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ブラックアウト 第64話 Null Canon (5)

     七月六日土曜日。

     電車から見える風景はとても穏やかな日常を写していた。

     入道雲と強めの陽の光が夏の始まりを告げていた。

     電車に乗りスマホを見ながらいつも通りのルーティンを過ごす人の群れ。

     何の疑問も持たずに、この管理された世界を生きている。

     世界の秘密を知った今、目に見える光景全てが不自然に見えた。

     この車両に乗っている奴ら全員、人間じゃなくナルカノンのエージェントだとしてもおかしくない。

     実際何人かは監視しているのだろう。

     病院に着くと、待合室から聞き覚えのある声がした。

    「あっ!日々!!」

     手を振ったのは柳咲りゅうさきだった。
     その隣には今井も一緒にいる。
     二人とも私服で座っていて、普段の制服姿とは違いお洒落で大人っぽく見えた。

    「……うす」

    「あれ?日々……照れてる?」

     俺のぎこちない挨拶を見逃さない今井。

    「……じゃあ、他の生徒達は何一つ覚えてないってことか?」
     
     二日間体が動かず、学校を休んでいた俺はその後のことについて詳細を聞いた。

    「そう。全員七月一日から三日にかけての記憶が消去されたみたい。

     『チューナー』だった文化祭実行委員は最初からいなかったことになってたわ……」

     今井がキャップを取り髪を直しながら答えた。

    「赤田も?」

    「……あいつは学校に来なかったわ。あと、二瓶もね。動画の加害者達は全員休んでるみたい。まさか本当に記憶が消されるなんてね」

     今井はまた深く帽子を被り直した。

    「本人達に事情聴取したところで、記憶ないんじゃ意味ないか……」

     柚凪ゆずなみうの話だと今頃赤田たちは学校に呼び出され事情聴取受けている頃だ。

     ちなみにフリークスメンバーは柚凪みうの家に集まってリアルタイムで盗み聞きしているらしい。
     俺も、峯のお見舞いを終えた後に合流する予定だ。

     峯の入院している個室まで来ると、コンコンと柳咲がドアをノックした。

    「……どうぞ」

     部屋から小さな声が聞こえ、ドアを開けると、点滴中の峯が、弱々しく微笑んでいた。

    「峯……」

    「やあ……みんな」

    「監督!!無事で良かった」

    「監督……良かった」

     峯はしっかり生きていた。

     この世界の運命に抗い、ナルカノンのシナリオを書き換え生き残った存在。

     また世界が牙を剥いてくるかもしれないが、やることは何も変わらない。最後まできっと抗い続けるだけだ。

    「来週には退院できそうだって。傷の再生が早くて驚いてたよ」

     峯は背中の傷を見せた。

    「良かったね!!監督!!それじゃあ、夏休みの計画立てよ!」

     意気揚々と柳咲が提案した。

    「文化祭の出し物決めはリセットされてないのか?」

    「そうなの。亀井先生がしっかり覚えていたから!はいこれ!監督にプレゼント買ってきたのよ!」

     柳咲はそう言うと、峯に真っ白いノートを渡した。

    「ありがとう……え、えっとこれは?」

    「脚本ノート!入院生活、暇かなと思ってね!」

     満面の笑みで柳咲が言った。

    「さすが委員長……抜け目ない」

     今井が呟いた。

     ようやく奇妙な三日間が終わりを告げた。

     この三日間から抜け出すために二十三回も繰り返し過ごしていたらしいが、そもそもなぜ橙里とうりだけそれを記憶できたのだろうか。

     この後、柚凪みうの家に行って聞くとしよう。その前に壊れたスマホを買い替えに行こう。

                  ——完——

     
     
    小説書いてます。 冴えない青春から脱却しようと試みるけど、それは予め決められたシナリオの上で踊らされていた……学園✖️SF✖️異能バトル『ブラックアウト』 創作大賞狙います。

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