」
博士はいつの間にか手に持っていたフラスコを落とす。
「へぇ……そう言う事いっちゃうんだ。
ねぇ?あんたにちょうどいい薬ができたんだ。よく眠れそうな良い薬が……。
あんたにあげるよ!!」
博士は何の予備動作もなく、取り出したフラスコを投げつける。
「危ない!」
僕がそう言うと、初めて幻想様が僕をみてニヤリと笑う。
フラスコが幻想様にぶつかる前に、
幻想様の周りの空気がダブったかのように揺らぐ、
そして文字通り抱き枕の中から屈強な戦闘員が飛び出してきてフラスコを砕いた。
あたりには薬品の甘ったるくて、それに苦みが混じっているような異臭がした。
「面白いのがいるの……。あなたも私の夢に入ってみる?」
小首をかしげながら、僕を見つめる目に僕は背筋がぞっとする。
ニコニコしながら僕を見つめる目に吸い込まれるように、僕の足は勝手に幻想様の元へ歩いていく。
目の前に幻想様がいる。
僕はなぜか頭を撫でられたい欲求に駆られ、膝をつく。
視界の端には、気持ち悪そうに口元を抑える博士様がいる。
しかし僕は目の前にいる幻想様をどこか夢うつつのまま見つめる。
幻想様が興奮したような笑みを浮かべて僕の頭に手を伸ばす。
その待ち望んでいた手が僕に触れることはなかった。
「はい、そこまでですよ」
白のカソックを着込んだ女性は幻想様の手を掴んでいた。
そしてその女性は、優しそうな笑みを僕に向けていた。
聖母様だ。
聖母様は戦闘員の中でも配属希望第1位の幹部様だ。
無事入れた人たちがどうしているかは噂で聞かないけど、実際どうなんだろうか?
僕も少し入ってみたいと思っている。
聖母様は僕のところまで歩み寄り、「大丈夫?」と声をかけ、そっと立ち上がらせてくれる。
なんの花だろう?ふんわりとした花の優しい香りがした。
「ありがとうございます。大丈夫です!!」
僕がそう言った瞬間、 聖母様の微笑みがゆっくりと裂けるように横へ広がっていった。
……さっきまでの優しさが、別の何かに変わっていく。
「あら、よかった。大丈夫じゃないと面白くないから」
その顔から目が離せなかった。
いや、離せるわけがなかった。
僕が硬直していると、部屋のあちこちからとんでもない言葉が飛んでくる。
女帝「話を勝手に進めないでよ。ちょうど最近椅子が壊れたところで、新しいのが欲しかったのよ」
皇帝「ふむ、議題はこの者をどう扱うかということだな?
ならば、俺の世話をさせる栄誉を与えよう。
ちょうど従者が足りていなかったから、ちょうどいい」
幻想「だめ……この子は戦闘員コレクション第100号の記念にする」
博士「ダメダメ!!そいつは僕がもらうの。
新しい薬の効果が見てみたいんだよ。
前のモルモットは刺激が強すぎたみたいで壊れちゃったからさ、ちょうどいいから、あとで僕のラボに来てね」
聖母「いけませんね。私が選んだおもちゃを、皆様で勝手に取り合いされては。おしおきしちゃいますよ?」
僕の絶望とは関係なく、話は勝手に進んでいく。
「ここは多数の幸福を取るべきだと思う」
博士はスカートからのぞく足を組み替え、堂々と語り始めた。
「僕が使ってから聖母ちゃんにあげる。
そしたら二人の目的を達成できるでしょ?
他のじゃ一人独占になっちゃうから、多数決でもこっちが優勢でーす」
聖母は嬉しそうに微笑む。
「あらあら、素敵な提案ね。私は構わないわ。
形が残っていればそれでいいから」
「成立だね」
「成立ね」
二人はがっちりと握手を交わす。
……あれ? 僕の意思はどこにあるのでしょうか。
女帝は2人の戦闘員に担がれたまま、堂々と指をさす
「勝手に決めないでもらえるかしら?多数決なら私の勝ちよ。私の一票は他のより重いんだから」
。
皇帝は机を叩き、勢いよく立ち上がった。
「下らんな。皇帝の一存こそが決定である。それを無視した決定になんの意味がある?」
「だめ……許されない!
そのフィギュアは私の!!」
幻想様はさっきまでの寝ぼけたような姿はどこに行ったのか、
髪がまるで水中に浮いているかのように逆立っていた。
一瞬の沈黙の後、
波の音が聞こえる。
その音が、合図だった。
皇帝の拳の風圧が僕を吹き飛ばし、
博士の薬が僕を焼き、
女帝の鞭が僕の体を切り裂き、
最後には突然現れた波に飲み込まれる。
……あー、誰も会議に参加したがらなかった理由がようやく分かった。
だって……まだ……会議……始まってない……
独白が終わる前に生理的嫌悪感から勝手に言葉が出てくる。
「あ……気持ち悪い……またいつもの……体……が崩れてく……」
僕が最後に見たのは、どこまでも優しげな聖母様の笑みだった。