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Photo bysuisuisunameri

金木犀の香り

    ayu(孤痔阿気)

    秋の気配を告げるのは、
    カレンダーよりも、あの甘い香りでした。

    実家では父が色々な植物を育てていたけれど、
    当時は全く興味がありませんでした。

    ただ自転車通学で使っていた
    ガレージ裏の金木犀だけは別でした。

    秋口になるとあたり一面に漂う
    あの濃厚な香りは、
    たった一週間ほどで駆け抜けるように
    散ってしまうはかなさも含めて、
    今でも鮮明に記憶に残っています。

    大人になり、今のマンションの周りには
    金木犀の木なんて一本もありません。

    秋になってもあの香りが
    風に乗ってくることはなく、
    季節の移り変わりが少し寂しくなっていました。

    そんな矢先の、ここ数年の「金木犀ブーム」
    秋が近づくと、ドラッグストアの棚は
    ハンドクリームや入浴剤など、
    オレンジ色のパッケージで埋め尽くされます。

    これだけの商品が街にあふれるのを見ると、
    「それだけ多くの人の記憶に
    深く刻まれている匂いなんだなあ」
    としみじみ思います。

    植物に関心がなかった私でさえ
    特別だったのだから、
    みんなそれぞれの胸の奥に
    「金木犀の風景」をしまっているのでしょうね。

    最初は「そこまでしなくても……」
    と冷ややかな目で見ていましたが、
    ある日テスターで試した
    ハンドクリームの再現度の高さに
    一瞬で心をつかまれました。

    「うわ、あの実家の匂いだ……!」

    外に出れば本物の木はなく、
    聞こえるのは車の音や生活音ばかり。

    それでも、チューブをひと押しするだけで、
    一瞬にして自転車を漕いで帰った
    実家のガレージ裏へワープできます。

    自然の木から漂う匂いそのものではないけれど、ほんの一週間であっという間に
    通り過ぎてしまうあの香りを、
    こうして手元で長く楽しめるのも
    悪くないものです。

    今年もそろそろ、
    あのハンドクリームを買い換える時期だな、
    とドラッグストアを覗いています。

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